万屋大悟のマシュマロな事件簿
著者:太田忠司
出版社:ポプラ社
市後市のローカルアイドルグループ「marshmallow15」に脅迫状が送られた。警護を引き受けたのは、万屋大悟。市内で警備会社を営む社長であり、「marshmallow15」のメンバー・知織の父親でもある。親バカを発揮して職権を乱用しまくりつつ、様々なトラブルと事件を解決する大悟。年頃の娘とは、ちょっと微妙な距離感を保ちつつ、謎に立ちむかう。それぞれの事件を通して見えてくる少女達の強い想いと、父娘の絆。そして脅迫状の犯人と驚きの真相とは――!?
ミステリの名手・太田忠司による珠玉の連作ミステリ!---データベース---
表紙からすると、てっきりテレビドラマの原作本というイメージだったのですが、どうも違ったようです。ここに登場している遠藤憲一氏は全く関係がないようです。しかし、この本の帯のキャプションはやっぱいかんよなぁ。
大体金曜夜11時枠といったらテレ朝系しかないじゃん。まあ、ドラマ化されるとしたら地元のメーテレが筆頭候補にはなるんでしょうけどねぇ。一応、「ミステリなふたり」で太田幸司氏の作品は実績があるし・・・
主人公の大悟は元警視庁のSPだったのですが、ある事件の責任を取って警察を辞め、故郷の市後市でガーディアン警備保障という会社を設立し、社長として経営と後進の指導に多忙な日々を送っています。そんな時、ローカルアイドルグループ「marshmallow15(マシュマロイチゴ)」に脅迫状が送られてきます。略してマシュイチには自分の娘がメンバーになっています。でこの件は、警察沙汰にしたくないので様子を見るという芸能事務所に対して、自分の娘の安全のことでもあり、自ら警備を買って出たのでした。このことは娘の知織とマネージャーの永塚桔梗しか知らないことだったので、マシュイチの公演のたびについてくる大悟は、周りからはただの親ばか親父と思われる始末でした。章立てです。
1.アイドルを守れ
2.消えたアイドル
3.もう一人のアイドル
4.アイドル上京す
5.アイドル舞台に立つ
6.アイドルは終わらない
それでも、娘や他のメンバーのことが心配で、会社のことは二の次でマシュイチの警護に取り組み、派生的に起こる事件を無事解決していく大悟の姿は、どうしても表紙と見返りに登場している遠藤憲一にイメージをダブらせてしまいます。実際の大吾よりも10歳ほど年齢入っていますが、ピッタリの役どころといってもいいでしょう。
5人のアイドルグループは最初6人組だったとか、大吾の娘の知織が引きこもりだったとか、メンバーの一人が独立したいとか色々なエピソードが展開されていきます。巻末に参考文献も色々挙げられていますが、今あちこちに誕生し、人気を博している御当地アイドルの実態や、そのファンの生態などシニアのオジサンには理解しにくい部分も丁寧に描かれていて、勉強になります。
大吾が警察を辞めたエピソードやマシュイチのマネージャーの永塚桔梗の過去とかが、第5話で詳しく語られます。そう、この第5話では大吾が警護の隙を突かれて刺されてしまいます。その伏線は第1話に潜んでいるのですが、最後の最後に意外な脅迫状の差出人の姿が明らかになり、マシュイチも一回りも二回りも大きくなって物語は終わります。作者の太田氏は一応ミステリー作家ですからこの最後のどんでん返しは意表を突かれます。
ただ、大吾と永塚桔梗との微妙な関係の結末がちょっと肩透かしを喰った形になっているのが残念といえば残念です。文庫本化された暁にはエピローグとしてそのあたりのところが追加されればいいのかなぁと思ってしまいます。いや、それよりもせっかく遠藤憲一氏を表紙に採用しているのですから、やはりドラマ化が先でしょう。深夜枠ならコアなファンはちゃんと観てくれるでしょう。