ダヴィッド・ジンマン/R,シュトラウス作品集
曲目/R,シュトラウス
■交響詩『ドン・キホーテ』Op.35
■ロマンツェ ヘ長調 AV.75~チェロと管弦楽のため
■セレナード変ホ長調Op.7~13管楽器のための
■家庭交響曲 op.53
■パレルゴン(家庭交響曲余禄)op.73~左手のピアノと管弦楽のための
■メタモルフォーゼン(変容)AV.142~23の独奏楽器のための
■4つの最後の歌AV.150
■オーボエ協奏曲ニ長調AV.144
■アルプス交響曲 op.64
■祝典前奏曲 op.61
■交響詩『ドン・ファン』op.20
■交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』op.28
■交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』op.30
■交響詩『英雄の生涯』op.40
■交響詩『死と変容』op.24
■交響的幻想曲ト長調op.16『イタリアより』
■交響詩『マクベス』op.23
トーマス・グロッセンバッハー(Vc)
ローラント・ペンティネン(P)
メラニー・ディーナー(S)
シモン・フックス(OB)
デイヴィッド・ジンマン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団
P:クリス・ハーゼル
E:サイモン・イーデン
2000年1月~2003年2月、チューリヒ・トーンハレ
ARTE NOVA 74321 98495 2

レコード時代の人間にとってR.シュトラウスは多分「ツァラトウストラはかく語りき」から入ったと思いますが、小生も御多分に洩れずその口です。最初はカラヤン/ウィーンフィルのレコードでした。そして、派手なオーマンディの演奏を経てケンペで全集を揃えて満足したものです。まあ、巷ではカラヤン/ベルリンフィルのDG録音が評判でしたが、当時はDGの録音が好きではなかったので渋いケンペの演奏で十分満足していました。今ではカラヤン盤もCDで揃えていますが、個人的にはちよっと厚ぼったいサウンドなのであまりお気に入りとは思っていません。その点、ケンペ盤はCDでも買い直しましたが今でもよく聴いています。
そんな中、ベートーヴェンの交響曲全集でブームになったジンマン/チューリッヒ・トーンハレが、マーラーの交響曲全集を録音する前に完成したこのR.シュトラウスの管弦楽曲集はあまり注目されませんでしたが、デジタル収録された作品集としてはなかなかのレベルです。何よりも音楽が重たくないのでスッキリと見通しの良い音楽になっています。カラヤンが重厚でグラマラスな演奏とすればケンペは朴訥とした渋さが光り、このジンマンはベートーヴェンでも感じたのですが、録音会場の特性とでもいうか、全体の音の分離はさほどでもありませんが、金管は明るく響き、埋もれがちな木管や弦の細やかな動きはくっきりと聴き取ることができます。
このジンマンのボックスセットは7枚組の管弦楽曲集で、近年、メジャーレーベルはライブ録音でお茶を濁すことが多いのですが、セッション収録されている貴重なものです。そのアルテ・ノヴァもレーベルを牽引していた Dieter Oehmsが2003年に独立し、エームス・クラシックを立ち上げてからは先細りになり、現在は活動を停止していてSONY/BMGの中に吸収されてしまっています。
このR.シュトラウス管弦楽曲集はそんなどさくさに紛れて発売されたこともあり、たいして話題になりませんでした。ここでは3枚目のティルが含まれたCD取り上げます。
ベートーヴェンの次にセッションを考えたのがこのR.シュトラウスというのはジンマンの発案でしょう。トーンハレには合っていると思います。ジンマンといえば、1990年代の初めにグレツキの「悲歌のシンフォニー」がベストセラーになり注目を集めています。何も次はブラームスやシューマンでなくても良かったはずです。まあ、たまたまアルテ・ノヴァのカタログにR.シュトラウスが欠落していたことも幸いしていたのでしょう。
1曲目の「ドンファン」は冒頭のフレーズから、ノリの良いテンポでリズムを細かく刻みメリハリの効いた演奏を展開しています。重量感がないことから、やや軽めの音に聴こえてしまいますが、この曲にはふさわしい演奏ではないでしょうか。
次の「ティルオイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」は4管編成を感じさせないしまった響きです。指定ではヴァイオリンは16型ですが、オケの人数が少ないのかと思うほど、内声部、特に木管などのフレーズが良く聞こえており、見通しのよい演奏になっています。ここはオーケストラビルダーとしてのジンマンの手腕なんでしょう。量感はありませんが、各楽器はクリアに捕らえられていて、耳を澄まして聞くと木管のフレーズなどはきっちりと聴きとることができます。
3曲目はメインの「ツァラトゥストラはかく語りき」です。冒頭のオルガンがやや響きか軽いのがちょいと寂しい限りです。トーンハレのホールにはステージ奥にオルガンが設置されていますからもう少し録り要があったと思います。ここが充実していれば良い演奏なんですけどねぇ。でも楽譜を確認するとppで、ピアニッシモになっていますから、このジンマンの解釈は正しいということになります。
ニーチェの同名著作からのインスピレーションに基づく交響詩ということですが、これまた難解な哲学書ですから、凡人にはよくわかりません。それより、映画「2001年宇宙の旅」に使われたことで一躍有名になった曲で、冒頭の日の出は特に有名です。名曲集にもその冒頭だけしか収録されていないので一般の人はそれだけの作品と思っている人も多いのでしょうなぁ。レコード時代はこれ一曲しか収録されていなかったので、15分ほどで盤をひっくり返すという作業があったのですが、CD時代はおまけが2、3曲つくのが当たり前です。
ジンマンのテンポは全曲で34分ほどですから中庸です。カラヤンの演奏とさほど違いはありません。ただ、表情付けは交通整理が行き届いていてスッキリしすぎているほどです。カラヤンのような厚ぼったい表現とか、ショルティのような強引なオーケストラドライブが無い分やや魅力に欠けると言えるでしょう。オーケストラはうまいです。
ジンマンは2014年にトーンハレの音楽監督を辞任しています。しかし、その後も客演は続けているようですが、最近はさっぱりその動向が伝わってきません。ところで、オーケストラのトーンハレ管弦楽団はこの後リオネル・ブランギエが首席指揮者を務めていましたが、あまり話題にはならず、2019年のシーズンからはなんとパーヴォ・ヤルヴィが首席指揮者兼音楽監督に就任します。10月の就任披露コンサートではシベリウスの「クレルヴォ交響曲」を引っさげて登場するようです。なお、それに先立つ9月にはジンマンが、ベートーヴェンのトリプルコンチェルトと交響曲第7番を演奏するようです。