堀米ゆず子/無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
~銘器「グァルネリ」が謳う~
【プログラム】
J. S. バッハ:無伴奏パルティータ 第3番 ホ長調 BWV.1006
J. S. バッハ:無伴奏パルティータ 第1番 ロ短調 BWV.1002
J. S. バッハ:無伴奏ソナタ 第3番 ハ長調 BWV.1005
と き:2017年11月27日(月)13:00
ところ:ちゅうしんホール
ヴァイオリン:堀米ゆず子

きっと何かの縁でしようか、今年5月に東京のミッシャ展へ一泊で出掛けたとき、たまたまその夜に堀米ゆず子の出演するコンサートがあり、チケットを取ろうとしたのですが、残念ながら入手する事が出来ませんでした。そんなことがあり、意気消沈していたのですが、9月にこのコンサートがあることを知り直ぐ申し込んでいました。ヴァイオリンの理想形の一つとされているあのグァルネリ・デル・ジェズで、世界的なヴァイオリニスト堀米ゆず子による、無伴奏のバッハを聴けるなんて滅多にないチャンスです!招待コンサートだったので、あまり期待はしていなかったのですが、仕事のスケジュールも丁度この日に休みを取る事が出来たので非常にラッキーなコンサートとなりました。

今回で37回目となる地元の信用金庫が主催するコンサートです。以前は2007年の第27回目のコンサートに出掛けて以来でした。この前日には広島の三原市芸術文化センター ポポロで同じプログラムのコンサートを開催しています。ちゅうしんホールは200名程度の小ホールです。前から9列目の正面という中々良い席で鑑賞する事が出来ました。

会場が狭いので登場はホールの後ろからです。これにも驚きましたが、舞台に上がると短いチューニングの後ですぐ演奏が始まりました。最初は無伴奏パルティータ 第3番です。よくジャズのアレンジで演奏されるプレリュードは耳に馴染みのある旋律です。堀米ゆず子氏の使用楽器は、ヨゼフ・グァルネリ・デル・ジェス(1741年製)で、演奏はホールの大きさを考慮したのか強弱をくっきりつけた演奏でした。音色は柔らかくホール全体を包み込むような音色です。多分、バッハもこれくらいの聴衆の前で演奏する事を想定して書いたのではという思いがします。堀米氏のボウイングも手に取るように解り、無伴奏パルティータ 第1番の重音奏法などでは、たぐいまれなテクニックを堪能出来ました。現代のヴァイオリンは弓が直線ですが、バッハ時代のヴァイオリンの弓はそれこそ弓なりに反っていて重音は今よりも弾き易い状況にあったと考えられますが、そういう困難さをいとも容易く演奏してしまうのですから恐れ入ります。2016年に堀米氏はエクストンにこのバッハの無伴奏ソナタとパルティータを全曲録音していますが、このCDは2016年5月号のレコ芸で特選盤になっています。

後半は無伴奏ソナタ 第3番です。こちらはチューニング無しにいきなり演奏が始まりました。無伴奏ソナタ全3曲中、唯一の長調の作品で緩-急-緩-急の構成の教会ソナタ形式ですが、第1楽章の主題はグレゴリオ聖歌の「来たり給え、創造主なる聖霊よ(Komm, Gott Schöpfer, heiliger Geist,)」に拠っています。これを聴いているとバッハの作品が宗教に深く根ざした作品である事がよく分かります。そして、第2楽章の354小節からなる長大なフーガが聴きものです。前代未聞ですが、この楽章の演奏では思わず聴衆から拍手が起こるほど素晴らしい熱演でした。個人的にも様々なヴァイオリニストの演奏を生で聴いてきましたが、この堀米氏の演奏は3本の指の中でもトップの演奏でした。いやあ、こんな演奏が聴けて今年はいい年になりました。