やっとかめ探偵団と鬼の栖
著者/清水義範
出版/光文社 光文社文庫
夜な夜な子供の泣き声が聞こえたアパートの一室から、親子3人の姿が消えた。名古屋のミス・マープルこと波川まつ尾(74歳)の駄菓子屋に集う婆ちゃんたちは、夜逃げだ、幼児虐待だと大騒ぎ。そんな時、山深い林道から母親の死体が発見された。「どえりゃーことだがね」まつ尾の指示で、ご近所情報収集に向かう婆ちゃんたち。やがて意外な真相が…(表題作)。
「やっとかめ探偵団と鬼の栖」は月刊J-nove(実業之日本社)l2002年4〜6月号、「やっとかめ探偵団と唐人お吉」は週刊小説(実業之日本社)2000年11月10日号〜2001年2月9日号に掲載された2つの中編が2002年8月実業之日本社から刊行されました。本来なら実業之日本社から文庫本として刊行されるところですが、人と文庫版は2005年9月光文社文庫として出版されました。まあ、もともとこの「やっとかめ探偵団」シリーズは1990年代には光文社から刊行されていたという事情がありましたから、こういう流れになったのでしょう。ところで、「やっとかめ」は名古屋弁で「久しぶり」という意味です。
こういうシリーズものは主人公が年を取らないというのが基本パターンで、主人公の名古屋のミスマープルこと波川まつ尾74才は、2000年代になってもそのままという設定で物語は進んでいます。そして、登場人物は名古屋の中川区が舞台になっていることもあり、すべて名古屋弁で語られていきます。いや、一人だけ愛知県警の警部補の鷺谷直樹だけは東京生まれということで標準語ではなします、そういう言葉のコントラストもこの即品では魅力でもあります。
さて、まつ尾ばあちゃん率いるやっとかめ探偵団はこの作品でパワーアップしています。だんだんとまつ尾ばあちゃんだけでなく活躍?していて、小柄で、いつもエプロンを掛けているお喋りなお婆ちゃんの芝浦かねよなんかは、様々な場所に出掛け、時には泣き落としなどの手も使いながら事件の情報収集をする有能なお婆ちゃんとしてかつやくします。ストーリーは、駄菓子屋に集まるばあちゃんたちの殺人事件への考察が井戸端会議風で、のほほんとしながらも核心をついていくあたりはなんとも頼もしい限りです。
表題作はデータベースで紹介されていますが、もう一つの事件である「唐人お吉」は幕末が絡んでくる事件ですが、その当のおきちが愛知県は知多の出身だったということをこの小説で初めて知りました。ただし、wikiにはそんなことは一言も書かれていません。地元の定説ですな。それによると、唐人お吉こと斎藤きちは天保十二年(1842)十一月十日、南知多町内海の西端に生れています。父は船大工市兵衛で、四歳のときに一家で伊豆下田へ移住しています。父と死別後は母きはと漁師や船頭たちの汚れ物の洗濯、繕い物などをして生計をたてる。生まれつき瓜実顔で、漁村の女にしては垢抜けていて美貌と伝えられています。こんなことで、網元の家での宴会や料亭などの宴席にも侍り、黒船騒ぎ以来は奉行所の侍や小者たちの相手をすることもあり、その後の障害につながることになります。
ここではそういうテーマに沿ってこのお吉の昔の話とリンクしたような事件で、まつ尾ばあちゃんの娘の康子さんも出てきてにぎやかな、それでいてやっぱり悲しい事件となっています。
この「やっとかめ探偵団」は、シリーズ化されていますが、最初のシリーズは地元名古屋ではテレビドラマ化され、地元の女優山田マサさんがまさにまつ尾ばあちゃんそのものという当たり役でヒットしたものです。地元ではテレビアニメも放送されましたが、途中で放送打ち切りになっています。コテコテの名古屋ものはちょっと全国区にはならないだろうなぁ。