ラルキブデッリの
ベートーヴェン
曲目/ベートーヴェン
六重奏曲変ホ長調 Op.81b(ホルン2と弦楽四重奏のための)
1. Allegro Con Brio 8:01
2. Adagio 3:31
3. Rondo: Allegro 6:09
二重奏曲変ホ長調 WoO32(ヴィオラとチェロのための)
1. Allegro 8:54
2. Minuetto 4:53
クロイツェル・ソナタ」による弦楽五重奏曲イ長調Op.47
1. Adagio Sostenuto 14:00
2. Andante Con Variazioni 13:47
3. Finale: Presto 8:45
作曲されたのは1795年頃です。作品番号では運命の作品67よりも後、「エグモント」作品84の前なのですが年代はもう少し遡り、交響曲や弦楽四重奏曲の第1番よりも前の作品です。同時期には有名なピアノソナタ「悲愴」が作曲され、まだ10代のベートーヴェンが駆け出しのピアノ・ヴィルトーゾ奏者として活動していた時期にあたります。モーツァルトのオーボエ四重奏曲とほぼ構成が同じであることから分かるように、この時代のベートーヴェンはまだまだ古典音楽の枠組みをでていません。
しかしホルンの限界に挑むかのような内容は若き楽聖の力作であったはずです。ベートーヴェンはボンで過ごしていた時代にホルン奏者のジムロック(後に楽譜の出版社として成功します)にホルンの演奏を習ったことがあるそうですからきっとその経験が生かされたことでしょう。ベートーヴェンは管楽器のためのソナタを1曲だけ残していますが、それもホルンのための作品です。「英雄」や交響曲第7番をはじめオーケストラでも活躍しますし、ホルンは楽聖にとって思い入れのある楽器であるようです。
作曲の時代にはまだ、バルブ式のホルンは登場していません。ホルン奏者に聴いてみると1stホルンはとにかく音が高いそうです。そして、2ndホルンに至ってはバイオリンと同じ分散和音や細かいパッセージがでてきます。最初はホルンで、次はバイオリンで・・・と音色の違いなどを考えているのでしょうが、ホルンの吹けない弦楽器奏者から見ても大変なことは分かります。
こうした演奏できないのではないか、という個所は後期の作品でも出てきますから、楽聖ベートーヴェンは若いころから妥協なき作曲に取り組んでいたのだ、ということかもしれません。第3楽章なんか交響曲第3番「エロイカ」の第3楽章を彷彿とさせるメロディが出てきて楽しめます。
3曲目の「ヴァイオリン・ソナタ「クロイツェル」の弦楽五重奏版があることも遅まきながらこのCD知り興味津々になりました。まあ、曲自体が知られた作品で名曲ですから第1楽章序奏の静かで穏やか調べから引き込まれます。ただし、これはベートーヴェン自身が編曲したものではないようで、オリジナルのCDでは作者不詳となっています。でも、当時の一般家庭で演奏できるように編曲されたものとしては上出来でしょう。で、こうしてCDには収録されていますが、弦楽四重奏にチェロがもう一挺加わるという特殊な編成ですからコンサートで演奏されるとなるとほとんどないでしょうから、この演奏は貴重です。
原曲のようなドラマテッィクな変化はあまり感じられないもののそれが至って落ち着いた印象を与えられるようです。特にこの編曲での第2主題の抒情的な趣には惹かれます。主題と4つの変奏そしてコーダで構成される第2楽章では各変奏で主役が代わる様子に興味をそそられます。原曲でのピアノからは溌剌とした華麗な趣きは感じられませんが、反対に弦楽四重奏曲のような同族による演奏ですからしっとりと落ち着いた感じがいい味を出しています。
第3楽章は5つの楽器が織りなす生き生きとした楽章で生気があり、軽快な躍動感が伝わってきます。ビルスマ率いるラルキブデッリはピリオド楽器による演奏団体ですから、ノンヴィヴラートのガット弦を使用した演奏団体ですからノーブルでありながらピンと張りつめた緊張感が心地いい演奏になっています。
このCD聴き始めは冒頭の作品に期待したのですが、通して聞いてみるとやはり、この編曲版の「クロイツェル」が一番聴き応えがあります。聴き終えてすっかりこの編曲版がお気に入りになりました。