宇賀島水軍伝 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

宇賀島水軍伝

 

著者:乾 浩 

発行:郁朋社

 

 

 忽然と歴史から消えた戦国の海賊・宇賀島十郎左衛門が率いる伝説の水軍。縦横無尽に船を走らせ、半島や大陸までも出向いた剛の者たちの姿を描き出す。第19回歴史浪漫文学賞優秀賞受賞作品。---データベース---

 

 小生もそうですが、村上水軍を知っていても宇賀島水軍を知っている人はそんなにいないのではないでしょうか。少なかろう。そういう意味では、陽の当たらなかった人物にスッポットライトを当てた歴史小説でしょう。

 

 物語は室町末期から戦国時代にかけてのストーリーとなります。海賊を描いた小説でありながら、第一章「夜這い」というタイトルで始まります。まあ、ドラマなら女性が登場しないと物語が片手落ちになりますから、ここでいきなりつかみを持ってこようという作者の計画なんでしょう。しかし、読み終えてみると、「夜這い」は衝撃的行動ですが、これは一目惚れに伴う行動ということでは主人公の一途な愛が最後まで貫かれていて読み終わると納得です。

 

 タイトルの宇賀島は、瀬戸内の小島、浮島のことです。瀬戸内の物語ですが、九州から大阪・京都への物流の中心的な存在であった場所ですから覇権を争っての、当時の海戦の模様が詳しく再現されているて読み応えがあります。巻頭に地図が掲載されており、これと照らし合わせて物語を読み進んでいくと、一層のリアリティを味わえて当時の海戦の模様を追体験出来ます。

 

 村上水軍の奇襲により敗北し、壊滅した宇賀島水軍に史上初めて焦点を当て、歴史上忽然と姿を消した謎を大胆に推測するという海洋冒険小説の趣も呈している意欲的な小説です。

 

 史実として、敵対する村上水軍がこの後の覇権を握る訳ですが、戦いに敗れた字賀島水軍は敗戦の後、歴史から姿を消してしまいます。このことへの作者の回答は海外に新天地を求め航海に出る発想は、男のロマンを感じるとともに、重い輪はセルとシャムを拠点として活躍した山田長政なんかの存在を考えるとこれもさもありなんという感想です。海に国境はないとつぶやく主人公の言葉には南蛮交易に対する希望に満ちており、厳島での戦いに敗れての敗走感など微塵も感じられない。そこには領土争いなどを超越した清涼感があります。

 

 宇賀島水軍という堅いモチーフに、ラブロマンス、群雄割拠の地域同士の確執、そして海の男の壮大なロマンが脈々と流れる大河小説にふさわしい内容でした。