アバド/ウィーンフィルのベートーヴェン「英雄」 | geezenstacの森

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アバド/ウィーンフィルのベートーヴェン「英雄」

ベートーヴェン
交響曲第3番 変ホ長調 「英雄」 Op. 55
1.Allegro con brio  18:22
2.Marcia funebre: Adagio assai  15:40
3.Scherzo: Allegro vivace  6:20
4.Finale: Allegro molto  11:42
指揮/クラウディオ・アバド
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
録音/1985/05.06 ムジークフェラインザール ウィーン
P&D:ライナー・ブロック
E:カール・アウグスト・ネーグラー

5.「エグモント」序曲 Op.84  8:20
6.「レオノーレ」序曲第3番 Op.72a  13:22

指揮/小沢征爾
演奏/サイトウ・キネン・オーケストラ
録音/1997/04  5 ムジークフェラインザール ウィーン
   1998/09  6 松本文化会館
P:ヴィルヘルム・ヘルヴェック
E:エヴァレット・ポーター

小学館(UNIVERSAL) SHCP-9

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 何ともゴージャスな演奏の取り合わせです。英雄はアバド、序曲は小沢征爾という夢のような組み合わせです。まず市販では不可能な組み合わせでしょう。出版社大手の小学館の力技でしょう。今は同じグループといってもグラモフォンとデッカ(フィリップス)の音源の合わせ技ですからね。何しろアバドは自身でも序曲集を発売していますから単独でのカップリングが可能なはずです。ちなみに市販では初出時は自身の「コリオラン」序曲とカップリングされていましたし、海外で再発された時も「エグモント」、「シュテファン王」、「アテネの廃墟」というカップリングで発売されていました。

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オリジナルジャケットはクリムトでした。

 調べてみるとアバドは、ウィーンフィル(1985~1987)とベルリンフィル(1999~2000)の両雄で全集を作り上げた最初のアーティストです。その後はサイモン・ラトルが2000年代に両オーケストラで全集を作り上げています。

 なお、このアバドの録音はウィーン国立歌劇場音楽監督就任(1986年)の前後に収録されたもので、さあこれからという時期に急逝した70年代~80年代中盤までのDGにおけるアバドのプロデューサーだったライナー・ブロック(1986年2月に急逝)に献呈されています。

 まあ、そういう背景のある録音ですが、どうも成功しているとは思えません。ライブ録音という事ですが、どうもホールの中央後方で聞いているような音で、弦の響きはよく聴き取れるのですが金管郡が奥に引っ込んでしまっています。また、ティンパニの音がやたらクローズアップされ、それがまた籠り気味にバリバリ叩かれるので、我が家のシステムではお手上げです。トーンコントロールで補正しても、中々落ち着いて聴ける音にはなりませんでした。

 さらに使用されている楽譜に付いては解説(解説は諸石幸生)には何もかかれていませんが、旧来のウィーンフィルの所有する楽譜を使って演奏しているのではないでしょうか。系列で辿るとベームの1972年録音、マゼールとの1983年のライブ、そしてこのアバドの1985年の演奏ともに一番分かりやすい第1楽章のコーダのトランペットの扱いに付いて聴き比べてみてもほぼ同じ処理をしているのです。つまりは、この当時の殆どの指揮者が行っているトランペットを高らかに鳴らせる処理をしています。ということで、聞き所に何の作も無い演奏という事でがっかりしてしまいました。まあ、途中では結構テンポを動かし、ヴァイオリンはアクセントをつけて旋律を演奏させる事までやっていていささか策を弄している印章です。

 ただ、第2楽章はアダージョ・アッサイのテンポでウィーンフィルの分厚い弦を生かした重厚な演奏でドラマチックな演奏を築いていて好感が持てます。後半の二つの楽章も小気味よいスケルツォではかなり金管を前面に押し出して咆哮させていますし、最終楽章もライブならではの高揚感の中でイタリア的な明るさを感じさせる開放感のある音色で楽しませてくれました。一応このシリーズ全てSHM-CDなんですが、元のソースが悪いものは如何ともしがたいですなぁ。

 この点、同時期の録音ではありますが、YouTubeにアップされているウィーン芸術週間での1985年6月4日 ウイーンコンツェルトハウスにて収録された演奏は、放送録音としてのバランスの良さで、CDよりバランスの取れた録音でアバドの目指す「エロイカ」を的確に捉えていると思われます。



 どちらかというと、この演奏を先に聴いていたのでDGの商業録音としての演奏を聴いてみたかったのですが、見事に裏切られました。こんなことを言っては何ですが、コンツェルトハウスでの上の演奏の方がおすすめです。

 カップリングの小沢征爾の「エグモント」は同じムジークフェラインザールでの録音ですが、こちらはきっちりとしたセッション録音であり、尚かつ小沢を知り尽くしたフィリップスのヘルヴェックのプロデュースということもあり、素晴らしい録音で聴く事が出来ます。こうして並べて聴くと、サイトウキネンはウィーンフィルといい勝負をしています。ただ、レオノーレは松本文化会館で録音されていますが、こちらは響きがややデッドで録音会場としてはもう一つこなれていないなぁという印象です。

 アバドは期待が大きかっただけに失望感も大きいですね。