月の雫―藍染袴お匙帖 8
著者/藤原緋沙子
発行/双葉社 双葉文庫

軽微な罪で入牢していたおまちという女が、娑婆に出てまもなく、本所堅川の土手で無残な遺体となって見つかった。検死に立ち会った女医桂千鶴は、堅川土手には咲いていない一輪の花をおまちの遺体から発見する。さらには草履の底に星のような白い砂が付着していた。医学館の教授方であった桂東湖の遺志を継いで、女医となった千鶴の活躍を描く好評シリーズ第八弾。---データベース---
この小説は2010年にテレビドラマ化されています。 まだ当時は時代小説に興味がなかった頃で、リアルタイムでは見ていません。タイトルも「桂ちずる診療日録」と変わっていたので気がつかなかった人も多いのではないでしょうか。
目次
第1話 花魁刃傷
第2話 月の雫
第3話 紅唐子
さて、このシリーズはちょいと変則的に読んでいます。ブログて取り上げているのは第2作までですが、それ以外にも読破しています。まあ、ストーリーがらみで登場人物は変わりますが、大筋のメインキャラクターは既に登場していますからどこから読んでも大して違和感はありません。そんなことで、第8巻を取り上げます。
第1話は千鶴が吉原へ足を踏み込むという展開です。贔屓の小間物問屋の主が魏楼の勝田屋で倒れたという一報で居合わせた求馬と一緒に市中から船を仕立てて山谷堀の船着き場から大門を目指します。ここで、藤原緋沙子さんは吉原のうんちくをしっかり語り、記述の中では花魁道中も描かれるのですが、この吉原大門を女が潜るには厳しいしきたりがあることについては一言も書かれていません。これはちょいと片手落ちですなぁ。
事件は花魁がお客を刺し殺すという展開で、吉原詰めの町方同心に直ぐ取り押さえられ小小伝馬町送りになります。現場に居たとはいえ、詳しい事情は解らずじまいでしたので、牢医として千鶴は情報を集めます。この事件の裏には上野の国高橋藩での経緯が絡んでいるようです。武士が仇討ちを許され、町民はお縄になるのは不条理な時代ですが、花魁は元商家のお嬢様でした。その店が取り潰しに遭い、裏で悪徳商人と武家が結託していたことが明らかにされ、事件は奉行所から藩の預かりとなりハッピィエンドで終わるのですが、ちょいと強引な展開ですなぁ。
第2話はタイトルになっている話しです。ここでは、女牢から解き放ちになった後で殺されたおまちの死因に不審なところがあり、検死医として千鶴が探索することになります。ここでも、求馬が絡んで来るのですが、友達に千鶴との関係をけしかけられたりするシーンが描かれています。しかし、しれっと無視するあたりは何とも歯痒いものがあります。それよりも、求馬の知り合いの小普請組の寺沢圭次郎とおあさが気になります。このおあさは、以前は菊池家に奉公していた女中だった女で、求馬に恋心を抱いていた女でもあるのです。それがこのストーリーでは敵となる圭次郎と結託しているのですからこまったものです。ここでは、その関係がさらっとしか描かれず、ちょっと肩すかしを食らったような展開で終始します。タイトル作ながら消化不良の一編です。
第3話は千鶴の出世話から始まります。御典医にならないかという申し出ですが、千鶴には女牢医を務める身でもあります。それを辞めろという申し出ですから、あっさりと断ります。生成したところで、生薬屋の内儀が飛び込んできます。娘の様子がおかしいので観てほしいというのです。
確かにお嬢様としてわがままに育てられた風で、反抗期のようにも見えますが、僅かなやり取りの中で千鶴は娘が妊娠していることに気がつきます。しかし、千鶴を振り切って出て行った娘はそのまま毒薬の鳥兜を飲んで死にます。一見自殺のようですが、調べると事件は思わぬ展開をみせます。たた、推理小説としては安っぽい第三者の登場で急転直下の解決に向かいます。これには複雑な親子関係が絡みますが、やや作り過ぎの展開です。ちなみにタイトルの「紅唐子」は椿の品種のことです。