ウディ・ハーマンのストラヴィンスキー/エボニー協奏曲
曲目/ストラヴィンスキー
クラリネット・ソロとビッグ・バンドのためのエボニー・コンチェルト
1. Allegro moderato 3:26
2. Andante 2:01
3. Moderato con moto 3:31
三楽章の交響曲*
4.第1楽章 4分音符=160 10:24
5.第2楽章 アンダンテ - インターリュード 12:46
6.第3楽章 コン・モート
ウディー・ハーマン(クラリネット)
【1】ウディー・ハーマンと彼のオーケストラ
【2】ユージン・グーセンス(指揮)/ロンドン交響楽団
録音/1957 ニューヨーク
1958*ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール,ロンドン
日本コロムビア HRS1037(原盤エヴェレスト)

これは、例の「全日本レコード・CD サマー・カーニバル2018 」で目に附けていた一枚です。実際は購入しなかったのですが、抱え込んでいた一枚でジャケットだけは写真に収めていました。ただ、何となく所有していたような気もしたので、あとでじっくり確認すると多分国内盤で所有していると思い手放したものです。

早速帰宅してレコード棚を捜索してみるとやはり出てきました。それが冒頭の写真です。日本コロムビアから「ヒストリカル1000シリーズ」の一枚として発売されたものです。このシリーズその名の通りヒストリカルレコーディングを集めたシリーズでもっぱらモノラル録音が主流でしたが、中にはこういう掘り出し物のステレオ録音も含まれていました。
クラシック音楽への入り方がやや変化球的なものだったので、初期の頃から近現代音楽も結構聴いていました。で、レコードを収集しだした頃は1000円盤ブームで、結構重宝しました。最初は、それこそ名曲名盤で聴き慣れたレパートリーだけだったのですが、やがてコロムビアからは色々なシリーズが続々と発売され、かなり興味をそそられたものです。そんなシリーズの一つに「HISTRICAL RECORDING1000シリーズ」がありました。これなんか東芝のGRシリーズを凌ぐ珍しいソースが含まれていて、そんな中にウディー・ハーマンが演奏したストラヴィンスキーの「エボニー協奏曲」がありました。原盤はEVERESTでカップリングは三楽章の交響曲(ユージン・グーセンス/ロンドン交響楽団)というものでした。この時、ストラヴィンスキーにこういう作品があることを初めて知りましたが、それがまた、ジャズプレーヤーのウディ・ハーマンが演奏していると言う所に興味がありました。ということはジャズのイディオムが含まれているのでしょう。当時は既にミヨーの「世界の創造」なんかをよく聴いていましたのでそういう処でも繋がりを感じます。
独奏クラリネット、
テナーサクソフォーン2、アルトサクソフォーン2、バリトンサクソフォーン、バスクラリネット2、
ファゴット2、ホルン、トランペット5、トロンボーン3、ピアノ、ハープ、ギター、コントラバス、タムタム、シンバル、大太鼓
という編成でもお分かりのとおり、陽気で楽しいクラシックとジャズの折衷音楽。ジャズとクラシックとの境界をどこに置くかが難しいけれど、ここでは弦楽を伴わないオーケストラ作品という捉え方で、吹奏楽の範疇に入りそうなサウンドです。
元々この曲はウディ・ハーマンがストラヴィンスキーに委嘱して作曲された作品です。と言う事では初演者でもあるわけです。エボニー協奏曲は、ウディ・ハーマンの依頼により1945年に作曲したクラリネット協奏曲。初演は1946年3月25日、カーネギー・ホールにてウディ・ハーマン楽団により行われています。この、初演の年に録音された演奏がYouTubeにアップされています。この初録音にはストラヴィンスキーが自ら指揮を買って出ています。
このアップされている演奏はジャケットはエヴェレスと盤のものを使っていますが、実際は1945年の初演の頃の録音を流していて、看板に偽りのある音源です。
さて、このレコードの録音は1957年ですが、確認したわけではありませんが、多分世界初のステレオ録音による「エボニー協奏曲」でしょう。上の録音との違いはエヴェレスト盤では、ウディ・ハーマン自身が指揮をとっている事でしょう。テンポ的には初演に近い録音よりは若干遅めになっています。上の録音は、冒頭のリフ調のメロディの後に加わるハープや打楽器の音がもこもこのサウンドになっていて、ちょっと聴いた耳には何の音か分らないかもしれません。それがやはりステレオで収録されると各楽器の音がきっちり分離していて、作曲家の意図がしっかり聴き取れます。最初モノラルを聴いたときは、ギターがどこで鳴っているのか分らなかったのですが、既にこの冒頭の絡みで登場しているのです。こちらがステレオの音源です。
2曲目には「三楽章の交響曲」が収録されています。レコードでは第1楽章のみA面にカッティングされています。この作品、新古典主義時代を締めくくるターニングポイントとなる作品です。
ストラヴィンスキーのジャズイディオムを用いた最初の作品は1918年の「兵士の物語」からですが、これはストラヴィンスキーの新古典主義時代の作品に分類されます。ストラヴィンスキーは1939年にアメリカに亡命していますが、アメリカ合衆国の市民権を得たのは1945年12月になってからです。そして、本作はニューヨーク・フィルハーモニック・シンフォニー協会との親交20年を記念して作曲されたもので、1942年に着手、その1945年に完成しています。初演は翌1946年11月24日にストラヴィンスキー自身の指揮によりニューヨーク・フィルハーモニックによって行われています。エボニー協奏曲とほとんど同時期の作品といっても言いでしょう。ただし、こちらは渡米してから本格的なオーケストラ作品を発表していなかったストラヴィンスキーの久しぶりのフルオーケストラ作品という事でかなり注目されたようです。ちなみのストラヴィンスキーの主要な交響作品はすべてアメリカのオーケストラの委嘱によるという所が、当時のアメリカの羽振りのよさを実感させます。金にシビアだったストラヴィンスキーの人生が垣間見えます。そのうち残りの1930年の「詩編交響曲」はクーセヴィツキーが、ボストン交響楽団の設立50周年を記念しての委嘱作、また1940年の「交響曲ハ調」はシカゴ交響楽団創立50周年の記念作品です。
もともとはピアノ協奏曲として書き始められた作品ということもあり、第1楽章はピアノがかなり活躍します。何処となく、ペトルーシュカの雰囲気に似ているのもそういう構成が影響しているのかもしれません。こちらはユージン・グーセンスが指揮をしてロンドン交響楽団が演奏しています。よく知られた事ですが、このグーセンス税関でポルノ写真の所持で摘発され指揮界をなかば追放された人物です。まあ、そういうこともあり、ここでEVERESTに拾われてこの録音とあいなった気配があります。元々、このグーセンス1921年にはストラヴィンスキーの「春の祭典」のイギリス初演を行っている事から分るように、ストラヴィンスキーを得意としていたのもあるのでしょう。中々切れ味の良いサウンドで演奏しています。エヴェレストには他にも「春の祭典」、「ペトルーシュカ」などをこの時期に録音しています。
そんなことで、第2楽章はピアノはお休みでフルートとハープが活躍する曲になっています。もっとも、こちらも映画音楽用に作曲した「ベルナデットの歌」という作品だったので好かず、プロデューサーに没にされてしまったので交響曲の第2楽章に転用したというわけです。インターリュードというのは間奏曲という意味で、ゆっくりとしたテンポの中でストラヴィンスキーとしては中々メロディアスな旋律に溢れた楽章になっています。
第3楽章は、その二つを纏めるために新たに書き足した楽章で、漸くピアノとハープが同時に活躍します。聴いてみれば分りますが、この楽章は「春の祭典」を思わせる楽句が登場して思わず耳をそばだててしまいます。タイトルは交響曲となっていますが、実際には管弦楽のための協奏曲という色合いの強い作品ですね。グーセンスは、そういう視点でこの曲にアプローチしており、独奏楽器を取り立てて強調させる事無く全体をバランスよく鳴らしています。