第85回市民会館名曲シリーズ
〈欧州音楽紀行Ⅴ ドイツ
プログラム
▊ ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調 作品21
▊ ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 作品55『英雄』
指揮/小泉和裕
演奏/名古屋フィルハーモニー交響楽団
今回の編成、弦は14−12−10−8−7というやや大きめの編成でした
3月のコンサートはシーズンの変わり目ということで人の移動もかなりあります。2008年より長らく客演コンサートマスターを務めていた植村太郎氏がたいにんし、このコンサートでは新井英治氏が客演コンサートマスターとして登場していました。またこのコンサートで、1980年から参加していたヴァイオリンの鬼頭俊氏が定年退団します。ですからこちらも最後のコンサートなんですね。
第1部は交響曲第1番です。この第1番と第3番の組み合わせで、現在まで一番興味深く聴いたのは「久石譲/ナガノ・チェンバーオーケストラ」の演奏でした。ここで演奏される第1番はリズムが躍動し、それこそベートーヴェンの音楽がロックをしているような感覚に囚われた演奏でした。その記憶があるので、どうしてもその演奏と比較しながら聴いてしまいます。
第3番「英雄」はアレグロ・コンブリオの指定通りの演奏で、冒頭の2つの和音は短くあっさりと処理されていました。このあたりの処理は近年のピリオド楽器の演奏に準ずる方法がとられていて、第1楽章は軽快なアレグロ・コンブリオになっていました。アプローチとしては全体に近年のピリオド楽器に近い解釈で、その違いは編成の大きさでしょうか。最後の公演ということもあり、管のメンバーも一番と3番では入れ替えて名フィルのフルメンバーが登場する構成になっていました。ただ、編成が大きい分それを統率するためにリズムがやや重たくなっていたような気がします。呈示部の繰り返しもさりげなく行われ違和感はありませんでした。
ただ、第1楽章コーダの部分で問題となるトランペットの処理は、演奏を聴いた限りは従来の1970年代までの主題をトランペットが最後まで吹き通すようにしたハンス・フォン・ビューローによる改変を採用していたような気がしました。ただ、wikiによると「ベーレンライター新版では、ブライトコプフ旧全集で八分音符の刻みだった658小節の低いB♭音が、浄書スコアを基に付点二分音符に替わっており、658小節までは1オクターヴ下げて主題を吹くことになるため、トランペットが旋律の途中で突然脱落するような様相にはならない」という記述があり、そういう形で演奏された可能性もあります。オーケストラの性能も上がっていますし、いまさら旧来の楽譜に基づいて演奏するようなことはないと思いますので、後者の可能性が高かったと思われます。
第2楽章もアダージョ・アッサイの指示ですが、ここも旧来のむちゃくちゃ遅いテンポではなくちゃんと歩ける葬送行進曲になっていました。今回は管は標準編成で弦5部だけが増強されていましたが、相対的に響き渡る音は金管のパートを目立たせたメリハリのある演奏でハッとさせられるものがあり、そういう意味でも新鮮に響きました。
全体的にスケール感のある演奏で、近代オーケストラによる充実した響きの中で「英雄」を楽しむことができました。演奏後には「ブラボー」の声もあがり、久しぶりに声出しの演奏会を堪能することができました。
コンサートが終わって帰路に着いた時、ホワイエにこんな絵が掲げられているのに気が付きました。小泉和裕氏の絵ですが、なんとこれはAIか描いたものです。よく見るとジクソーパズルのような雰囲気が感じられると思いますが、氏がコンサートで振ったた時の、そして共演したソリスト、またはリハーサルの様子などを写した7年間の軌跡を3,400枚の写真で構成したものなんですなぁ。
7年間の間にはコロナのために中止になったコンサートも多々ありましたが、なんとか無事にゴールにたどり着いたものです。本当にご苦労様でした。
そして、下は2015年9月4日の第427回定期演奏会での演奏で第4楽章です。