兜割りの影26-口入屋用心棒 |
発行 双葉社 双葉文庫

堀田家の残党を殲滅し、和四郎の仇を討ち、琢ノ介や富士太郎たちを救った湯瀬直之進。勘定奉行枝村伊左衛門配下の登兵衛の別邸に招かれた直之進は報奨を得るが、幕府の勘定吟味役大内外記ら五人が何者かに惨殺されたという知らせが舞い込む。淀島登兵衛とともに殺害現場に駆けつけた湯瀬直之進は、勘定奉行枝村伊左衛門に請われ探索を開始する。そんな折、護国寺界隈では歳や身分の違う者たちが行方知れずになる事件が頻発していた。事態を重く見た定廻り同心樺山富士太郎と中間の珠吉は、失踪人捜しに奔走していたが…。人気書き下ろし長編時代小説第二十六弾。---データベース---
前作迄で、シリーズを引っ張ってきた大物一味を相当出来たことで、この巻は一息ついた新手の登場です。しかし、大してストーリーの膨らみも無く勾引しにあった農民達を探索することで、奉行所の冨士太郎達らと供に同じ的を追いかけることになります。
一つ新しい展開という部分では、前作の淀島登兵衛配下の和四郎の形見の刀が不思議な力を持っていたのですが、何と直之進はその刀をあっさりと捨ててしまいます。替わって登場するのが、刀収集家・佐賀大左衛門が所有する刃広で幻の刀「伏見英光」です。唐突にこの刀を、湯瀬直之進に提供することを申し出るのです。何とも、わざとらしい設定ですが、多分この刀が縁で佐賀大左衛門をともなう新しいストーリーの展開の伏線となっていくのではないでしょうか。ただし、この巻ではこの刀でタイトルにもある兜割りの怪剣を操る大和京之介と対決することになります。
この刀、作中では肥後(熊本)の胴田貫の様であると記載されています。刀には詳しくありませんが、調べてみると「同田貫(どうだぬき)」というものがあります。九州肥後国菊池の同田貫(地名)を本拠地に、永禄頃から活躍した肥後刀工の一群ということです。もともとこの「同田貫」加藤清正のお抱えの刀工だったようです。この刀は著名ですが、装飾を全くと言っていいほど加えない、あまりにも質素な造りをしているが故に高価ですが美術品としての評価は低い刀工群であり、いわゆる剛刀と呼ばれる類の刀ということです。
直之進は、この幻の刀「伏見英光」を使い、兜割りの大和京之介と対峙するわけです。実力のほどは互角ですが、この「伏見英光」の威力に敵がひるみ寸での所で直之進が勝利するという展開になっています。
ストーリー的には定廻り同心樺山富士太郎と中間の珠吉は、探索の途中で敵の手に落ちて捕まってしまいます。試し切りの試験台として、あわやという所で直之進が登場し一命を取り留めるというドラマ的な展開で平凡なのですが、シリーズとしては纏まっています。今回は単巻での読切りとなっています。