口入れ屋お千恵 繁盛記(一)
著者 桑島 かおり
出版 株KADOKAWA 富士見新時代小説文庫
深川、三好町。通りから一本それた路地に佇むのは、若草の暖簾が掛かる「百合花」。そこは“元”御家人の娘・千恵が切り盛りする、女が女として生きる仕事を探すための、女人専門の口入れ屋だ。「百合花」を訪れるのは、嫁ぎ先を追われた若い後家、事情があって大奥勤めに暇乞いをした女中など、ひと癖ある事情を持つ女たちばかり―。---データベース---

作者の桑島 かおり(くわじま かおり)さんは、この作品で時代小説家てデビューを果たしています。最近は作家もプロダクション化されているのでしょうか、株式会社榎本事務所所属の作家さんです。所属の時代小説作家には、福原 俊彦、入江 棗、菅沼 友加里、暁 知明各氏がいるようですが、全て未読です。
目次
■茶屋騒動
■祭り音
■花の夢草子
■桜雪
設定こそ、口入れ屋と旅籠の違いはありますが、ストーリー展開は平岩弓枝氏の「御宿かわせみ」を踏襲しているという事では反対にストーリーに溶け込みやすいのではないでしょうか。
1話目の「茶屋騒動」では十手持ちの源助の親戚の娘が登場します。この娘、中々現代的で知恵の紹介する一膳飯屋ではなく自分から進んで腰掛け茶屋で働きたいというのです。この腰掛け値ややでは鈴木春信が描いた「お仙茶屋」で笠森稲荷の茶屋娘のお仙は、当時の江戸三大美人の一人で、それにあやかっての掛け茶屋での茶汲み娘を志願するのです。てなことてせ、一膳目視野を一日で飛び出した娘の鈴を、千恵は白銀町の「笹屋」を紹介します。ここには、以前にも一人お絹を紹介していたのでした。そこで聞いた話で、「茶屋巡り帳」なるものが流布しているのを知ります。
言ってみれば「七福神巡り」のようなもので、日本橋界隈の茶屋巡りを進めるパンフレットみたいなものですが、これが事件を引き起こします。つかみとしては中々のストーリーで、ここで登場する絵師の北山相斎は後々のストーリーでも絡んできます。
第2話の「祭り音」は大伝馬町の木綿問屋「河内屋」の丁稚の太一と上方の田舎娘小夏の絡む江戸ならではのほろ苦い話です。季節は茶屋騒動からしばらく経った7月の頃、神田祭りも近いとあって、町中がそわそわしています。そこに降って湧いたように小夏に附け祭りに参加して欲しいという要望が名主から寄せられます。まあこの話は二転三転するのですが、その間に事件は起こります。少々展開には無理がありますが、小夏が軽業師の見習いになるという展開は中々です。
第3話では貸本屋が登場します。江戸時代の貸本屋はそれこそ識字率の高い日本ならではの商売でしょう。昔は古本を扱うブックオフの様な店なんぞ存在しませんでしたから、行商形式でお得意先を回るスタイルの貸本屋が主流でした。ここに出戻り娘のお花が継母に連れられて百合花に相談に来ます。何をやってもダメな女ですが、唯一の取り柄は物語を生み出す才能です。その才能が買われて、貸本屋の光三と一緒になるのですが、これが戯作者の仲間入りをするのですから、何が運命を変えるのか考えさせられます。
最後は奥女中を勤めた女の就職口の斡旋ですが、何とここに忍者が絡んできます。仕事先は寺子屋に決まるのですが、ここに悪戯小僧の絡みと女の園の怪しい雰囲気もちらっと登場して非常にドラマチックな展開です。ここでは許嫁を反故にされた烈風周り同心の弦巻考四郎がいい按配で絡んできます。
文庫書き下ろし小説ですが、最初から一として出版されていますから続きが楽しみになります。