探偵・日暮旅人の壊れ物
著者/山口幸三郎
出版/アスキー・メディア
目に見えないモノを視ることで事件を解決する青年・日暮旅人。彼が経営する『探し物探偵事務所』に、ある日見生美月と名乗る美しい依頼者が現れた。 旅人のことを「旅ちゃん」と親しげに呼ぶ美月は、どうやら旅人の学生時代の先輩だという。今日も今日とて探偵事務所を訪れていた保育士の陽子は、旅人の過去を知る美しい女性の出現に、動揺を隠すことができず――? 旅人の学生時代が語られる『昔日の嘘』のほか、『箱の中』『傷の奮え』『憧憬の館』『竹馬の友』の全5編を収録。愛を探す探偵の物語、セカンドシーズン第2弾登場。---データベース---
探偵・日暮旅人」シリーズの6作目です。五感のうち視覚以外を失い視覚が異常に発達した探し物探偵の日暮旅人と、中学の先輩美月との再会、有名画家の遺作とその弟子、実業家の息子の失踪、終戦直後の三人の仲良し女学生、旅人の中学時代のイジメとゲーム機の紛失などが描かれています。今回の旅人はいつも以上にブラックですが、誘拐事件や両親の死以降の旅人が描かれていて、興味深い内容になっています。ただし、全巻の最後に、
「二人まとめて殺スシカナクナッチャウ」なんて一文があり、それを受けての展開になっています。この巻の目次です。
『箱の中』
『傷の奮え』
『憧憬の館』
『竹馬の友』
『昔日の嘘』
『箱の中』
人を寄せ付けずギラついていた中学生の旅人に懲りなく話しかけた生徒会長の見生美月がビックリ箱をもって旅人を訪ねてきます。このシリーズ初登場の人物ですが、大きなキーパーソンになっています。ただ、旅人と関係するのは中学3年のほんの数ヶ月間だけです。そういう設定でありながら、この賞はのちの展開に大きな影を落とします。不思議なのは、この中学3年時に旅人は親戚の美術部の甲斐先生宅に世話になるのですが、現在進行形の中では全く音信不通というのも腑に落ちません。ここでは美月からその甲斐先生が危篤状態というのを知らされるのもおかしな設定だなぁと疑ってしまいます。こんなところからこのストーリーは何か曰く付きの展開利始まりの雰囲気がプンプンと漂ってきます。箱の中身を当てられなかった旅人に失望し、さらには旅人のそばにいる彼女らしき陽子の存在にも厳しい視線を向けます。
『傷の奮え』
現代アートのカリスマ作家、鶴岡大成の1番弟子として名前の売れた安藤朋美は事故で右手を負傷します。まだ10代の女性である友美を金づるの商品としてしか娘をみない両親が対比的に描かれています。絵をやめようかと悩むが旅人に励まされますが、ここでは旅人の取った手段がなんともダークです。
『憧憬の館』
やり手実業家を父親にもつ羽能章仁の行方を探す以来が来ます。それは雪路の知り合いでもあるのですが、出来過ぎた親を持つ不幸な境遇は雪路と似ていますが、この章仁は内向的な性格ゆえに自分が死んで、その道連れに父親を巻き込もうと画策します。言ってみれば、最初から救いがなくてあまりにやりきれない話で、旅人がそれを見抜き最悪の事態は免れますが、話としては非常にダークな展開です。
が。
『竹馬の友』
灯衣も懐いているおばあちゃんの回想シーンからはじまります。志のさんと緑さんとあやめさんの友人三人組が、本当に仲良しで、学生時代の友情とお互いを信頼心がよくつたわってきて、この感の中では一服の清涼剤になっています。
『昔日の嘘』
最後にまた、旅人の中学時代の話が語られます。この過去の話が二つもあるということはこの中学時代の出来事が今にまで影響を及ぼしているということでしょう。ここでの旅人もすこぶるダークで、痛みを感じない旅人は、果敢にいじめる側のチンピラに喧嘩を仕掛けあわや相手を殺すところまで追い詰めます。それがここでも意味をなし、いじめられる側の大杉君に「僕が君なら、多田を殺すよ」と平気で語りかけます。ああ、旅人はやっぱりそういうこと言っちゃう子だったんだという尖ったダークさが美月を引きつけたんでしょうかねぇ。