読んで楽しむのだめカンタービレの音楽会 | geezenstacの森

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読んで楽しむのだめカンタービレの音楽会

著者/茂木大輔
発行/講談社 

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 「のだめ」を支える音楽家だけが知る「リアルのだめ」の世界!---データベース---

 茂木さんというとその最初から「のだめカンタービレ」に関係していたかと思っていたのですが、この本を読んでいるとそれが間違いであったことが分かります。なんと、本屋の立ち読みで単行本の7巻が出ていた頃だと書かれています。この巻はのだめがオーボエを持って寝そべっている姿がカバーになっていて、その描写が正確ということに驚いたようです。

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 茂木さんの場合は、その描写の正確さや設定の完成度の高さに感激し、直ちにファンレターを送って作者とコンタクトをとった、というあたりが凄い行動力です。そのレターが講談社内で話題になり、直ぐさま担当者から返事が来ます。それからは、作者の周辺ともしっかり人脈がつながり、晴れて「公式スタッフ」としてスタート出来ることになったというわけです。でつまり、マンガの連載が始まった時点では茂木さんはなんのアドバイスもしていなかったというのが真実、ちょっと意外でした。

 この本の章立てです。

目次
第1楽章 すべては、あの晩に始まった!
第2楽章 「のだめ」音楽会感動リポート
第3楽章 テレビドラマ「のだめ」見聞記
第4楽章 のだめコンサート、全国へ
第5楽章 指揮者の勉強
第6楽章 第2シーズンの幕開け
茂木大輔の生で聴く“のだめカンタービレ”の音楽会公演記録

 最初の出会いは三鷹市芸術文化センターでのコンサートでした。この三鷹市でのもぎオケのコンサートは解説付きのコンサートが行われていたんですな。この頃のコンサートは別記事で取り上げています。これがキッカケて交流が始まり、こののち2005年に二ノ宮さんが講談社漫画賞を受賞した折りに臨時オケを編成しパーティを盛り上げたそうですが、その時に演奏した曲がのちのち「のだめカンタービレの音楽会」の曲目の骨子になっています。つまり、モーツァルトのオーボエ協奏曲であり、ベト7であり、ブラ1だったのです。で、裏話的にはこのパーティでオーボエを担当したN響の池田昭子で、のちにのだめのサントラの演奏を録音しています。また、このパーティが兗で漫画家の吉田戦車氏とと伊藤理佐さんが結婚していますし、スタッフだったマネージャーのマルタくんと舞台スタッフの鈴木女史が結婚したというおまけまで付いています。

 このようにエッセイスト茂木さんの仕事は、そんな「のだめ」の世界を実際にコンサートで実現させるところから始まります。このあたりのは、今までの著作で彼が見せてきた、まさに息もつかせぬ緊迫感で、読むものを引きつけずにはおきません。ここでも発揮された、茂木さんの人脈、それらの人々の確かな能力を、真に感謝を込めて描写する茂木さんの筆致にも、ますますの磨きがかかっています。

 ここで明らかにされるのが、当事者のみが知りうる正確な時系列です。巻末には、“のだめカンタービレ”の音楽会公演記録が掲載されていますが、最初にこの「のだめコンサート」が開催されたときには、実は世の中的にはそれほど「のだめ」は浸透してはいませんでした。もちろん、テレビドラマやアニメが制作されるという話すらもなかった時代です。そう、その後の、クラシック界までも巻き込んで、大ムーヴメントとなってしまった「のだめ現象」は、この後、春日井市民文化財団の小松さんが茂木氏の元を訪れコンサートが具体的に動き出します。

 公演は2006年1月26日、つまりはドラマ化の始まる前です。茂木さんの企画が具体的なコンサートとなったこの時、茂木氏は発熱でふらふらであったことが語られています。でも、この企画が成功したことにより、この“のだめカンタービレ”の音楽会はその後加速度的に浸透していきます。しかし、このコンサートが愛知の春日井市からスタートしたことは誇りです。この年テレビドラマは10月16日にスタートしていますが、それと前後して愛知県稲沢市と岐阜県美濃加茂市でコンサートが行われています。さして、最終回の12月25日の次の日も名古屋の芸術劇場で昼夜2階のコンサートが開催されています。余程「のだめ」は愛知県に縁があるのでしょうか。

 この後、はスペシャルドラマが生まれ、さらに映画が2本も制作されています。ドラマ化にあたって、茂木さんがスタッフに加わったというのは、いとも自然な流れでしょう。しかし、そこで直面したのは、「クラシック」の常識をドラマに反映させることの難しさでした。一例を挙げれば、コンサートが終わってからのスタンディング・オベーションのシーンなども、クラシック・ファンであれば間違いなく日本ではまずあり得ない、違和感を抱くものなのでしょう。当然、茂木さんはこの件について申し入れたそうなのですが、「ドラマ」では音楽を全部流すわけでなく、最後にワンシーンとしてとして盛り上げる時には、多少現実離れしていても必要なことだ、という「論理」の前に、あえなく不採用となってしまいます。これが演出なんでしょう。このあたり、茂木さんの悔しさのようなものがひしひしと伝わってきますね。

 ともあれ、のだめプームで音楽を目指した子供たちは、今社会に飛び立とうとする時期を迎えています。この若い人達がのだめを忘れずに音楽を続けていってくれることを願うばかりです。そういう意味でも、先日取り上げた「スタンドアップ!クラシックフェスティバル」のようなものが毎年開催されると良いなぁと思っています。