探偵ガリレオ
著者:東野圭吾
出版:講談社 講談社文庫
突然、燃え上がった若者の頭、心臓だけ腐った男の死体、池に浮んだデスマスク、幽体離脱した少年……警視庁捜査一課の草薙俊平が、説明のつかない難事件にぶつかったとき、必ず訪ねる友人がいる。帝都大学理工学部物理学科助教授・湯川学。常識を超えた謎に天才科学者が挑む、連作ミステリーのシリーズ第一作。解説・佐野史郎---データベース----
ようやく「ガリレオ」シリーズの原点りたどり着きました。現在までにシリーズは10冊刊行されています。うち長編が6作品、短編が4作品となっています。なお、2022年に刊行された「ガリレオの事件簿」は中学生などを対象にしたジュニア版で、既存の作品を改変した(十代前半の読者向けに書き換えた)内容となっています。
1 1998/05 探偵ガリレオ 短編集
このガリレオシリーズの記念すべき第1作目となるのは『探偵ガリレオ』です。この本は短編小説5作、「燃える(もえる)」「転写る(うつる)」などが収録されています。初出は「燃える」『オール読物』の1996年11月号、「転写る」1997年3月号、「壊死る」1997年6月号、「爆ぜる」1997年10月号、「離脱る」1998年3月号となっています。一般の読者ならテレビドラマ化された映像の方がお馴染みなのかもしれません。福山雅治が主人公の湯川学を演じていましたが、小生はこの作品がドラマ化された当時はほとんどテレビを見ていませんから全く馴染みがありません。テレビドラマ化は脚色されていて、いい意味刑事役の草薙が無視されていましたから本来の小説の醍醐味は味わえなかったと言っていいでしょう。そういう意味では最初にオリジナルの小説から入れたことはラッキーだったのでしょう。
■燃える
ある日、人通りの少ない「花屋通り」で若者が焼死する事件が発生します。警察はガソリンが入ったポリタンクに火がついただけの事故として処理しますが、目撃者の証言から「謎の発火」があったことがわかります。警視庁捜査一課の草薙俊平は、謎の正体をつきとめるために大学時代の友人である湯川のもとを訪ねて、事件の真相に迫っていくことで物語はスタートを切ります。作者の東野圭吾氏はもともと理系出身者で、ガリレオ内の推理も理論的に証明可能なトリックを推理していきます。
■転写る
中学校の文化祭の飾られていたリアルなデスマスク。それは、釣りをしていた中学生が、池で拾った金属製のマスクに石膏を流し込んで作ったものだった。しかし、そのデスマスクを見て「兄さんよ、間違いない・・・」と、顔を青ざめる女性。デスマスクに隠された真相とは?
■壊死る
浴槽で見つかった男性の死体。彼には心臓病があったため、入浴中の心臓麻痺による病死と考えられました。しかし、死体の胸には奇妙な痣があり、その痣は、細胞が瞬間的に破壊され壊死したために出来たものと思われました。解剖医は、こんな症例は聞いたことがないということで、湯川が登場してきます。
■爆ぜる
海水浴場を襲った突然の爆発。ビーチマットで沖に浮かんでいた女性が犠牲となった。テロや殺人などの犯罪が予測されたが、不思議なことに爆発物の痕跡がまったく見つかりませんでした。唯一の手掛かりは、犠牲となった女性に爆発直前に近づいた一人の男がいたことです。
■離脱る
マンションの一室で見つかった女性の殺害死体。元お見合い相手の男性が容疑者となった。彼は、犯行時刻には、別の場所で車を止めて休憩していたと主張するが、目撃者がなかなか現われなかった。やっと、その時刻に彼が乗る車を見たという少年が現れたが、その証言は信憑性に欠けるものであった。なぜなら、物理的には絶対に見えない位置にも関わらず、「幽体離脱をして目撃した」というからである。
オカルトチックな超常現象を科学で実証してしまう、探偵ガリレオの世界観はわずか60ページ足らずの短編の中に凝縮されているというのがミソでしょう。各エピソードはいずれも、物理学の知識が光る驚異的なトリックと、愛憎や嫉妬、復讐や自己防衛などの感情が絡む人間ドラマが展開されます。理系作家の面目躍如といった感じです。そして、科学と人間の関係を問いかけるのです。また科学的な事実だけでなく、犯人の心にも切り込む湯川の推理も冴えています。時に優しく時に厳しく時には皮肉っぽい湯川の言葉も本書の魅力の一つなんでしょうな。で、子供と接するとジンマシンが出るという設定もこの後の展開にどう影響してくるのかも見ものです。