闘う君の唄を | geezenstacの森

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闘う君の唄を

 

著者:中山七里
出版:朝日新聞出版

 

 

 新任幼稚園教諭の喜多嶋凜は、あらゆることに口出しをしてくるモンスターペアレンツと対立しながらも、自らの理想を貫き、少しずつ周囲からも認められていくのだが……。どんでん返しの帝王が贈る驚愕のミステリー。---データベース---

 この小説は先に紹介した「騒がしい楽園」の前作にあたります。新卒で幼稚園教諭になった主人公が喜多嶋凛です。舞台は埼玉県秩父郡神室町という人口8,500人の町です。その町にある「神室幼稚園」は、入園児が増えて今年から2クラスになります。当然凛はそのうちの人クラスを受け持つことになります。しかし、この幼稚園モンスターペアレンツの塊のようなところで保護者会が絶大な発言権を持っています。園長はその意見に従うばかりで、幼稚園の方針は尊重されません。その状況に新米の凛が立ち向かっていきます。序盤は幼稚園かそうなった理由は説明されますがさらっと流れていきます。さう、これは中島みゆきの「ファイト!」のオマージュ先品なのですから。その章立てです。

 

1.戦いの出場通知を抱きしめて

2.こぶしの中 爪が突き刺さる

3.勝つか負けるか それはわからない

4.私の敵は私です・・・

5.冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

 

 流れからいうと、最初はお仕事小説でおよそ中山七里作品とは思えません。こういうところは「月光のスティグマ」と同様ですな。始めは若い頃って真っ直ぐ&尖ってるのよね…。なんて思いながら、幼稚園教諭の仕事の大切さ・大変さ…父母との意思疎通の難しさが大変だなぁと思え、それに果敢に立ち向かっていく凛の姿を思わず応援したくなりますそして、凛と共にもう一つの年少組を受け持つのが続編の「騒がしい楽園」で活躍する神尾舞子先生なんですな。ここでは凛と対照的なクールな先生として描かれています。

 

 そういう、凛の活躍で保護者会からも一目を置かれる存在になるのですが、ここで人相の悪い渡瀬刑事が登場することになって昔の事件が掘り起こされてしまいます。そこからは急転直下、凛は絶望の断崖絶壁に立たされてしまいます。起承転結の転ですな。ただ、凛の過去が暴かれただけでまだミステリーの要素はほとんどありません。それが第5章で一気にどんでん返しとともに作品としてのミステリーが一気に表面に出てきます。続編ではその流れがちょっと不自然だったのですが、この作品では空白の15年を埋めるタイムカプセルのような証拠が飛び出しますからそれはそれでびっくりです。

 

 しかし、渡瀬という刑事が言っていたように、お父さんが無実になったわけではないし、世間の悪印象が京塚園長に向いても過去の事件が掘り返されてしまうかもしれないが、信じたものが間違ってなかったと知ることは心の支えになるのでしょう。

 

 結末についてはあっさりしすぎてちょっと肩透かしを食いますが、この小説ミステリ成分はあくまで主眼では無くそれより「人の心の醜さ弱さ移ろいやすさ」こそが、この作品通してのテーマとなっているように思います。

 

 

 新米教師の凛が親ではなく子供たちに向き合おうとする姿勢、凛の生い立ちから見た人の持つ醜悪な感情に対して逃げずに闘おうとする姿に胸が熱くなります。 ただの第三者として読むか、子を持つ親として読むか、幼稚園教諭として読むかで持つ感情は人それぞれかもしれません。