日の昇る国へ 新・古着屋総兵衛 | geezenstacの森

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日の昇る国へ 

新・古着屋総兵衛

 

著者/佐伯泰英

出版/新潮社 新潮文庫

 

 

 古着大市開催の二日前。将軍家斉近習、自称御用取次古瀬嶺斎なる旗本が古着大市の売上の一部を公儀に上納せよと圧力を掛けてきた。古瀬は無役の小譜請組から、瞬く間に将軍近習にのし上がった男だった。総兵衛は手を尽くして背後関係を調査する…。そして、バタヴィアのカイト号を引き取りに、一族三百余名を従え、いよいよ総兵衛が海を渡る。夢と希望を乗せた「武と商」の物語、ここに完結。---データベース---

 

 氏のライフワークと言いながらこのシリーズ完結してしまいました。表紙がは新造なった「カイト号」でしょうか。荒波を蹴散らして力強く突き進んでゆく様が描かれています。前作となる影始末シリーズでは宿敵、柳沢吉保との戦いが描かれていましたが、こちらはそれに該当する宿敵は登場せず、この巻でも御用取次古瀬嶺斎なる旗本が登場するばかりで、小粒との戦いはあっけなく終了してしまいます。そういう意味では予定調和的なストーリー展開で、やや物足りないままの完結となってしまいました。一族も肥大化し収集がつかなくなったと言ってしまえばそれまでですが、近世に近づくほど総兵衛に対抗しうる大物がいなかったというのが正直なところなんでしょう。個人的には幕末から明治にかけて悪役を一手に引き受けた南町奉行鳥居耀蔵との戦いがあつたら面白いと思ったのですが、それはかないませんでした。

 

 歴代の大黒屋惣兵衛は鳶沢一族から嫁をもらうというしきたりはここでは反故にされ、宮廷との繋がりのある坊城家との婚姻ということで、まさに10代目は桁外れですが、まあ、この破天荒さが最終巻のタイトルにもなっているわけで、最初は「日出ずる国」と思い込んでいましたが、よく見ると「日の昇る国」なんですなぁ。中世までは東の果ての国は日本で、日出ずる国はその日本を指していたのですが、近代社会になってさらに太平洋の向こうには新大陸というのが発見され、日本から見ればそれはまさしく「日の昇る国」であったわけです。総兵衛はイマサカ号でバタヴィアへ向かいついに母親と再会するわけですが、それは実にあっさりとした描写でしかありません。思えば前巻ですでに、母親の方がそのまま日本に来ず現地に残ったあたりからこれはもう一族のための物語ではないなとは気がついていたのですが、この間では予定調和的に話が進みながら、最後にはイマサカ号一隻が日本へ帰国し、総兵衛たちの乗るカイト号はホイアンから直接太平洋を横断してアメリカへ向かうという決断に至るわけです。史実的には日本で初めて太平洋を横断したのは「咸臨丸」ですが、使節団は実際にはアメリカの帆船に乗船して後悔していましたが咸臨丸はただ随行していっただけです。これが1857年ですから、この総兵衛の時代の50年後ということになります。この小説はそれだけ時代の先をいっていたということですな。

 

 さて、このシリーズは読了ですが、スピンアウトとしての初巻「光圀」が残っています。こちらは期待できそうです。