アシュケナージとパールマンのフォーレとブラームス
曲目/
フランク/ヴァイオリン・ソナタイ長調
1.第1楽章:アレグレット 5:50
2.第2楽章:アレグロ 7:52
3.第3楽章:レシタティーボ・ファンタジア 7:12
4.第4楽章:アレグレット・ポコ・モッソ 6:33
ブラームス
ホルン三重奏曲変ホ長調Op.40*
5.第1楽章 アンダンテ
6.第2楽章 スケルツォ(アレグロ)
7.第3楽章 アダージョ・メスト
8.第4楽章 アレグロ・コン・ブリオ
ピアノ/ウラディーミル・アシュケナージ
ヴァイオリン/イツァーク・パールマン
ホルン/バリー・タックウェル*
録音/1969/10/04-06、10/11−13* デッカ・スタジオ3
P:ジェームズ・マリンソン
E:アレック・ロスナー
日ロンドン SLC2390
このレコードは年末から年始にかけて捕獲したレコードの最右翼の一枚です。初出当時、まだ室内楽曲にはほとんど目がいかなかったので、こういう組み合わせのレコードがあったことすら知りませんでした。加えて、アシュケナージはDecca、パールマンはEMIという色分けをしていたのでこういう組み合わせのレコーディングがあることすら知りませんでした。
いゃあ、二人とも若いですなぁ。1945年生まれのパールマンと1937年生まれのアシュケナージの30台前後の録音です。パールマンはズーカーマン(1948~)ミンツ(1957~)などと同じ
アイザック・スターン(1920~2001)門下生です。明るい艶のあるヴァイオリンで、音楽を紡いでいます。ここではアシュケナージがお兄さんの貫禄で弟を引き立てるサポートに徹しています。この時の録音の様子が映像で残っています。
第1楽章はひそやかに始まり、4小節のピアノの序奏に続くヴァイオリンの音色がごく自然に感じられます。第一主題の最初の3つの音が重要です。 低-高-低のこの音型が循環形式の基本的な要素となっていて、パールマンは甘美な旋律でよく歌っています。このソナタ、元々が結婚の祝い用に作曲されているのでピアノとヴァイオリンが同等の立場で書かれています。その観点から日本盤のジャケットはパールマンとアシュケナージを同格に扱っています。
第2楽章はアレグロで、第一主題は激しく感情がうごめくようなうねりのようなものを感じます。この楽章を通じてこのうねりのような感情の起 伏が支配していますが、第1楽章の主題が様々な形で現れてきます。この主題に絡みながら2楽章が展開していく訳です。ヴァイオリンとピアノの絡み合いがお互いの主張と協調のせめぎ合いの中で展開していきます。この楽章はアシュケナージも精一杯主張し、互角ながら優位に音楽を作っています。
第3楽章、レチタティーヴォ、ファンタジア・ベン・モデラートは中庸の朗誦・幻想曲という意味になります。ピアノの主題に応答するヴァイオリンの叙唱という構図ですね。ヴァイオリンの深く呼吸する響きが、なんとも幻想的な雰囲気を生んでいます。曲のイメージでいくと、彼の愛に応える彼女の愛の告白と言った部分でしょうか。
そして第4楽章は聴き慣れた主題が次々に再登場します。有名なロンドです。主題はピアノとヴァイオリンでカノンのように追いかけるように続 きます。まさにフランクの循環形式の真骨頂がここで表れています。各楽章の主題も次々に表れますが、感情的なものも含めてすべてはこの純粋なロンド主題が吸収し、汚れなき美 しい世界へ導かれるようです。美しいだけではなく包容力のある終楽章です。幸せいっぱいの二人を祝福する音楽といったイメージで、ヴァイオリンの主旋律にピアノがぴったりと寄り添っているイメージですなぁ。この雰囲気はたいへんいいですねえ。レコードはこれで一面が終わりで物語が完結します。
CDだと引き続きブラームスが始まりますが、レコードはそういうわけではありませんから、ここで一度イメージがリセットされます。こういう切り替えができるのもレコードの利点かなんでしょうな。なにせ、渋いブラームスではちょいとフランクとイメージが異なりすぎますからねぇ。
さて、そのブラームスのホルン三重奏はタックウェルが37歳のときの録音でした。1987年に再録音していますが、パールマンとアシュケナージとのトリオは若いエネルギーのぶつかりあいというよりも音楽を楽しんでいるかのようです。この曲はブラームスの室内楽作品の中でも特に好きな作品です。
ブラームスらしい渋いアンダンテの出だしです。ここではタックウェルは年長らしい落ち着いた貫禄で悠々としたテンポで吹いています。
第2楽章においてもタックウェルはバリバリ吹くのではなく押さえの利いた滑らかなホルンです。
この作品が書かれた1856年の2月に母親が亡くなっていて、ブラームスはこの楽章を母親の追悼の気持ちで書いたものであろうといわれています。タックウェルのホルンは人の慟哭に似た響きでこの楽章を纏めています。
第4楽章の速いテンポは狩のロンドのようです。タックウェルのうまさとパールマンの見事な演奏、アシュケナージのきらめくピアノは改めて聴いてみるとやはり素晴らしい演奏です。
アダージョとアレグロはタックウェル唯一の録音で、タックウェル独特のイントネーションと音色で歌い上げる演奏はまた格別です。冒頭からクレッシェンドしてくるアダージョの響きはなんともいえません。ホルンの音にコクがあるのが不思議です。アレグロの演奏においても楽譜の奥にある音楽を見事に表現しており、アシュケナージと共に作り出す音楽は超一流です。