損料屋喜八郎始末控え | geezenstacの森

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損料屋喜八郎始末控え

著者 山本一力
出版 文芸春秋 文春文庫


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 上司の不始末の責めを負って同心の職を辞し、刀を捨てた喜八郎。庶民相手に鍋釜や小銭を貸す損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせ、巨利を貪る札差たちと渡り合う。田沼バブルのはじけた江戸で繰り広げられる息詰まる頭脳戦。時代小説に新風を吹き込んだデビュー作。---データベース---

 先に第2作から読んでいますが、今回はさかのぼって第1巻です。1997年に第77回オール讀物新人賞受賞の山本一力さんの初の単行本の文庫化されたもので、文春文庫で発売されています。

 損料屋(そんりょうや)とは、夏の蚊帳、冬の炬燵などの季節ものから鍋、釜、布団までを賃貸しする、今で言えば、レンタルショップのことです。江戸時代にはもうこういう商売が成立していたんですな。いや、近年のレンタル屋は1980年にレコードのレンタルを開始した「黎紅堂」が記憶に新しい所で、最近は「TUTAYA」や「ゲオ」に代表されるレンタルの大手が幅を利かせています。

 主人公の喜八郎は、損料屋の主人といっても、まだ三十前で、前身は北町奉行所の蔵米方与力・秋山久蔵配下の同心でした。何やらいわくがありそうなキャラクター設定がいいですなぁ。ちょうどバブル(田沼時代)からその後の不況(松平定信)の時代を舞台ということでは、同じく衣類のリサイクル店だった佐伯泰英氏の「大黒屋総兵衛」と同時代ということです。ここでは違う視点から札差の世界を描き、興味深く読むことができます。この巻の章立てです。

目次
万両駕籠
騙り御前
いわし祝言
吹かずとも

 この中で、跡の2作は単行本のため書き下ろしです。前の2作品は、オール讀物の平成11年の5月号と、12年の3月号に掲載されていました。中身的には札差の世界を描いた経済小説ですが、深川の人情をひしひしと感じさせる姿勢小説ともいえます。そこに北町奉行所が絡んできますから、捕物帳ともいえます。実際「騙り御前」では捕物装束の面々が登場します。

「万両駕籠」
 この物語の発端となる話です。喜八郎は、先代の時に多大な恩義を受けた札差・米屋政八の店じまいに力を貸すことになりますが、その「米屋」は今にも潰れそうです。そこで登場するのが、「棄捐令」です。江戸時代に発布されたこのお触れ、当時は殆ど理解出来ませんでしたが、この小説を読んですっかり理解出来ました。当時の札差の栄華を一変させるこお触れの舞台となるのがタイトルの「万両駕篭」なんですな。

「騙り御前」
 棄捐令で、旗本への多額の貸金を帳消しにされた、札差・伊勢屋四郎左衛門と、笠倉屋平十郎は、意趣返しの企みをけいかくします。これを喜八郎が嗅ぎ付け、配下の者を使って調べていくさまはまさに捕物帳の段取りです。公家を巻き込んだ企みを逆手に取って喜八郎の最後のどんでん返しが痛快です。

「いわし祝言」
 喜八郎が懇意にしている料理屋・江戸屋の女将・秀弥から、料理人の清次郎のことで相談を持ちかけられます。このエピソードは第2巻への架け橋ともなる話で、清次郎の婚姻が札差しの息のかかった座頭連中や賭博宿の主を向こうに回し、喜八郎は札差伊勢屋に乗込み直談判で事のけりをつけます。

「吹かずとも」
 深川富岡八幡の祭礼を1カ月後に控えたころ、いよいよ金策に困った蔵前の札差・笠倉屋平十郎は、番頭とひたいを寄せ合って、金の工面に頭を悩ませいます。そこで思いつくのが偽金作りです。この当時は元文小判で金の含有率が65.31%で慶長小判よりかなり悪くなっています。そこに目を付けた笠倉屋の悪巧みでしたが、喜八郎たちの活躍で未然に防ぐ事が出来ます。ここて、伊勢屋の意外な一面も披露されて次巻へのつながりがうまく図られています。

 大衆時代劇のようには読みやすくありませんがしっかり筋が通っていて、読み応えがあります。