モーリス・ジャール自作自演 with RPO
曲目
1.Lawrence of Arabia 序曲 4:27
2.Lawrence of Arabia メイン・タイトル 2:03
3.Lawrence Of Arabia オーダのキャンプへの到着 1:22
4.Rosy's Theme 「ライアンの娘」〜ロージーのテーマ 2:17
5.Prelude & "Lara's Theme"「ドクトル・ジバゴ」〜ララのテーマ 5:18
6.Adela's Theme 「インドへの道」〜アデラのテーマ 2:46
7.Buidling The Barn from Witness (1985) 「刑事ジョン・ブック/目撃者」〜納屋を建てる 4:33
8.Is Paris Burning? 「パリは燃えているか」 3:43
9.The Damned 「地獄に堕ちた勇者ども」 11:14
10.Fanfare & Thunderdome Music「マッド・マックス3」〜ファンファーレ、サンダードームの音楽 4:43
11.Villa Rides! 「戦うパンチョ・ビラ」 3:43
指揮/モーリス・ジャール
演奏/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1986/02/24,27
CTSスタジオ、ウェンブリー
P:デヴィッド・モットレー
E:ポール・ハルメ
CBS 42307

先日、エルマー・バーンスタインを取り上げましたので、今度はモーリス・ジャールです。彼もロイヤルフィルを振って自作品を録音していたんですなぁ。欧米ではLPとCDのフォーマットで1987年に発売されていますが、日本ではCDしか発売されませんでした。手持ちはアメリカ盤です。この頃は、まだLP仕様での収録ということで11曲、時間にして40分少々ということで、ちょっとCPは低いです。
冒頭の「アラビアのロレンス」は国内盤は組曲として一括していますが、アメリカ盤はそういう扱いはしていません。で、如何にロイヤル・フィルと言えどもジャールのオリジナルスコアをここでは作曲者の指揮のもと堂々と演奏しています。なにしろ、本家のサントラでもボールトがロンドン・フィルを使って演奏しているのですから、ここではその対抗意識か中々の熱演です。ジャール自身にとってもこの「アラビアのロレンス」は何といっても、出世作ですからね。そして、個人的にも映画館のシネラマの大迫力の中でこの音楽を聴いて、身震いしたのを覚えています。
広大な砂漠の中を一人ラクダで進むロレンス、渓谷では寂しさから大声で呼びかけるとそれがこだまし、館内の360度から響き渡るのです。個人的には映画に没頭するために、映画化んでは飲食することは無いのですが、この映画だけは広大な砂漠に圧倒されどうにも喉が渇き、一部と二部の休憩時間に飲み物を買ったことを覚えています。
ここでは、そういう体験を彷彿とさせる演奏になっています。ジャールはフランスのリヨンの生まれですが16歳までは音楽と無縁の生活を送っていました。たまたま父親が買ってきたリストの「ハンガリー狂詩曲」を聴き、それに取り憑かれてしまい、音楽家になることを決意したとのエピソードがあります。そんなことで、「ドとレの違いも」分からなかったので人の3倍は勉強したそうで、バリ音楽院に入学しています。ただ、ピアノを学ぶには遅すぎたということで、シャルル・ミュンシュの薦めもあって楽器についてはパーカッションを専攻、パリ音楽院管弦楽団でティンパニー奏者を務めるほどの腕前になります。卒業後は、ルノー・バロー劇団で打楽器奏者として活躍ています。1951年国民民衆劇場の音楽監督となり、演劇やオペラなどの音楽にかかわります。そして、徐々に映画音楽の世界に入っていきます。1958年からは長編映画の音楽にも進出、『顔のない眼』『素晴らしき恋人たち』に続いて『史上最大の作戦』で大きな話題を呼び、さらに『シベールの日曜日』は、アカデミー賞ノミネートとなるなど高い評価を獲得します。『史上最大の作戦』はポール・アンカの作詞作曲のマーチか有名ですが、全体の音楽はモーリス・ジャールが担当していました。
彼を世界的に名を知らしめたのは、英国のデイヴィッド・リーン監督が、大作『アラビアのロレンス』の3人の作曲家の一人として、ウィリアム・ウォルトン、マルコム・アーノルドと並んで、モーリス・ジャールを起用したことです。しかし、ウォルトンとアーノルドが降りてしまったため、主題歌担当だったジャールがすべてをまかされることとなり、ここにジャールの代表作でもある『アラビアのロレンス』の音楽が誕生することとなったのです。その後もリーン監督とのコンビネーションは好調で、このアルバムにも収録されている『ドクトル・ジバゴ』『ライアンの娘』『インドへの道』と、民族色豊かな傑作が続きます。『パリは燃えているか』もその一つで、アコーディオンが如何にもバリの音といった風情で使われています。
そうしたフル・オーケストラを中心にした音楽を書き、指揮し続けていたジャールに転機が訪れるのは1980年代なかばのこと。ピーター・ウィアー監督作品『刑事ジョン・ブック/目撃者 』の音楽をシンセサイザーだけで演奏したのです。彼の息子はジャン=ミシェル・ジャールでその影響を受けたのかもしれません。この作品以降のジャールは、場合によって、オーケストラとシンセサイザーをうまく使い分け、職人的な完成度の高さで、『愛は霧のかなたに』『ファイヤーフォックス』など次々と質の高い作品を仕上げてゆきます。
この録音は1986年ですから、その頃までの作品を対象としていますが、個人的には猟奇的な『コレクター』、レースの過酷さを描いた『グランプリ』、『砂漠のライオン』や『モスキート・コート』なんて作品も好きです。そうそう、日本映画の『首都消失』なんて作品も書いています。
このCDは作曲者でありながら式もきちんと勉強したジャールが自作品をきっちり自分の表現で音にしているという点では中々貴重な一枚です。そのロイヤルフィルを振った貴重な映像があります。