マゼールのシベリウス | geezenstacの森

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マゼールのシベリウス


曲目/シベリウス
交響曲第3番ハ長調Op.52
1. Allegro Moderato 9:57
2. Andantino Con Moto, Quasi Allegretto 8:08
3. Moderato, Allegro 9:29
4. Lemmink??inen Suite, Op. 22 - The Swan Of Tuonela 12:17
カレリア組曲Op.11
5. Intermezzo 4:05
6. Ballade 8:03
7. Alla Marcia 4:34
8. Kuolema, Op. 44 - Valse Triste 4:28
9. Finlandia, Op. 26 8:59

 

指揮/ロリン・マゼール
演奏/ピッツバーグ交響楽団

 

録音/1992/09/21,26,27 1-3
  1992/03/02-04 4.8
  1991/09/16 9 
  1991/09/16,1992/03/02-04 5-7 ハインツ・ホール、ピッツバーグ

 

P:スティーヴン・エプスタイン
E:バド・グレアム

 

SONY CLASSICAL 88697808332-3


  

 

 こんなはずではなかった、というのがこのマゼール/ピッツバーグ交響楽団のシベリウスの交響曲全集を買っての第1印象です。最近ちょくちょくシベリウスを取り上げましたが、本当は先にこのマゼールの演奏を聴いていたのです。それで、一番から聴き始めたのですが、どうもしっくり来ないのです。シベリウスはこんなんではないぞ!そんなことで、レコード時代に親しんだギブソンの演奏を改めて聴いたのでした。一番もだめ、二番もだめ。ようやくこの3番でこれなら何とか、ということで取り上げる気になりました。

 

 いやもう、全体にテンポが遅くてついていけないというのがこのマゼールのシベリウスでした。遅いシベリウスはバーンスタインでも体験していますが、その集中力は大したもので遅いテンポでもしっかりと聴くものを惹き付ける魅力をウィーンフィルから引き出しています。その点、マゼールの演奏はそこから何を訴えたいのか分からない様なスカスカの演奏でフォルテでは馬力があるものの、それ以上の演奏になり得ていません。その点、どういうわけかこの第3番は標準的なテンポで、オーケストラの美しさを引き出し、曲の持つ魅力を充分に伝えてくれる演奏になっています。

 

 第1楽章の第1主題がチェロとベースの民謡的な素朴なユニゾンで始まります。この出だしのテンポでこの曲をどのように表現したいのかが決まるといってもいいのではないでしょうか。ここでは、マゼールは1、2番とは違い軽快なアレグロのテンポを提示します。そんなこともあってここでは違和感はありません。オーケストラも実に伸び々々とした演奏を繰り広げています。もともと実力のあるオーケストラですから乗った時は素晴らしい演奏をします。ウィリアム・スタインバーグが勇退して以降、アンドレ・プレヴィン、そして、マゼール、その後はマリス・ヤンソンスへと引き継がれています。ここで聴かれる弦のアンサンブルはアメリカのオーケストラの中では暖かみのある響きで抜きん出ています。特に第1楽章はメリハリがあり、弾む様なリズムでぐいぐいと前進していきます。ソロ楽器も健闘していて、金管も押さえた表現でバランスのいい響きです。まあ、聴いてみましょう。

 

 

 第2楽章も弦の美しさに変わりがありませんが、ここではやはりフルートの活躍が目立ちます。このフルートの音色なかなか哀愁のある響きで、弦との絡みに聴き惚れてしまいます。この曲ではマゼールはあまり奇抜な表現をとっていません。そういうところが聴きやすくしているのかもしれません。第2番あたりでは強引な引き回しがやはり耳についてしまいますからね。

 

 シベリウスは交響曲第2番では第3楽章と第4楽章をアタッカで繋いでいましたが、この第3番では合体させてしまっています。ちょうど曲の中間ぐらいで第1楽章の主題を思わせる旋律が出て来て自然とフィナーレになだれ込んでいく手法は第2番よりも完成されています。曲の規模からいうと大曲の間に挟まれたベートーヴェンの交響曲第4番の様な位置付けですが、メロディの美しさは洗練されています。さすがにこのフィナーレの部分ではマゼールはちょいと金管を目出させるように煽っていますが、テンポが重たくないので非常に聴きやすくなっています。全体に遅い演奏が多い全集の中では、一番シベリウスの世界に入り込みやすい演奏ではないでしょうか。

 

 全集の中ではこの第3番だけが単独の交響曲として収録され、他は管弦楽作品を4曲収録しています。最初は「トゥオネラの白鳥」です。これはもう思いっきり悲しい白鳥で、多分この曲の演奏の中でももっとも遅い演奏になるのではないでしょうか。トスカニーにはこの曲を5分59秒で演奏していますからゆうに2倍以上の遅さです。で、全体的にその他の曲も遅い演奏です。好きな「カレリア組曲」もタイミング的にはそんなに遅いイメージではないのですが、どうしてか遅い印象があります。演奏が重たいのでしょう。録音時期を調べてみると、どうもこの「カレリア組曲」は録り直しをしているようです。聴いていると第3曲だけが音色がちょっと違って聴こえます。予想ですが、この第2曲はやけに深く悲しみに沈んでいるイメージです。よく見るとこの日付は、いずれもスローな曲を録音しています。多分、イメージ的にそういう気分だったので録り直しをしたのではないでしょうか。

 

 最後は本来ならアルバムのトップに来る曲です。それが最後にまわされているということは、あまり期待が持てません。ほとんど9分に近いこの演奏。重厚で金管の分厚い響きで圧倒される様な演奏が多いのですが、どうもマゼールの演奏は鈍重さが目立ってしまいます。金管が決して下手なわけではありません。ただ、バランスが悪いのでしょうか、全体に突出する響きが多くなんでこんな風に演奏させるの?というマゼール節が鼻についてしまいます。こういう曲を演奏させたらやはり、カラヤン/ベルリンフィルは役者が一枚上です。また、コロムビアの録音では、オーマンディ/フィラデルフィアの合唱付きの演奏も忘れられません。まあ、名演が多いのでマゼールは自己主張したかったのかもしれませんが、その目論みはあまり成功しているとはいえません。