お わ ら な い 夏
著者/小澤征良
発行/集英社

子供部屋の椅子にすわると、思い出たちが、きらきらひかりながら降ってきた。私は、そのすべてを書きとめる。生まれてからのすべての夏を。タングルウッドでの夏を…。---データベース---
おわらない夏というのはタングルウッドの夏です。タングルウッドはボストン交響楽団の夏の活動拠点で、「タングルウッド音楽祭」でも知られていますからクラシックファンならお馴染みでしょう。そして、このエッセイの作者は小沢征爾の娘とあらばそのつながりは納得出来るものです。
その娘の小澤征良(おざわせいら)が、生まれてから毎夏を過ごしたマサチューセッツ州タングルウッドでの美しい思い出が綴られています。その「おわらない夏」は2002年、小沢征爾のボストン響辞任とともに終わってしまうのですが、それまでの思い出がフラッシュバックのように記されています。ただ、有り難いことにタングルウッドの別荘の写真がふんだんに収録されているので、そこでの生活がリアルにイメージ出来ます。
ただ、話があちこち飛ぶし、登場人物の説明が下手なので回りにどういう人物が登場しているのかが巧く整理されていないところがあり、読んでいて非常に疲れます。200ページ程の単行本ですが、読み終わるのに一週間程掛かりました。この本はその2002年の11月20日に出版されていますが、その10日後にはもう第2刷めが出ています。当時は話題になったのでしょう、手元にあるのもその第2刷です。
しかし、この文体まるで小学生か中学生の作文のようなもので、大好きなパパとママと弟のユキ、タァタ、タカベェ、デビー、ドドたちという当人たちだけ分かる登場人物で埋められ、宝石のようにキラキラした夏を過ごす場所としての避暑地、タングルウッドにある別荘での生活の思いでのエッセイが時系列は関係なく記されているので頭の中が混乱します。
まるで、それは「小澤ファミリーの事は皆知ってるでしょ?」と、童話を読む時に、登場人物の履歴や住所がいちいち語られないのと同じ感覚なのでしょう。さらに冒頭で、当時のボストンポップスの指揮者としてのジョン・ウィリアムズや映画監督のスピルバーグなどがぽんぽん登場することで、ある種の羨望に変わってしまいます。
ただ、救いはファザコンの作者が描く父親としての小沢征爾の一面が今までのイメージには無い一面を描写していることでしょう。それは家族揃ってのバーベキューであったり、ファミリー連れ添っての「スターウォーズ」を観に映画館へ繰り出したり、眠れない夜は父と二人で深夜にバナナを食べてみたりというエピソードが書かれています。
あまり音楽のことは書かれていませんが、それでもタングルウッドでの音楽祭の最終日には恒例のチャイコフスキーの「1812年」を演奏した後で、亡きタカベェを忍んで先のジョン・ウィリアムズやアンドレ・プレヴィンまでもが集っていたということの驚きでした。ジョン・ウィリアムズとはボストンポップスとボストン交響楽団という同じオケを降っていたことで理解出来ますが、それまで、あまり小沢征爾とアンドレ・プレヴィンとの接点については語られたことが無かったのでこれは目を見張りました。
英語的文章と日本語的文章がチャンポンなのがこと人の特徴なのでしょうか。小生の世代ではちょっとついていけないところがありますが、今の若い世代ならこういう文章の方が読みやすいのでしょうか。タングルウットや小沢征爾に興味のある人は読んでも損は無いでしょう。
もうすぐ「セイジオザワフェスティヴァル松本2018」が始まりますが、今年も当の小沢征爾は登場しません。せめてこの本でボストン時代の小沢征爾を懐古するのも良いのではないでしょうか。