年末恒例:ベートーヴェンの「第九」
名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団第3回定期演奏会
曲目/
1.R.ワーグナー/「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲
2.L.v.ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調『合唱付』作品125
指揮:髙谷光信
演奏:名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団、北名古屋市民合唱団
ソプラノ:原田幸子
メゾソプラノ:谷田育代
テノール:中井亮一
バス:伊藤貴之
今年も恒例のベートーヴェンの第九を聴きに出かけました。この地区でも毎週のように第九が演奏されていますが、このオーケストラは昨年まで36回の定期演奏会を開催してきた「名古屋芸術大学オーケストラ」が発展解消され、新たに名古屋芸術大学フィルハーモニー管弦楽団と名を改め、年4〜6回の定期演奏会を開催し、中部圏下で5つ目のプロオーケストラを目指して活動していくということです。アマチュアオーケストラとは一線を画すということでしょうか。ちなみに今年度は2020年1月31日(金)に第4回定期演奏会が予定されています。
第九ともなると大きな舞台セットで、合唱のメンバーの多さがわかろうというものです。メンバー表を確認するとオーケストラは75名ですが、コーラスは総勢169人の大所帯でした。オーケストラは基本12型でしたが、チェロ8本、コントラバスは6本と低音部が増強された構成でした。
今回はちょっと本場ドイツでは考えられない構成の曲目で、1曲目はワーグナーの「楽劇:ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲」でした。まあ、最近ではそんなこともないのでしょうが、最近読んだ岩城宏之氏の「音の影」という本に、ドイツでは未だにハレの日や祝典の時の演奏会ではこの曲は演奏されないのだそうです。まだまだナチス、ヒットラーの影を引きずっているようで、この曲はニュルンベルクで毎年開かれたナチスの党大会の時のオープニングに演奏された曲なんだそうです。ましてや、ベートーヴェンの第九もハレの日に演奏される機会が多い曲ですから、こういうプログラムはあり得ないのでしょう。そうはいってもここは、日本ですからこういうプログラムが組まれても誰もブーイングはしません。
この曲はやや遅めのテンポで演奏されましたが、重厚さという点ではちょっと物足りないものがありました。金管はそれなりに頑張っていたのですが、やはり、エンジン全開とまではいかなかったようで、燃焼不足でした。ブラボーの声がかかり1度だけカーテンコールがありましたが、指揮者もその点は心得ていたようで、このカーテンコールで金管パートの走者を立たせてねぎらっていました。
何と言ってもこのコンサートの聴きものは第九です。
まあ、12月になれば毎週のようにどこかのオーケストラが第九を演奏しているというシーズンですが、このオーケストラは本気にプロ化を目指しているという意気込みがんじられます。指揮者の高谷光信氏は今シーズン既に2回のコンサートを指揮していますからオーケストラは知り尽くしているのでしょう。客席からはしばしば指揮棒が止まるシーンが見受けられましたが、オーケストラはよどみなく音楽を紡いでいきます。ここぞというところではそのセクションに向かって大きなジェスチャーでオーケストラを煽ります。それに的確に答えるオーケストラも見事です。
合唱団は3楽章が始まる前に舞台に登場しますが、それに合わせて打楽器の奏者も一緒に登壇しました。たしかに、ティンパニ以外のシンバルや、トライアングル、大太鼓は第4楽章しか使いませんからこれで充分なんでしょう。
第4楽章も最初は指揮棒を使って演奏が始まりましたが、合唱が伴うあたりから指揮棒を使わなくなり、最近はやりの10本の指を使っての指揮となりました。高谷光信氏は現在は東京混声合唱団の指揮者も務めていますから、合唱をまとめるのはバッチリです。昨年よりも分厚いコーラスで、第4楽章はオーケストラの響きとともに、会場を揺るがすような大音響で聴き手に迫ってきました。中でもバスのソロの伊藤貴之氏の声は朗々と響き渡り、合唱全体を引っ張っているような印象を持ちました。
気になったのはトランペットのソロで吹く部分で、聴きなれない響きが混じっていたことです。ウイーンフィルは伝統的にオクターヴ上げをやることがしばしばありますが、それとは違う装飾音のようなものが挿入されていました。違和感を感じるほどでもありませんが、こういうのもアリかなと小生は受け容れ派です。
このオーケストラ、今回のプログラムに第九は毎年演奏することを明言していました。毎年の進化を確認することができるのは楽しみですし、第九なら会場は満員になりますからねぇ。これは一つのチョイスでしょう。