クリーヴランドカルテットと東京カルテットの共演
曲目/
メンデルスゾーン/弦楽八重奏曲Op.20
A1 Allegro Moderato Ma Non Fuoco 14:17
A2 Andante 7:47
B1 Scherzo: Allegro Leggierissimo 4:08
B2 Presto 5:42
Variations And Scherzo For String Quartet, Op. 81*
B3 Theme And Variations: Andante Sostenuto 6:21
B4 Scherzo: Allegro Leggiero 3:32
演奏/The Cleveland Quartet, Tokyo String Quartet
Cello – Paul Katz (2), Sadao Harada (tracks: A1 to B2)
Viola – Kazuhide Isomura (tracks: A1 to B2), Martha Strongin Katz
Violin – Donald Weilerstein, Kikuei Ikeda (tracks: A1 to B2), Koichiro Harada (tracks: A1 to B2), Peter Salaff
録音/1977/05/16,17
1977/06/26* ニューヨーク
P:Jay David Saks
E:Paul Goodman
英RCA RL-12532

この曲は、メンデルスゾーン齢16歳の時の天才的傑作で、、少年の希望に満ちた青春の夢や希望と落胆、青春の息吹のような、感情の変化を緩急が入りまじる旋律で表現しています。そういう若々しい感性を聴かせるということで、この組み合わせでの録音がなされたのでしょう。
録音当時東京カルテットと、もう一つのクリーヴランドカルテットは1969年の結成です。ただと、東京カルテットはデビューアルバムをDGから発売しています。その記事は以前に取り上げていますが、そんなこともあり、ここでの扱いはクリーヴランドの後塵を拝しているのでしょうか。まあ、それがためにRCAに録音は残されていますが、吸収したソニーからはこの録音は日の目を見ていません。多分一度もCD化されていないのではないでしょうか。
このユニットの演奏は、そんな甘い少年の夢のようなものを表現するような、今までの演奏スタイルを拒否するがごとく、非ロマン主義で冒頭からグイグイと音楽を引っ張っていきます。演奏タイムからするとそれほど早いという印象ではないのですが、緩急の急は、今まで経験したことのないほどの圧倒的なスピードで、まるで何者かから必死に逃れるかのように表現されています。
このようなスピードで、しかも急変するのだから、演奏は非常に困難を極め、ビブラートをかける暇もないから、音色も物凄く先鋭に聴こえ、一世代前のウイーン八重奏団の演奏などの優雅さなどはどこをとって見ても微塵もないといっていいでしょう。
80年代をリードしていたこの二つのカルテットは競うようにお互いの技量を十分発揮して、プラスアルファの効果を出しているような気がします。
じっくり2日間をかけたセッション録音はスピード感とダイナミクスそしてアインザッツを十分満足したうえでの納得の演奏なのでしょう。第1Vnで奏される、通常は甘味に響くメロディは、優美でも甘くもなく、彼らが醸し出す音はひたすら鋭く尖っていて戦闘的です。若い時にしか表現できないようなこの演奏は多分一期一会的な出会いを意識してわざとそうしているのでしょう。
ジャケットには彼らのユニットによる演奏会のニューヨークタイムズの批評が左上に印刷されています。実演のステージでもこの先鋭的な演奏を披露していたことが伺い知れます。
このブログでは以前、ヴィヴァルテのラルキブデッリの演奏を取り上げていますが、そちらが熟練の達観の域に達した海藻の青春を表現しているならば、こちらは青春真っ只中のある意味恐れを知らない猪突猛進型のメンデルスゾーンが表現されています。作曲したメンデルスゾーンの年齢を考えれば、こちらの表現の方がある意味正解かもしれません。クリーヴランドにしろ東京にしろアナリーゼした結果がこの演奏となっているのでしょう。
惜しむらくは、彼らの演奏が色々なレーベルから細切れのように発売され、あまりまとまった形での体系的なものになっていなかったのが残念です。特にクリーヴランド軽鉄とは1995年に早くも解散してしまっています。東京カルテットも1995年にチェロの原田禎夫が脱退して音楽性がやや変化して行っています。
そういう意味では、これは貴重な若き日の記録といってもいいでしょう。バリエーションとスケルツォの方はクリーヴランドによる演奏ですが、あまり特色のあるものではなく、あくまでおまけ的な演奏です。それだけに丁々発止とやり合う八重奏曲が引き立っています。
やはり、YouTubeにもこの演奏はアップされていませんでした。検索するうちにちょいと気になる演奏が目にとまりましたので貼り付けておきます。曲は八重奏曲なんですが、ヴァイオリンに古澤巌の名前が見えます。チェロではヨー・ヨー・マも参加していますし、堤剛の名前も確認できます。古澤巌も1980年代は純粋にクラシックを演奏していたんですなぁ。
古澤巌といえば、このブログではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も取り上げています。よければ覗いてみてください。