精選版 くらがり同心裁許帳 1 | geezenstacの森

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精選版 くらがり同心裁許帳 1

著者 井川香四郎
発行 光文社 光文社時代文庫

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 「くらがりに落ちた」。解決できなかった事件を奉行所ではそう言う。それらの事件を書き留めておくのが、南町奉行所永尋書留役である角野忠兵衛の役目。奉行所の角に忘れ去られた事件を、地道な探索でくらがりから引きずりだす忠兵衛を、仲間の同心はいつしか“くらがり同心”と呼ぶ――。窓際同心の人情味溢れる活躍を描いた人気シリーズから、著者自ら厳選した「精選版」!----データベース---

 先にこのシリーズの「泣き上戸」を取り上げていますが、調べてみるとKKベストセラーズのベスト時代文庫のこのシリーズはすでに廃刊になっています。なんとベスト時代文庫自体が休刊になってしまったんですなぁ。そんなことで、このシリーズで発売された全15巻の中から選りすぐりの作品を厳選して再発売したのがこの光文社版のシリーズということです。そのためにこちらは「精選版」と銘打たれ全8巻にまとめられています。そして、この巻は第1巻ということになります。シリーズの登場人物の紹介も兼ねているので、サブキャラクターが顔をそろえる内容になっています。

 この巻の目次です。
第一話 闇のあかり
第二話 埋もれて候
第三話 掏摸とお袋
第四話 晴れ女

{{{ 一年前に内藤新宿の飾り職人が、酔って大川に転げ落ち溺死した。
 奉行所の調べでは、単なる事故として片づけられたが、その死を受け入れられない母親は、月命日のたび南町奉行所に再吟味を哀訴していた。同心の角野忠兵衛は、事件の真相をつかむため探索を始める・・・。彼のお役目は迷宮入り事件ばかりを扱う「永尋書留役」。奉行所の角に忘れ去られた事件を追って、窓際同心角野忠兵衛が八百八町を駆け巡る!}}}

 という設定でこの物語は始まります。この第一話ではくらがり同心としての事件の処し方がメインになります。担当同心は一人、まあ小者は使いますがほぼ一人で事件を探索していきます。強力な助っ人として、剣術道場の師範、山根新八郎が登場します。ここではちょいと付け足し的な登場になっていますが、角野との関わり方の一端を垣間見ることができます。普段は竹光しか腰に下げない済みのが真剣でヤクザの親分のところに乗り込みます。

 「埋もれて候」は釣り仲間の旗本が変死をしたことで立ち上がります。この物語は大岡越前が登場して隅のを隠密的に扱っていますから時代は享保年間(1716-1736)の出来事であることがわかります。

 「掏摸とお袋」はお涙頂戴ものですが、ここでは棄捐令が絡んできます。ただ、この棄捐令は寛政の改革で松平定信が実施したのが最初の事例でで、大岡越前は絡んでいません。ですからこのストーリーはちよっと納得できません。

 最後は入水自殺をしようとした女を助けるということで、このストーリーで詩織が登場します。そして、ゴケとなった詩織の夫の死因を探ることで事件は大きな膨らみを持ってきます。隅のには酒井一楽という上町廻りの同心が上役にいるのですが、この酒井は狂言回し的に描かれていて人物設定に幅をもたせています。ただ、話がこの上司をすっ飛ばして大岡越前と直接絡むという設定は面白いのですが無理があるように感じてしまいます。