アブソリュート・チェアーズ
9月23日まで愛知県美術館で開催されている「アブソリュート・チェアーズ」展に出かけてきました。そもそも「アブソリュート」ってなんぞやということですが、要は「完全に解き放たれた椅子たち」ということなんでしょう。この「アブソリュート・チェアーズ」展、2024年2月17日(土)~5月12日(月)に埼玉県立近代美術館で開催され、愛知県美術館へ巡回してきました。
椅子は多くのデザイナーや建築家の創造性を刺激する絶対的なテーマであると同時に、アーティストにとっても魅力的なモチーフとなってきました。玉座のように権威の象徴となることもあれば、車椅子のように身体の補助となることもあり、電気椅子のように死や暴力とも無縁ではない椅子。また、私たちが椅子に座って向き合えば、そこには関係が生まれます。この上なく身近でありながら、社会や身体との密接な関わりの中で幅広い意味や象徴性をまとった椅子は、まさに究極の日用品と言えるでしょう。
アーティストたちは椅子のもつ意味をとらえ、作品を通じて社会の中の不和や矛盾、個人的な記憶や他者との関係性などを浮かび上がらせてきました。アートのなかの椅子は、日常で使う椅子にはない極端なあり方、逸脱したあり方によって、私たちの思考に揺さぶりをかけます。
本展覧会は、主に戦後から現代までの美術作品における椅子の表現に着目するものです。椅子をめぐる国内外の平面・立体・映像作品83点を紹介し、アートのなかの椅子の機能や含意を読み解きます。
1.「椅子の美術館」が新たな視点で挑む、現代アートにおける「椅子」のテーマ。
2.「椅子」がもつ多様な意味や象徴性を、現代アートを通して徹底考察。
3.「椅子」をめぐる国内外の平面・立体・映像作品、83点(作家数28組)が集結。
第一章 美術館の座れない椅子
第二章 身体をなぞる椅子
第三章 権力を可視化する椅子
第四章 物語る椅子
第五章 関係をつくる椅子
出品作家
フランシス・ベーコン、ミロスワフ・バウカ、ハンス・オプ・デ・ビーク、ダラ・バーンバウム、ミシェル・ドゥ・ブロワン、副産物産店、クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)、マルセル・デュシャン、アンナ・ハルプリン、檜皮一彦、石田尚志、工藤哲巳、スッティー・クッナーウィチャーヤノン、草間彌生、ジム・ランビー、宮永愛子、名和晃平、岡本太郎、オノ・ヨーコ、ダイアナ・ラヒム、ローザス、シャオ・イーノン&ムゥ・チェン、高松次郎、竹岡雄二、潮田登久子、アンディ・ウォーホル、渡辺眸、YU SORA
日本初展示となるカナダの作家、ミシェル・ドゥ・ブロワンが滞在制作を行い、地下センターホールに 約40 脚の会議椅子を用いた新作の彫刻作品《樹状細胞》(*木の枝のような突起をもつ免疫細胞の一種)を設 置します。本作品は2005 年の《ブラック・ホール・カンファレンス》に基づきながら、日本国内で入手 した椅子を素材とし、当館の空間に合わせて再構成しています。椅子が寄り集まって形成される集合体 は、人間社会の暗喩と捉えることもできるでしょう。
今回は通常の展示と違い、いつもならコレクション展が開かれている正面左がこの「アブソリュート・チェアーズ」の会場になっていました。作品はほぼ撮影OKなのですが、ところどころ撮影禁止の作品が置かれていていちいち確認してからの撮影になりました。
第1章 美術館の座れない椅子
本来は展示の入り口につき背の作品があります。これは愛知県美術館では撮影禁止なのですが、先の埼玉県立近代美術館ではOKだったようで写真があっぷされていましたので借りてきました。
マルセル・デュシャン《自転車の車輪》1913/1964
高松次郎《複合体(椅子とレンガ)》1972
無題(金色の椅子のオブジェ) 草間彌生
座ることを拒否する椅子 岡本太郎
ジム・ランビー《トレイン イン ヴェイン》2008
チラシのイメージにも使われている作品ですが、実際には床はストライプにはなっていませんでした。全然イメージが違っていて少々がっかりです。
第2章 身体をなぞる椅子
ハンス・オプ・デ・ビーク《眠る少女》2017
灰色一色ですが、ソファの柔らかな質感や少女の安らかな寝顔にほっこりします。作品リストには「ポリエステル、アルミニウム、塗料」となっています。不思議なリアリティがあります。
檜皮一彦の車椅子の車輪の回転を動力にしてマフラーを編む
「車いす編み機」
1枚目の映像は7月27日(土)に開催されたワークショップでこの「車いす編み機」で名古屋の街を歩く様子の映像が展示されていました。
工藤哲巳の、椅子の上に巨大でグロい頭部(?)がキスをしているような《愛》1964
第3章 権力を可視化する椅子
クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)《肘掛け椅子》2012
銃でできた椅子! アフリカ・モザンビークの内戦後、残された銃を農具などと交換するプロジェクトで集まった銃で作られたのだそうです。背もたれなどに使われているソビエト製の銃AK47は、モザンビークの国旗にも描かれています。この写真の一枚目の背景はアンディ・ウォーホル《電気椅子》1971年です。
ジョージ・シーガル ロバート & エセル・スカルの肖像 1965
ミロスワフ・バウカ《φ51x4, 85x43x49 》1998
下に置かれた2つの穴のある盤には塩が敷き詰められています。人間を拘束し拷問する椅子をイメージしているそうです。
第4章 物語る椅子
名和晃平《Pix-Cell-Tarot Reading (Jan. 2023)》
椅子とテーブルがびっしりとガラスの球体で覆われています。テーブルにはタロットカードが並べられています。
宮永愛子《waiting for awakening -chair- 》2017
ナフタリンで型どられた椅子が樹脂の中に閉じ込められています。裏のシールをはがすと、ナフタリンは徐々に気化して、樹脂の中に椅子の形の空洞ができのこっています。
YU SORA《my room》2019
第5章 関係をつくる椅子
ミシェル・ドゥ・ブロワン《樹状細胞》2024
「副産物産店」がアーティストのアトリエや美術大学で収集した廃材/副産物を使って作った椅子
スッティー・クッナーウィチャーヤノン《ステレオタイプなタイ》2005
展示室7は「副産物産店」がアーティストのアトリエや美術大学で収集した廃材/副産物を使って作った椅子で、どれも実際に座ることができます。
オノ・ヨーコ《白いチェス・セット/信頼して駒を進めよ》1966/2015
大きいスクリーンでは、ダンスワークショップ「《Re: ローザス!》を踊る!」で、ここ愛知芸術文化センターの1階ホールやパブリックスペースで撮影された大勢が踊る映像が映されていました!
実用的な椅子についてはこちらの展覧会にも出かけています。