陰陽師(おんみょうじ)2飛天ノ巻
著者 夢枕獏
発行 文芸春秋社 文春文庫
陰陽師の第二巻です。今昔物語の「今は昔・・・」と言う語り口のように、この物語り、晴明と博雅が晴明宅の濡れ縁で酒を酌み交わしながら語り始めるというパターンが定着してきます。希代の陰陽師安倍晴明と笛の名手源博雅(父は醍醐天皇の第一皇子克明親王、母は藤原時平の女)の名コンビが楽しいファンタジー物語りになっています。
平安京の都は、陰陽五行説や風水に基いて造られた、巨大な呪法空間です。そもそも平安京は、桓武天皇が怨霊から自分の身を守るために長岡京をわずか10年で捨てて造られたものなんですね。北方に玄武の船岡山、東に青龍の賀茂川、南に朱雀の巨椋池、西に白虎として山陽、山陰の二道を配し、鬼門の方角である東北には比叡山延暦寺が置かれています。
内部では常に権力争いがあり、殺人の呪法なども日常的に行われていました。京の都は、深い闇と鬼とをその内部に育てていく、呪詛の温室であったのです。このような背景をふまえて、陰陽師と呼ばれる、呪詛の技術者たちが生まれていったのです。
今回は、小野小町と深草の少将なども登場し、趣き深く、また、博雅のプロフィールを紹介する作品もあり、読みどころ学まった一冊となっています。章立ては以下のようになっています。
平安京の都は、陰陽五行説や風水に基いて造られた、巨大な呪法空間です。そもそも平安京は、桓武天皇が怨霊から自分の身を守るために長岡京をわずか10年で捨てて造られたものなんですね。北方に玄武の船岡山、東に青龍の賀茂川、南に朱雀の巨椋池、西に白虎として山陽、山陰の二道を配し、鬼門の方角である東北には比叡山延暦寺が置かれています。
内部では常に権力争いがあり、殺人の呪法なども日常的に行われていました。京の都は、深い闇と鬼とをその内部に育てていく、呪詛の温室であったのです。このような背景をふまえて、陰陽師と呼ばれる、呪詛の技術者たちが生まれていったのです。
今回は、小野小町と深草の少将なども登場し、趣き深く、また、博雅のプロフィールを紹介する作品もあり、読みどころ学まった一冊となっています。章立ては以下のようになっています。
■天邪鬼 (小説新潮 1993年8月号)
■下衆法師 (野性時代 1993年11月号)
■陀羅尼仙 (小説中公 1994年1月号)
■露と答へて (アンソロジー「日本SFの大逆襲!」 1994年11月徳間書店刊)
■鬼小町 (小説中公 1995年2月号)
■桃園の柱の穴より児の手の人を招くこと (野性時代 1995年2月号)
■源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと (別冊文藝春秋 1995年夏号)
「天邪鬼」
上賀茂の山中に、奇怪な子どもの物の怪がでるという。人間が「通りたい」と言うと絶対に通さず、「通らない」と言うと無理に通してくれるが朝まで同じところをグルグル回っているだけらしい。同じ頃、教王護国寺(東寺)の仏師が晴明の元にやってきて、ずっと彫っていた四天王寺像の足に踏みつけられている邪鬼が、元の彫刻からぱっかり抜けてしまったと告げる。
「下衆法師」
辻で外術(魔法、手品)を見せて商売をしている青猿法師に、絵師の寒永翁が弟子入りしたいと言い出した。青猿は、寒永を師匠に会わすと言って深い山の中に連れて行くが、はたして師匠の正体とは・・・
「陀羅尼仙」
陀羅尼経とは、すべての悪魔や外道を調伏する真言のことである。ある比叡山の坊主が、仏道ではなく仙道に憧れ、仙人になるために山を降りた。坊主はやがて厳しい修行の末、血なく肉なく毛におおわれ、奇妙な骨を持ちふたつの翼を持つに至った。ある日、空を飛んでいると懐かしの叡山から陀羅尼経が聞こえる。思わず仏堂に降りて聞き惚れていると、なぜか空が飛べなくなってしまった。
「露と答へて」
白玉がなにぞと人の問いし時 露と答へて消えなましものを
藤原兼家が夜、女のもとへ通う途中に百鬼夜行に出会って死ぬ思いをしたという。その真相とは!?
「鬼小町」
八瀬の山里の荒れ寺に老法師が住み着いたが、毎朝、気品のある老婆が通ってくるという。
小野小町と深草の少将。晴明にさえ救えぬ、ふたりの絡まった魂縛の行方。
「桃園の柱の穴より児の手の人を招くこと」
源高明が住んでいる高名な桃園邸で怪異が続いているという。柱の節穴から、夜になると稚児の手が這い出てきて人を招くのだ。高明が弓矢を打ち込むと、屋根から人の指が落ちてくるようになった。やがてカエルが落ちてくるようになり、ついにはアオダイショウがぼとぼと落ちてくるようになった。その話を聞きつけた源博雅は、晴明に怪異の調伏と謎解きを迫る。
「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」
三条東堀川橋に女のあやかしが出るという噂が、清涼殿の宿直をしている武士の間で広がった。夜な夜な女が橋の上に現れ、通ろうとする武士を通せんぼし、改修が迫っている堀川橋の工事の延期を求めるという。剛の者が次々とあやかしに翻弄され、ついに源博雅に出番が回ってくる。
この中で読み応えのある一話は「鬼小町」でしょう。
花の色はうつりにけりないたづらに
わが身世にふるながめせしまに
この短歌は殆どの人が知っているでしょう。「百人一首」にも含まれる「古今集」春のぬぬあばんの歌です。
{{{老いることが、美しさを失うことだとは思わない。「お若いですね」が褒め言葉になる意がわからない。いく時代を経たその皺ひとつひとつに美が宿る。その人の生きてきた価値が刻み込まれる。そして、花は散るからこそ、美しい。}}}
とまぁ、この歌を題材にしたのがこのストーリーです。で、小野小町は成仏出来ずに鬼になって登場するというわけです。史実ではありませんが中々ファンタジックな展開で楽しませてくれます。
そして、もう一編、最後の「源博雅堀川橋にて妖しの女と出逢うこと」では、安倍晴明の相方源博雅がお役目の清涼殿の宿直をしている様が描かれ、一人で、三条東堀川橋に出掛けまやかしに出会うとストーリーになっています。各話が読み切りになっているので読みやすいですか、いよいよ第3巻からは再登場する人物もで出来て話に深みが生まれているようです。