切り絵図屋清七 飛び梅 | geezenstacの森

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切り絵図屋清七 飛び梅 

著者 藤原緋沙子
発行 文芸春秋 文春文庫

 江戸の町の切り絵図制作を始めて1年半。切り絵図が飛ぶように売れ、町人として充実した日々を過す清七だったが、ある日、勘定組頭を務める実の父が何者かに襲われる現場に遭遇。勘定所内部に大きな陰謀が進行しているのか──清七が実家に戻ることを望む父、店の主と仲間達、そしておゆりへの思いに揺れ動く清七は果たして。書き下ろし時代小説シリーズ第3弾!--データベース---

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清七:元の名は長谷清七郎。絵双紙屋「紀の字屋」の主人
与一郎:「紀の字屋」の絵師
小平次:「紀の字屋」の使用人
藤兵衛:「紀の字屋」の前の主人。病に倒れる
おゆり:藤兵衛の面倒をみる女
おさよ:与一郎のおさななじみ
長谷半左衛門:清七の父
長谷市之進:半左衛門の嫡男で、清七の異母兄
彦蔵:長谷家の下男

 第一話の冒頭で勘定組頭を務める実の父が何者かに襲われる現場に遭遇します。偶然にも清七が通りかかり父親を助けることになります。どうやら勘定方を巻き込んだ陰謀が全容を現してきます。この事件穂発端に、「紀の字屋」に身を寄せている「おゆり」の幼友達の「冴那」の勘定定所勤めの当主「坪井平次郎」が何者かによって闇討ちに合います。何やら飛騨の御用材木に関して不正が行われている様子が、殺された「平次郎」の残した書置きでわかり、半左衛門>は役目がら飛騨の調査に旅立ちます。

また「紀の字屋」で働く「忠吉」の出生に関わる謎もどうやら一連の事件に深く関わりがあることが描かれていきます。一方、清七の義兄「市之進」は長谷家の長男としての自覚が無く、その兄嫁の妻「織江」も愛想を尽かして実家に帰ってしまいます。そんなこともあり、「半左衛門」は清七を正式な次男として届け出ます。

この間の章立てです。

目次
■第一話 雨晴れて 
■第二話 飛び梅
■第三話 山桜

 第1話で忠吉の出生の秘密が明らかになります。忠吉はおみねの実の子ではありませんでした。与一郎とおさよについて両国に出かけます。江戸時代は浅草の浅草寺の西にも見世物小屋や物産を売る店が軒を連ねていました。両国の東側には「回向院」があり、この界隈もまた同じような見世物小屋や物産を売る店でにぎわっていたのです。

 忠吉はここで、籠細工に夢中になります。竹蔵と銀作の二人が見事な竹細工をこさえて人気を取っていました。しかし、この銀作は以前江戸に出てきた時息子を見失っていたのです。この二人の籠細工は以前は浅草寺で見世物小屋を出していたということが書かれています。そして、年の頃は忠吉と同じで、名前も忠吉と言いました。そんなことで銀作は自分の息子のような気がして、忠吉を自分の逗留する宿にまで連れてきて色々話を聞いていたのです。

 しかし、この銀作が殺されてしまいます。この殺しには材木問屋の上総屋が絡んでいました。そして、この上総屋絡んでいたのが勘定奉行のようなのです。銀作に続いて竹蔵も襲われます。清七は岡っ引きの寛七とともに背景を探ります。

 第2話がタイトルの「飛び梅」です。この話では、「坪井平次郎」が殺されます。しかし、この男、勘定奉行の谷田部貞勝に組みしていました。その男が殺されたのです。敵は容赦なくて足になって動く人間を抹殺し始めています。ところがこの事件は奉行所の野尻佐内によって辻斬り事件として処理されてしまいます。この坪井は山林方に勤めていました。ここでも木材が絡んでいます。

 清七はおゆりとともに坪井家を訪ね妻の沙耶から遺品の書き付けを預かります。しかし、ここでも清七は奸計に教われます。藤兵衛にも相談し、清七の父「長谷半佐衛門」に相談するべきと提案します。そして、坪井家の人々をかくまう算段と遺品の書を父に託します。坪井家の庭には満開の梅が咲いていました。

 東風ふかば 匂いおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ

 これは菅原道真が九州に流配になった時に読んだ句ですが、この話のことでもあります。

 第3話は桜の物語です。ここでは、煮売り小料理屋の女将おみつが絡みます。この女将は、亭主と別れていますが何かと気にしています。小平次と与一郎はその別れた亭主を捜して欲しいという頼みを聞くことになります。ところが、この男またしても事件に絡んでいます。富之助というこの男、別れた後は船頭をしていたのですが話を聞かれたということで命を狙われるのです。それがまた谷田部の息のかかった「野尻佐内」も関わってのことです。

 一方清七はおゆりとともに母の墓参りに出かけます。しかし、そこで、兄嫁の織恵と出会います。そこで、織恵から実家に帰ることを告げられるのです。

 富之助は牢屋に入りたいと自ら無銭飲食をしてお縄になります。どう考えても小伝馬町送りにはならないのですが、命を狙われていることには変わりなく、勘定吟味役の計らいで入牢が決まります。しかし、搬送の途中で黒いずきんを被った男達三人に教われます。そして深手を負ってしまいます。