メータ/「復活」
マーラー
交響曲第2番ハ短調「復活」
1.第1楽章:アレグロ・マエストーソ 20:48
2.第2楽章:アンダンテ・モデラート 9:59
3.第3楽章:スケルツォ 15:49
4.第4楽章:原光「おお、紅の小さき薔薇よ!」 15:59
5.第5楽章:スケルツォのテンポで(荒野に叫ぶ者) 16:30
ソプラノ:イレアナ・コトルバス
メゾソプラノ:クリスタ・ルートヴィヒ
指揮:ズービン・メータ
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
合唱指揮:ノルベルト・バラチェ
録音:1975.2 ウィーン ソフェインザール
P:レイ・ミンシェル
E:ジェームズ・ロック、コリン・ムファット、ジャック・ロウ
LONDON SLA1098/9
原盤 ZAL13796-9 SDLB4409-12
この時ズビン・メータ39歳、若き日の有名な記録です。ウィーンフィルを振っての初のマーラーでした。やがて彼はこの巨大なる「復活」を幾度録音を繰り返しますが、もう、引退しましたから結局マーラーの交響曲全曲は録音していません。まあ、全集にはあまり興味がなかったんでしょうなぁ。アナログ完成期の録音ということでは一番最初のこの録音が音質、演奏とも一番かと思います。ロイフィルと共に華々しい活躍を見せていた頃ということで、若者らしくきりりと引き締まって、やや速めのテンポにちょっぴり前のめりになりながらも、デッカの看板スターだったショルティでも叶わなかったウィーンフィルを向こうに回して老獪な一流オーケストラを統率して全力疾走するのも若さの勢い、ウィーン・フィルの豊満かつ美しいサウンドをしっかり引き出しているというところが魅力なんでしょう。
このジャケットデザインは日本独自のものでした。多分録音セッションの時に撮影されたものなんでしょう。イギリス本家のデザインはイタリアの画家ティティントレットの「天国」という作品の部分を使っていました。日本人にはちょっとイメージしにくいものだつたんでしょうなぁ。
第1楽章は冒頭から俊敏な勢いが感じられ、引き締まった響きで開始されます。ウィーンフィルは通常の演奏ではコントラバスを左手に配置することが多いのですが、ソフィエンザールでのデッカの収録ではステレオを意識して右側に配置されています。金管も右奥で効き映えのする配置です。テンポはやや速めで弛緩することなく、曲に相応しい緊張感が表現されています。特段、アクの強い箇所はあまりないのですが、11分過ぎからの低弦で始まる静かな箇所だけはテンポをかなり落として重苦しさが強調されています。終盤の強奏部も切れ味が鋭く、スピード感も十分。ティンパニの打ち込みも強力で素晴らしい集中力が感じられます。終結部も丁寧な仕上がりといえます。
第2楽章 はやや遅めのテンポでカッチリとアクセントと付けた開始が印象的ですが、音楽はすぐにしなやかになり柔らかな響きで歌い上げます。チェロセクションの長いフレーズも朗々とした歌が実に暖かみがあり素晴らしいです。この辺りはさすがウィーンフィルらしい表現といえます。ピチカートの箇所はやや控え目でハープとのバランスも良く、終盤にかけても美しい華のあるしなやかな演奏を聴かせます。
第3楽章は快適なテンポ感で諧謔味もほどほどにあります。ここでもウィーンフィルの上手さが感じられます。明快な木管群も多彩な響きで、強力に打ち込まれるティンパニが全体を良く引き締めています。トランペットからの旋律もゆったりと良く歌われていますが、甘すぎることはありません。終盤もオケをグイグイと牽引するメータの力量が感じられる表現です。
第4楽章もテンポはかなり遅めの設定です。ルートヴィヒの歌唱は深みのある表現力で真実味が感じられます。中間部では暖かみがあり、実に雰囲気豊かな美しい仕上がりです。
第5楽章は鮮烈な開始が豪快です。前半の各場面の描き分けも適切で弛緩することはありません。金管中低音のコラールもチューバを強めにならして安定感のある響きが印象的。前半の強奏部から非常にスケールが大きく、またffの鳴らし方も思い切りが良く、バランスに難がないわけではありませんが豪快そのものといえます。若さがなせる業かウィーンフィルをここまで強力にドライブする力はたいしたものです。
後半は合唱、独唱ともに非常に素晴らしい仕上がりでメータの落ち着いたテンポ設定の下、合唱は非常に深く、静謐、荘厳といえる歌声を聴かせます。またコトルバスのソプラノも品のある美しい歌声が素晴らしく、ルートヴィヒとの二重唱の部分など実に見事な表現といえます。クライマックスに向けては落ち着きのある合唱部分から一転、開放感溢れる前進性を示した表現となり、重厚感溢れる合唱とともに説得力のある豪快な頂点を築きます。オルガンは別録りの合成ですが、違和感はなくオケともども眩いばかりの力感を放射し、充実感のある響きを聴かせます。そしてバラッチュ率いる国立歌劇場の言葉の意味をかみしめるかのような見事な合唱。5楽章の「Bereite dich!」から俄然、音楽は熱を帯びてきて圧倒的なクライマックスに向けてひた走る。そのさまが実に気持ちがよろしい。
今、手持ちにはこのマーラーの2番はテンシュテット/LPO、バーンスタイン/ニューヨークフィル、ショルティ/LSO、ブーレーズ/ウィーンフィル、ノイマン/チェコフィル、ハンス・フォンク/ハーグ・レジデンティ管弦楽団などの録音を所有していますが録音の良さ、ウィーンフィルの美しさ、独唱の素晴らしさという点でいまだに光を失っていませんなぁ。
そして、こちらはアナログ盤です。いい値段がついています。