ラウテンバッハーのモーツァルト | geezenstacの森

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ラウテンバッハーのモーツァルト/セレナーデ第4番「コロネード」

曲目/モーツァルト
セレナーデ第4番ニ長調K.203「コロネード」
1.Andante maestoso - Allegro assai ニ長調
2.Andante 変ロ長調
3.Menuetto ヘ長調
4.Allegro 変ロ長調 24:15
5.Menuetto ニ長調
6.Andante ト長調
7.Menuetto ニ長調
8.Prestissimo ニ長調 21:32

指揮者/ギュンター・ヴィッヒ
演奏/南西ドイツ室内管弦楽団(シュトットガルト)
ヴァイオリン/スザンネ・ラウテンバッハー
オーボエ/アルフレード・スー

録音/1975年ごろ

SAPHIAR 25779-0 SB

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 今はTELDEC翼下のINTERCORDから発売されていたレコードで、「INTERCORD KLASSISCHE DISCOTHEK」というシリーズの一枚です。レコード時代の発売窓口は最終的には東芝EMIだったのですが、国内ではクラシックが発売された記憶はありません。もっぱらプログレ・ロック専門で発売していたようで、「INTERCORD JAPAN」が窓口になっていました。

 このレコード現地ドイツで見つけたものですが、多分INTERCORD の廉価版シリーズがこの「SAPHIAR」レーベルで発売されていたものだと思われます。ジャケ買いの一枚で、モーツァルト、セレナーデの単語をチェックし、さらにギュンター・ヴィッヒの名前の知識にあったので捕獲したものです。ギュンター・ヴィッヒは1970年代に頻繁にNHK交響楽団に客演していました。

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 しかし、つい最近まで、このレコードにヴァイオリン独奏としてスザンネ・ラウテンバッハーがクレジットされているとは全く知りませんでした。先の10月3日の記事で取り上げたさいにジャケットを詳しく見ていて気がついたのです。このレコード不思議なもので、小生の手持ちは上記のレコード番号なんですが、同じジャケットで「Saphir ‎– 29 375-3」と「Saphir INT 120.860」という別番号のものも存在します。さらにジャケット違いでは本家のINTERCORDから947-09 K (J 947/3)という番号でも発売されています。不思議なレーベルです。

 さてさて、肝心の曲目です。むセレナーデにはたくさんの楽章があり、奏者の入場退場のための行進曲がつき、メヌエットの楽章があり、ディヴェルティメントに似ています。モーツァルトの場合、デッカから以前、ボスコフスキーの指揮で「セレナード&ディヴェルティメント集」も出ていたように、ノットゥルノ、ナハト・ムジーク、カッサシオーンとか呼ばれる曲はすべてセレナーデと同じ扱いで用いられていたようです。で、ここではセレナーデとしてのどういうときに演奏されたかというのがはっきりしている曲のひとつに、この作品が挙げられます。

 日本ではただ単にセレナーデ第4番と呼ばれていますが、欧米ではここでのタイトルのように「コロネード」と呼ばれているようです。このコロレド」というのはモーツァルトの最初の伝記著者ニームチェクが「コロレド大司教の命名日のために書かれた」と述べていることに由来しているようです。ただ、最近の研究では サルツブルグ大学の「修了式」のときに演奏された音楽というのが定説で、「フィナール・ムジーク」と考えられているようです。

この「フィナール・ムジーク」は文字通り終了の音楽で、ザルツブルク特有の音楽ジャンルであったようです。
{{{毎年8月大学の学期末に2年間の予備課程を終えた学生により主催された終了式で使われた音楽。 楽士たちは行進曲を奏でながら大司教の夏宮殿のミラベル広場まで練り歩き、そこで大司教のためにセレナードを演奏する。 その後再び行進曲で退出し、大学へ戻り、教授たちのために演奏する。 さらにもう一度行進曲を奏でて楽士たちは退場し、ザルツブルク夏の恒例行事が終る。 学生の感謝と別れの音楽祭だが、市民にとっても楽しみな行事だった。 大学には2つの課程(論理学科と物理学科)があったので、毎年2曲がザルツブルクの有力な作曲家に委嘱された。}}}

 この曲の構成は以下の通りです。
1.アンダンテ・マエストーソ-アレグロ・アッサイ
堂々としたアンダンテに続いてアレグロの軽快なリズム。
2.アンダンテ
繊細可憐なメロディーをソロ・ヴァイオリンが奏でる。
3.メヌエット
弦のみにて演奏されトリオは、ヴァイオリン・コンチェルトのよう。
4.アレグロ
ヴァイオリン・コンチェルトで、優雅な美しいソロが印象的。
5.メヌエット
力強いメリハリがある曲で、トリオではフルートとバスーンが活躍する。
6.アンダンテ                           
弱音器をつけたヴァイオリンの上をオーボエが美しく歌い上げる。
7.メヌエット
とっても元気のいい曲。
8.プレスティッシモ
快活な曲で、最後のコーダも印象的。

 音楽之友社の「名曲解説全集」によると、
{{{ K185(167a)に続いて初期のニ長調セレナーデ群の第2番。第3回のウィーン旅行から帰郷したモーツァルトは、緊張した内容の音楽から離れて特定の機会のためや、あるいはそうでない娯楽音楽を多く作曲するようになったがおそらくこの曲もそうした時期に書かれたものと思われる。モーツァルトの娯楽音楽はほとんどの場合、ある決った機会のために作曲されているが、この作品は〈フィナール・ムジーク〉(K185(167a)参照)として注文された可能性はあるものの詳細は判明していない。K185(167a)からK239に至るセレナーデではコンチェルタントな要素を強く前面に出した作風が注目されるが、この場合もそれが顕著にみられる。なお室内での「シンフォニア」として奏される場合には、第1、第6、第7、第8楽章が抜粋されたと考えられる。}}}

 というものです。たしかに、ホグウッドのモーツァルト交響曲全集には「交響曲 ニ長調 K.203」として収録されています。で、この曲はまた「ヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 K.203」としての性格も持っています。これは第2、3、4楽章を抜き出したもので、ソロヴァイオリンの活躍といいカデンツァといい独立した作品としてもレコードになっています。まあ、そんなこともあり、ここではソロヴァイオリンをラウテンバッハーが勤めているのでしょう。ヴァイオリン協奏曲として捉えるとわずか10分少々の室内楽的小品ですが、当時の演奏シーンを考えるとこれくらいの規模でも成り立ったのでしょう。

 演奏は女性らしい細やかな表現で、この時代特有のロマンティックな香りのする落ち着いた演奏です。ただ、録音が今の水準からするとやや霞のかかったような音で捉えられていて、イマイチ鮮明さに欠けるのが難点です。

 後半活躍するオーボエもくすんだ音色で、いい味を出しています。ここでのソロをとるアルフレード・スーについては全く知りませんでしたが、調べるとフランクフルト音楽大学で教鞭もとっていて、バイロイト祝祭管弦楽団で活躍していたようです。レコードもモーツァルトを始め、サレエリやチマローザ、ヴィヴァルディなどの作品をあるヒーフやターンナバウトに残しています。

 改めてじっくり聴いてみると、隠れた名盤というにふさわしい内容の一枚です。
YouTubeには第1楽章だけアップされていました。