笑うマエストロ
国立交響楽団の表と裏
著者/尾崎晋也
出版/桜舎
日本人名指揮者、異国で大人気!クセ者演奏家と渡り合い、文化の壁を乗り越えてハーモニーをつくりあげるルーマニア奮闘20年のエッセイ。音楽に不可能はない!---データベース---
娘が結婚することになり、相手方の父親がルーマニアに住んでいるということで、ちょいとルーマニアを調べていました。音楽的にはエネスコのルーマニア狂詩曲ぐらいしか頭に浮かびませんし、首都がブカレストというのも地図を開いてようやく分かったような次第です。地図で位置を確認すると、黒海に面した国で下にはブルガリア、左はハンガリー、北にウクライナという位置関係です。
ちなみに、ルーマニア生まれの指揮者としては大御所のセルジュ・チェリビダッケを始め、コンスタンティン・シルヴェストリ、セルジュ・コミッショーナなんて名前がありました。しかし、Webではトップに指揮者として尾崎晋也の名前が出てきます。一体誰なんだと調べると、この本にぶち当たったというわけです。「ドラキュラ」くらいしか思い浮ばない未知の国ルーマニアを舞台に繰り広げられるマエストロの孤軍奮闘エッセイとなっています。
この本の章立てです。
目次
第1章 いきなりマエストロ暮らし
第2章 マエストロは一人旅
第3章 マエストロの想い
第4章 マエストロは休めない
第5章 マエストロの楽屋裏
第6章 マエストロの美味美観
「笑うマエストロ」とはちょっと人を喰ったようなタイトルですが、まあ面白いエッセイ集です。もう一人、ルーマニアと関係が深い指揮者には曽我大介という人物がいますが、土着度という点ではこの尾崎晋也氏の方が上でしょう。突然指揮者コンクールの招待の電話が鳴り、3日後に開催されるという連絡です。課題曲の楽譜を友人の山下一史氏から借りて、なんとか現地へ乗り込みます。まさに一夜漬けのコンクールですが、1次2次はなんとか通過します。驚きはこれからです。際シウ先行が終わる前にすでにコンサートの契約の話が舞い込みます。コンクールは2位なしの3位で終わりましたが、半年後契約のコンサートを指揮し終わるとと明日も指揮してほしいとの依頼です。なんでも予定していた指揮者が演奏会をキャンセルしたというのです。ゲネプロだけでぶっつけ本番です。さらにその前半のプログラムが終わった後で今度はそのオーケストラの音楽監督がこのオーケストラの指揮者になってほしいと話を持ってくるのです。このオーケストラこそが、その後20年以上の関係を築く「国立トゥルグ・ムレシュ交響楽団」なのです。
まあ、こんな顛末でこのエッセイは始まります。さて、オーケストラの本拠地トゥルグ・ムレシュはルーマニアの北西部に位置します。第1次世界大戦前はハンガリー領だったところです。ということはオーケストラのメンバーはほとんどがハンガリー系で占められています。そんなことで、お国柄、ルーマニア語、ハンガリー語、英語など多言語が飛び交い、もう頭はクラクラの状態でコンサートは続いていきます。
出身が鹿児島ということで、このエッセイは地元の新聞に連載されたものがベースになっています。章は6つに分かれていますが、中身はコラムほと背の記事がぎっしりと詰まっています。形からいえば岩城宏之氏の「棒振り旅がらす」的な雰囲気と言っていいでしょう。面白く、機知に富んだエピソードが満載です。こういう破天荒な性格が外国だから通用するんでしょうなぁ。
あまり更新はされていないようですが、氏のHPもあります。ただ、ツィッタ〜はちょくちょく更新されているようです。