チェリビダッケのミヨー、ルーセル | geezenstacの森

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チェリビダッケのミヨー、ルーセル

 

曲目/

ミヨー:マリンバ、ヴィブラフォーンと管弦楽のための協奏曲 op.278

1. Anime    5:46

2. Lent    11:39

3. Vif    5:58

ミヨー:フランス組曲 op.248*

1. ノルマンディー: Animato    2:09

2. ブルターニュ(Bretagne):Lento    5:50

3. イル=ド=フランス    2:04

4. アルザス・ロレーヌ(Alsace-Lorraine): Lento    5:45

5. プロヴァンス(Provence): Animato    3:27

ルーセル:小組曲 op.39**

1. Aubade    3:56

2. Pastorale    8:58

3. Mascarade    3:04

ルーセル:組曲ヘ長調 op.33***

1. Prelude    5:03

2. Sarabande    6:33

3. Gigue    5:18

 

指揮/セルジュ・チェリビダッケ

演奏/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

マリンバ/ペーター・ザードロ

 

録音/1992/04/13,14,16,17

   1991/09/30*

   1990/02/09**

   1992/04/20,21*** ガスタイク・ホール ミュンヘン

 

P:トリステン・シュレイアー*,**、ジェラルド・ユング***

E:ペーター・アーバン**、ヴォルフガング・カレス*

 

EMI 0 85606 2

 

 

 チェリビダッケというと一般のイメージ的にはベートーヴェンやブルックナー、ブラームスなどの王道の作曲家のレコーディングばかりが話題となりますが、コンサートライブが主体というのもあって、かなり珍しい作品も録音しています。2011年に発売されたチェリビダッケのボックスは好評だったようで、その後価格が大幅にプライスダウンされて再発されました。まあ、レコード時代はまぼろしの指揮者と言われたぐらいで、セッション録音はほとんど無かったのですが、彼の死後その膨大な放送録音がEMIからリリースされ、彼の芸術に触れる事が可能になりました。

 

 しかし、EMIがクラシック部門をワーナーに身売りしたことで、チェリビダッケがミュンヘンフィルと残した遺産を待つめて大幅にプライスダウンした49枚組のセットが2018年に発売されています。HMVなら今現在6890円と超破格値です。

 

 チェリビダッケは度々日本も訪れていたのでそのライブに接した人も多々いる加と思いますが、日本でのコンサートはいわゆる一般受けする通俗名曲が主体で、彼の本来のレパートリーはあまり知る所ではなかったのですが、このEMIのボックスセットには「フランス&ロシア編」というものもあって、日本公演では取り上げられなかった、珍しい作品も含まれていて興味深いものでした。

 

 そんなことで、このセットから取り出したの2枚目に収録されているミヨーとルーセルの作品を収録した一枚です。ダリウス・ミヨーは知らない作曲家ではなく、クラシックを聴き始めた初期から「世界の創造」とか「屋根の上の子牛」とかは聴いていたので結構馴染みがあります。しかし、このCDに収録されている作品はどちらもお初のものでした。

 

 まず冒頭に「マリンバとヴィブラフォンのための協奏曲」が収録されています。何の先入観も無く聴き始めて、いきなりカウンター・パンチを喰らったような衝撃でした。ソロはミュンヘンフィルの名物ティンパニスト、ザードロです。マリンバといえば実演で聴いたことがあり、その時もいたく感動したものです。先ず、普通の演奏会では登場しない作品ですからね。それも、ゴジラの伊福部昭の「マリンバとオーケストラのためのラウダ・コンチェルタータ」という作品でした。マリンバは日本の重鎮、安部圭子さんのソロでいやまったく聴きごたえがありました。このミヨーの作品の冒頭を聴いただけでその時の感動が蘇ったほどです。ここでは、マリンバとヴィヴラフォンを弾いているわけですが、ザードロが奏でる多様なニュアンスと色彩感には、打楽器とはこんなにも表情豊かなものなのかと驚かされます。個人的には右セィヴラフォンはジャズのミルト・ジャクソンとかカル・ジェダーの演奏で親しんでいますから、聞き慣れた音色でオーケストラに溶け込む事も知っていましたからまったく違和感ありません。まあ、一度聴いてみて下さい。

 

 

 チェリビダッケのテンポは当然の如く遅いですが、旋律線をきっちり歌わせているので非常に分かりやすい音楽になっています。その最も良い例が第2楽章でしょう。レントと指定されていますから、元々ゆっくりとした楽章ですが、ここはチェリマジックで更にテンポが遅いです。しかし、この悠久としたテンポはこの曲に新しい魅力を見いだしています。ミヨーの隠れた名曲ではないでしょうか。

 

 続くフランス組曲も実に鮮やかな演奏です。この曲は第二次世界大戦中にフランスから逃れアメリカにいたミヨーが、連合軍とナチスの戦場となった場所の民謡を使ってアメリカの若者向けに作曲したものです。この曲には管弦楽版と吹奏楽版があり、もちろんここでは管弦楽版により演奏されています。ミヨーの作品としては比較的平用に書かれているので分かりやすい音楽になっています。チェリビダッケの音楽は各曲の標題を噛み砕いたような解釈で解り易く歌い上げています。それでいて、変に民謡色を強く打ち出したり、風景が音楽のようにこびた演奏になっていない所が凄いです。

 

 

 ところで、後半のルーセルは両方とも初めて接する曲です。元々ルーセルで知っていたのは「蜘蛛の饗宴」とバレエ「バッカスとアリアーヌぐらいです。wikiで確認しても、最初の「小組曲」なんで曲目すら見つける事が出来ません。1929年に作曲された作品のようですが、第1楽章「オバード」から非常に丁寧に歌いこまれており細やかな表現力に脱帽させられます。次の「パストラル」も曲自体がややほの暗い雰囲気を持っていますので牧歌的というよりは瞑想的な雰囲気の深みのある音楽になっており、正直この音楽からこれだけ深みのある音楽が聴けるのは驚きです。このアルバムの中ではミヨーのレントと双璧をなす出来ではないでしょうか。ただし、最後の「仮面舞踏会」は華やかさよりはチェリダッケの襲いテンポがやや裏目に出てしまっていて、ハチャトゥリアンのそれよりも物々しくなってしまっているのがやや残念です。下は第1曲の「オパード」です。

 

 

 最後は「へ調の組曲」です。もともと当時のヨーロッパで流行していた新古典主義を意識して書かれた曲らしく、第1曲目の「前奏曲」から弦の動きがプロコフィエフの古典交響曲を意識したような動きをします。チェリビダッケは遅めのテンポでルーセルの語法を解き明かすようなアプローチで演奏しています。面白いといえば面白い演奏で、菊ほどにチェリの術中に嵌まってしまいます。次の「サラバンド」は一応は舞曲なんでしょうが、チェリはイメージだけをとらえて瞑想的な響きととらえているようです。最後の「ジーグ」はどこかしら「蜘蛛の饗宴」を思わせるような音楽になっています。ここでも、もう少しすっきりとしたテンポで演奏してくれると良かったのですが、ちょいと説明的すぎるのが難といえば難です。もう少しリズムの切れがあったほうが良かったのかなぁと思ってしまいます。まあ、刷り込みがアンセルメなのでしょうがないのかもしれませんけどね。

 

 

 それにしても、晩年までこういう音楽を積極的にプログラムに取り入れていたとは驚きです。カラヤンなんか金太郎的にベートーヴェンやらブルックナーしか演奏し無くなっていましたからね。カラヤンの評価で「新ウェーベルン楽派の音楽」が常に代表作にランクインするのは、カラヤンのイメージとはやや異質ながらここまでは俺はレパートリーにしていたんだぞというものが伺えるからなのでしょう。

 

 チェリビダッケのこのアルバムは、意外なチェリを知る上でも貴重な遺産といえるのではないでしょうか。ブラームスやブルックナーも良いけれど、こういうのもきらりと光っています。