甘栗と金貨とエルム
著者 太田忠司
発行 角川書店 角川文庫

名古屋に暮らす高校生・甘栗晃は、突然亡くなった父親の代わりに、探偵の仕事をすることに。依頼は、ナマイキな小学生・淑子の母親探し。-美枝子は鍵の中に?謎めいたこの一言だけを手がかりに、調査を始めた晃は、初めての「出張」で、大都会・東京へ。慣れない街に四苦八苦しつつ、謎を解こうと必死の晃だが、衝撃の事実を知り!?太田忠司が贈る、とびきりの青春ミステリ。--データベース---
迂闊でした、名古屋出身のこんな作家がいるとは今の今まで知りませんでした。暫く前は、同じ清水義範氏の作品の追っかけをしていたのですが、最近はとんとご無沙汰です。で、ちょっと前に取り上げた「名古屋謎解き散歩」なる本の中で紹介されていたのがこの作品でした。カバー表紙からすると、どう見てもジュブナイル小説としか思えない雰囲気なので、最初は少々ためらいました。
まあ、主人公が高校2年生で、事件の依頼主が小学校6年生という設定では無理もありませんわな。しかし、読み始めるとそんなやわな小説ではありません。中々本格的な展開です。最後には大きなどんでん返しが待っているという事では意表をつきます。
冒頭の設定はターゲットが学生という事もあって安っぽいのが玉に瑕で、両親には兄妹も親戚もいない様なシュチュエーションです。そして、探偵事務所のオフィスもそのまま使えるというあり得ない様な状況で事件は発生します。それを除けば、名古屋の町がふんだんに出てくる設定はわくわくです。
主人公の家は太閤通りを南に下るという記述があるので、豊国通りと環状線を囲む一帯のようです。そして、「甘栗探偵社」は名駅南にあります。これも笹島のガード下をくぐって交差点を渡るという記述がありますので、そこから江川線までの一体でしょうか。ここら辺りには、今は新しい「劇団四季」の名古屋劇場があります。そんなことで、字ずらを追っていくと舞台が目に浮かぶのがうれしいですね。
父親は松葉公園の交差点で交通事故でなくなりますが、その前に一つの事件を抱えます。この事件が未解決という事で甘栗晃が引き継ぐのですが、その依頼金はウィーン金貨一枚です。しかし、どこを探してもこの金貨が見つかりません。そんなことで、母親探しを請け負う事になるというストーリーです。素人が人探しをやるという事で、情報ソースは限られていますが、一つ一つのヒモをたぐり寄せる事で繋がりが見えてきます。
昔のナゴヤ球場のあった山王(さんのう)のおでん屋が登場しますし、JRセントラルタワーズの13階にあるスターバックスコーヒーが登場します。このおでん屋が中々の曲者ですし、父親の年賀状絡みで意外にも美枝子の正体が分ってきます。そして、手掛かりの「美枝子は鍵の中に」という父の残したメモを頼りに東京まで調査に出向きます。けっこうバイタリティあります。そして、何のことは無い、ちゃんと美枝子を探し出します。大したものです。さらには、その美枝子の言葉から一つの結論を見つけ出します。
福線はいろいろ貼られているのですが、これには気がつきませんでした。最近は推理小説を殆ど読んでいないので勘が鈍ってしまったようです。選挙絡みの大人のしがらみの中で、大人の事情に甘栗クンは真っ向から立ち向かっていきます。
まあ、結末は読んでのお楽しみですが、中々楽しい一冊でした。そうそう、タイトルの「エルム」は楡の木のことです。で、依頼主の小学生は「仁礼淑子」ということで、甘栗クンが彼女に付けたあだ名でした。