セル/クリーヴランドのシンフォニエッタ
ヤナーチェク/シンフォニエッタ
1. ファンファーレ:アレグレット~アレグロ・マエストーソ
2. 城(ブルノのシュピルベルク城):アンダンテ
3. 修道院(ブルノの王妃の修道院):モデラート
4. 街頭(古城に至る道):アレグレット
5. 市役所(ブルノ市役所):アンダンテ・コン・モート~アレグレット
コダーイ/組曲『ハーリ・ヤーノシュ』
Ⅰ.序曲:お話が始まる
Ⅱ.ウィーンの音楽時計
Ⅲ.歌
Ⅳ.合戦とナポレオンの敗北
Ⅴ.間奏曲
Ⅵ.皇帝と廷臣の入場
プロコフィエフ/組曲『キージェ中尉』 Op.60
Ⅰ.キージェの誕生
Ⅱ.ロマンス
Ⅲ.キージェの結婚
Ⅳ.トロイカ
Ⅴ.キージェの葬儀
トニ・コヴェシュ=ジュタイナー(ツィンバロン:2)
デイヴィッド・ゾーダ(コルネット:3)
デイヴィッド・ピールマン(コントラバス:3)
クリーヴランド管弦楽団
ジョージ・セル(指揮)
録音:1965年10月15日(1)、1969年1月10,11日(2)、1969年1月17,18日(3)
クリーヴランド、セヴェランス・ホール
プロデューサー:ポール・マイヤース(1)、アンドルー・カズディン(2,3)
SONY SRCR-9870

セルは、クリーヴランド管音楽監督時代に「シンフォニエッタ」を、1946/47年、1954/55年、1961/62年、1965/66年と4シーズンにわたって取り上げていますが、「ハーリ・ヤーノシュ」と「キージェ中尉」を取り上げたのは1968/69年の1シーズンのみでした。コロンビアによる録音セッションは、3曲ともこれらの演奏会と並行して行なわれました。ヤナーチェクはまずヒンデミットの「ウェーバーの主題による交響的変容」とのカップリングで発売されましたが、その後バルトークの「管弦楽のための協奏曲」と組み合わされ、この2曲がLP時代の定番となりました。一方「ハーリ・ヤーノシュ」と「キージェ中尉」は、「Two Musical Fables」=「音楽のおとぎ話」というアルバム・タイトルで発売され、漫画っぽいイラストのジャケットが目を惹き、コロンビア・レコードのカタログにあったオーマンディ/フィラデルフィア管による同じカップリングのステレオ盤(1961/62年録音)と並び称される存在となりました。セルの演奏レパートリーは広かったにもかかわらず、クリーヴランド管時代のプログラミングはどちらかというと18~19世紀の古典派・ロマン派をメインに取り上げたため、保守的と批判されることも多く、20世紀作品はセルの録音自体それほど多いわけではないので、この3曲の名演はセルのディスコグラフィの中でも大きな意味合いを持つものといえましょう。いずれもセルにとって唯一の録音です。
この曲は村上春樹の「1Q84」で俄然注目されましたし、その中で取り上げられたのがこのセルの演奏ということで話題になった演奏です。小生もレコード時代にはこのセル/クリーヴランドの演奏で、この曲を知ったほどです。セルにこのヤナーチェクの録音があると知ったのは最初に買った「新世界」のレコードでした。このレコード定番の「新世界」と「モルダウ」がカップリングされていたのですが、それよりもこのレコードにオマケにサンプラーレコードがついていて、その中にこのシンフォニエッタの第1楽章だけが収録されていました。金管だけで演奏されるファンファーレのようなこの音楽にいっぺんに魅せられてしまいました。廉価盤時代にソニーはなかなか1000円盤を出しませんでした。それ以前にはWシリーズとかで2枚組2500円のものはあったのですが ついにステレオ録音の1000円盤は出ませんでした。僅かにワルターのモノラル時代の録音を1000円盤で出した程度です。しかし、1300円になってからは不滅の演奏家シリーズ、オーマンディ/フィラデルフィアの芸術、そしてセル/クリーヴランドの芸術シリーズと立て続けに発売されたのが懐かしいですね。これらの企画は日本のCBSソニー独自のものだったのですが、そのシリーズにはこのCDに含まれるコダーイやプロコフィエフも含まれていて愛聴したものです。
さて、そのシンフォニエッタですが、セルの演奏は以外とゆっくりとしたテンポで演奏されています。曲の構造を知るにはいい演奏なんでしょうが、個人的にはこれよりも、アンチェル/チェコフィルの緊張感あるテンポの演奏のほうがお気に入りです。まあ、最初に第1楽章しか聞かなかったということで、刷り込みの演奏にはならなかったということでしょうか。(^_^;)
1926年の春に作曲されたシンフォニエッタは、伝統的な構成の楽章を一つも持たない、極めて斬新な作品です。もともと体育大会のファンファーレとして作曲されていますから、その元となった第1楽章には14人の金管奏者とティンパニーのために野外での演奏を想定して作られています。細かく言えばトランペットが各3人ずつ計9人。そしてテノール・チューバ(ロータリー式のユーフォニアムと言えばいいのだろうか?)が2人、そしてバス・トランペットが2人。それにティンパニーが一人という構成です。
その第1楽章のバンダの音楽のテーマは次のようなものです。

民族音楽によくあるペンタトニック(五音音階)で出来ている主題ですが、この魅力的な旋律が変奏曲風に第2楽章から第4楽章まで引き継がれ寝最後の第5楽章でまたし湯大が戻ってくるという構成の作品になっています。セルの演奏はじっくりとしたテンポで一音一音を丁寧に演奏させています。この曲のいわれからするとやや重たい演奏かなと思いますが、全体を一つの作品と捉えるとこういう解釈になるのかもしれませんが、個人的にはやはりアンチェルの方がお気に入りです。さて、シンフォニエッタとは小交響曲という意味ですが、ここでは交響曲を構成するソナタ形式/三部形式/ロンド形式の楽章なんてのは存在しません。極めて斬新な構成です。第2楽章以降はセルの演奏はスケールの大きな展開です。オケのうまさは右に出るものが無いので後はアンサンブルだけです。これが実に見事なのですが、意外にもセルはテンポを動かしかなりロマンティックな表情付けをしています。聴かせる演奏です。村上春樹がこの演奏をモチーフに取り上げたわけです。
一緒に収録されている「ハーリヤーノシュ」や「キージェ中尉」も手堅い演奏です。収録場所は1929年に完成し、1931年に開館したクリーヴランド管の本拠地であるセヴェランス・ホールです。1844席を擁する名ホールで、ギリシャ新古典様式の外観とアールデコを思わせる優美な内観で、「アメリカで最も美しいコンサートホール」と称されてきました。1958年にセルのイニシアチブで全面的な改修が行なわれ、セルが施行する各パートの明晰さとヨーロッパ的ともいうべき暖かみのある適度な残響感を備え、録音にも適した会場となりました。セル&クリーヴランド管のコロンビア/EPICへのレコーディングは全てここで行なわれているため、演奏者のみならず、プロデューサーはポール・マイヤースとアンドルー・カズディンの2人が分担していますが、彼ら以下エンジニアも含むレコーディング・スタッフは会場の音響特性を知り尽くした状況下で進められた理想的なセッションでした。
ただ、この改装でセルはパイプオルガンをコンクリートで覆い隠してしまったため、サンサーンスのオルガン交響曲やリヒャルト・シュトラウスのツァラトゥストラの作品は演奏されることは無かったのでしょう。結構セルのレパートリーは偏りがあるんですな。