殺人現場は雲の上
著者:東野圭吾
出版:光文社 光文社文庫
新日本航空スチュワーデスのABコンビといえば、早瀬英子ことエー子、藤真美子ことビー子の二人組。ルックスも性格も正反対の二人は社内でも有名な大の仲良し。しかし、二人がフライトで遭遇するのは奇妙な謎だった⁉
ホテルで殺された乗客、シートに残された赤ちゃん、遺書の落とし物……。聡明なエー子とおっちょこちょいなビー子の二人が推理に挑む!---データベース---
手元に「作家生活25周年特別企画全タイトル本人コメント収録東野圭吾公式ガイド」という文庫本サイズの本があります。文藝春秋が発行したものですが非売品です。奥付を見ると2011年6月6日の発行になっています。それによるとこの本は東野圭吾の十二冊目の著作ということになります。ただし、これは文庫本として発売された順番で作品自体は1988年に実業之日本社ジョイノベルシリーズの新書版で発売されています。
傑作ユーモア推理小説とタイトルの横にあるだけあって軽い気持ちで読めます。短編集です。1992年のこの本の頃はまだスチュワーデスでしたが、1987年にはすでにANAはキャビンアテンダントという名前を使っていました。ちなみにJALは1996年にこの名称に変えています。テレビ放映された「スチュワーデス物語」のイメージが強すぎたんでしょうなぁ。スチュワーデスは女性用語で男性はスチュワードと呼ばれていました。まあ、今はユニセックス時代ですから客室乗務員はキャビンアテンダントで総称されています。これも時代の流れなんでしょう。また、東野圭吾氏の上の姉がスチュワーデスであったことから、スチュワーデスを主人公にしたこの小説が生まれたということが上の冊子に書かれています。
前置きが長くなりましたが、この本は短編が7作の連作の事件簿になっています。新日本航空の花のスチュワーデス、通称・エー子(早瀬英子)とビー子(藤真美子)が主人公です。同期入社でルームメイトという誰もが知る凸凹仲良しコンビが遭遇する事件簿です。ただ、タイトル通りでなくホテルでの殺人や遺産相続がらみの事件など様々なシュチュエーションのストーリーが散りばめられています。ただ、他の作品と違って物語に寛恕ぅ意にュゥできないのが主人公たちが本名でなくエー子とビー子という略称で物語が進むからでしょう。サクサクと読めますが、読後あまり記憶に残っていません。
◆ステイの夜は殺人の夜
エー子とビー子は、鹿児島にフライトした時にいつも行く『ワイキキ』というスナックで、パイロットたちと飲んでいました。そこに現れた一人の男性は、機内で突然腹痛を訴えエー子とビー子がお世話したお客様、本間でした。本間は、エー子たちと同じホテルに宿泊しており、たまたまこのスナックに飲みに来たのです。本間とエー子たちは、夜中の1時ごろまで一緒にスナックで飲み、一緒に部屋に戻ります。しかし、そこで彼らが目にしたものは、本間の妻の他殺体でした。本間も容疑者の一人に上げられたが、殺害時間にはエー子たちと一緒に飲んでいたという完璧なアリバイがあります。ただ、小生からすると飛行機の中で腹痛で苦しんだ客が夜中までスナックで飲み歩くかという疑問です。ここに伏線が貼られていたんですなぁ。
◆忘れ物に御注意ください
某旅行社が考え出したベビー・ツアー。それは、赤ん坊がいる夫婦でも気軽に旅行に行けるという企画でした。このツアーに二十五組の夫婦が参加し、エー子とビー子が搭乗する飛行機を利用することになります。しかし、彼らが降りた後の機内にはとんでもない忘れ物が・・・それは、何と赤ん坊でした。すぐにツアー客を追いかけ、ゲートのところで捕まえましたが、二十五組のすべての夫婦が赤ん坊を抱いていたのです。では、機内で見つかった赤ん坊は、いったい誰が置き忘れたのか?あるちょっとした勘違いが、このとんでもない事態を巻き起こす原因となります。それはツァーのコースに鍵がありました。
◆お見合いシートのシンデレラ
スチュワーデスが離着陸の時に座るアテンダント・シートは、お客様と向き合うように配置されており、このことから「お見合いシート」と呼ばれていました。あるフライトで、ビー子の向かいに好みの男性が座ります。ビー子はこの男性から声を掛けられデートすることになります。そして、はじめてのデートでいきなりプロポーズされるのです。しかも、この男性は資産二十億円以上の資産家だったのです。ビー子にとって申し分の無い結婚相手なのですが、親族の中にはそれを訝しむ者もいました。そりゃあ、そうですわな。財産目当てと思われても仕方がありません。でも、結婚式が終わった後にとんでもないことが明らかになります。この物語では殺人は起こりません。
◆旅は道連れミステリアス
エー子とビー子が乗務する東京行きの便に、和菓子屋「冨屋」の旦那・富田敬三が搭乗していました。「富屋」は、エー子とビー子がフライトで福岡に行ったときによく通う店で、富田とは顔見知りでもありました。しかし、その富田が、東京のSホテルの浴室で死体で発見されます。しかも、旦那の死体の横には女性の死体もあったのです。その女性のテレビに映し出された顔写真を見て、ビー子はびっくりします。なぜなら、その女性は同じ飛行機に搭乗していて、宿泊先のSホテルを紹介したのは当のビー子だったからです。
◆とても大事な落し物
東京発青森直のYS11機に乗務していたエー子が、機内の化粧室でとんでもない落し物を見つけます。それは、誰かが書いた「遺書」でした。この「遺書」の落とし主は間違いなくこの機内の中にいます。その落とし主を見つけて、自殺を思い止まらせなければならないとエー子は考えます。乗客は27名いましたが、化粧室を利用した6名の中にその落とし主はいるはずと絞り込みます。そして、それらしき人物を特定したのですが、最後にどんでん返しがあります。
◆マボロシの乗客
羽田空港内にある客室乗務員室に脅迫電話が入ります。その内容は、「俺は、昨日人を殺した。金を出さなければ、新日本航空の客を次々と殺害する」というものでした。犯人の言葉を裏付けるかのように、空港内の駐車場で血の付いた女物のバックが見つかります。そして、そのバックの中には、新日本航空の搭乗券も入っていた。しかし、その搭乗券に該当する飛行機に乗っていた乗客の中には、このバックの持ち主がどうしても見つかりません。しかし、しばらくすると、同じ機内でそのバックの持ち主の女性を見かけたという男が現れるのでした。ところが、この男の供述にはおかしなところがあります。
◆狙われたエー子
盛岡のホテルで起きた殺人事件が起きます。その容疑者が、エー子のかつての恋人、塚原でした。そして、エー子が、何者かに車ではねられそうになる事件が起きます。エー子を襲ったのは、塚原という可能性があった。それは、エー子の証言によっては、塚原のアリバイが崩れるからであった。そして、塚原から「じかに会って話しがしたい」という電話がエー子に掛かってきます。単身塚原に会いに行くエー子でしたが、そこには別の女の影があります。多分このストーリーが一番面白いのではないでしょうか。
軽妙洒脱なストーリー展開で東野圭吾の別の側面を楽しむことができます。通勤通学の移動中にピッタリの短編集です。