ロックの名盤!ザ・ビートルズ
著者:スティーヴ・マッティオ
訳者:石崎一樹
出版:水声社
「ゲット・バック」「レット・イット・ビー」を収録。ここにビートルズは終わりを告げる。貴重な証言や取材によって、毀誉褒貶のスタジオセッションを紙上再現する、ファン必読のドキュメント。---データベース---
2013年に発売されたもので、今となってはちょっと内容が古いのかなぁという印象がありますがそんなことはありません。この本を手に取ったのは「レット・イット・ビー」にテーマを絞っているからです。というのも、小生はビートルズのレコードの中で一番だと思っているのがこの「レット・イット・ビー」だからです。このアルバムが映画のサントラだったということもあり、リアルタイムで映画館で観たビートルズのステージで見せる姿とは違うビートルズを目の当たりに見てカルチャーショックを覚えたものです。実際にはこのアルバムは前作の「アビー・ロード」よりも前に録音されているものですが、当時はこのアルバムのジャケット写真の横断歩道を渡る4人の中で、ポールが裸足で歩いている状況で当時は死亡していると言ったニュースがまことしやかに囁かれていました。
この時はかなりのショットが撮影されていてこの当時も採用されなかった別ショットの逆向きの写真がオークションにかけられていました。ただ、この写真ではポールはちゃんと靴を履いていました。
さて、この本です。当時までに事実となった映画「レット・イット・ビー」の製作の背景に独りよがりな内容になることなく、既存のデータや情報に加え、多数の関係者へのインタビューからなる素材を、時系列で整理された形で提示してくれており、好感が持てるます。ただ、ビートルズのファンなら、いわゆるビートルズ終焉のこの時期の情報は、かなりの量がすでに世間に流布されており、なかなか新発見、新事実といったものに出会える機会は少なかったでしょう。 当書においても、目を見張るような大発見、新事実というものは残念ながらなかったように思います。いわゆるブートレグと言われる海賊盤がからりリリースされていて、そのブートレグからの情報がかなりの量を占めていることは、ちょっと興味深かったところです。 ブートレグは決して正式に認知されている訳ではないのでしょうが、ある程度市民権を得ている存在になっていた部分もあります。例の「ジョン・レノン・テープス」や「アンソロジー・シリーズ」も、ブートレグの存在というものに、何かしかの影響を与えているのかも知れません。
さて、この本の章立てです。
第1章 悲しい歌でもすてきになるさ
第2章 誰にとっても厳しいとき
第3章 ぼくたちは家路をたどる
第4章 長く曲がりくねった道
第5章 カム・バック
この本の根底にあるのは2003年の1月10日のロンドン発の新聞記事です。この事件は我が国においても大手新聞社がニュースで大きく取り上げていましたからご存知の人が多いかもしれません。この事件をかいつまんで説明すると、この日ロンドンで2名、アムステルダムで3名が逮捕されています。この逮捕劇は1970年代前半に盗難に遭っていた1969年の「ゲット・バック/レット・イット・ビー」セッションの500本になんなんとするテープが押収されたというものでした。俗にいう「イエロー・ドックレーベル」の「デイ・バイ・ディ」というCD38枚で発売された音源でした。
新聞ではここまででしたが、この本にはその1ヶ月後、今度はオーストラリアで「アビー・ロード/ホワイトアルバム」の音源が押収されタコとまで掲載しています。これもEMIが本物の音源であったことを認めています。さらに、アルパム「レット・イット・ビー」とは切っても切れない関係のフィル・スペクターがこの年の2月3日に殺人罪の容疑者として逮捕されています。で、最終的には収監中の2021年1月16日にコロナの合併症で亡くなっています。
フィル・スペクターのプロデュースしたバージョン オリジナルLP
グリン・ジョンズのバージョン
我が家には公開時の映画「レット・イット・ビー」のビデオテープがあり、それを見ながらこの記事を書いていますが、ビートルズ・ヒストリーの中でもこの1969年1月の出来事は最大のドキュメントではないでしょうか。この本にはそのセッションの詳細が記録されています。小生はてっきり映画は全てアップル・スタジアムで収録されていたと思っていたのですが、違ったんですなぁ。この本で初めて知りました。1月2日から15日までは映画の撮影用のスタジオ、トゥイッケナム・スタジオで収録されています。そして、初日からどんな曲が、どんな形で演奏されたかが克明に記録されています。この2日めのセッションで当初のタイトル「ゲット・バック」が初めて披露されています。まあ、日記風のセッション記録の面白いこと、メンバーの確執が面白いように見てとれます。
後半は、アップルスタジオでの収録となりますが、22日になってオルガンでビリー・プレストンが参加することになります。ジョージ・ハリソンの誘いでアップルスタジオに誘ったのです。こんなことから31日のルーフトップ・コンサートには彼の姿が確認することができるのです。
ここで確認できるのは前半のトゥイッケナムスタジオでの収録はテレビ番組のリハーサル収録という名目であったので全てモノラルでしか収録されていなかったということです。
ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード ネイキッド・バージョン
アクロス・ザ・ユニヴァース フィル・スペクターバージョン
このバージョンのオーケストラはリチャード・ヒューソンが編曲して演奏しています。リチャード・ヒューソンという名前に覚えがある人は映画「小さな恋のメロディ」でオーケストラ・パーツを演奏していた人物であることを覚えているのではないでしょうか。
この本が発売された当時、この「レット・イット・ビー」のネイキッド・バージョンが発売されています。それはこれらのセッションのオリジナルの姿と言ってもいいでしょう。このアルバムにはボーナスCDがついていてこのブートレグとして存在してきた録音が「Fly on the Wall」として22分に渡り収録されています。
本書は、「レット・イット・ビー」の製作過程と後日談に絞って、その詳細が記述されています。既知の事項が大部分を占めていますが、整理されて述べられているためとてもわかりやすいものになっています。最近では出る出ると言われていたこれらの音源や映像が、「Get Back 」として3部作の映画として公開されています。