『レコード芸術』お得意のランキングもの企画が9月号で発表されていました。題して「現代の名指揮者ランキング」という特集で、今回は現役の指揮者を挙げる「現代の名指揮者」とそれに続くであろう「未来の巨匠指揮者」にそれぞれ分けて評価していました。毎度ながらランキングそのものは各評論家の趣味嗜好が優先された結果となって、いつものように一つの参考程度に見る方が正解でしょう。そのなかで、1970年以降に生まれた若手指揮者で20年後に活躍しているであろう「未来の巨匠指揮者」はまだディスクデビューもしたてのキラ星の逸材を知るきっかけとなって、こちらの方は幾分見る価値があります。ただ、レコ芸の選者達は多分に右に倣えの傾向が強く、昨年まで誰も注目していなかったキリル・ペトレンコがベルリンフィルの次期常任と決まっただけでもう未来の巨匠指揮者に推しているのを見ると開いた口が塞がりません。30人中14人が推しているのですから・・・・何しろ発行が8月ですから、このアンケートはおそらく6月頃末頃に実施され、7月に纏められたものでしょう。まあ、このスケジュールに沿っていたと思います。ペトレンコがベルリンフィルの常任と発表されたのが、6月下旬ですからまさにこの企画にどんぴしゃり嵌まっています。順当なら、今年前半に来日していたヴァシリー・ペトレンコの方が票が集まったはずですからね。
そのヴァシリー・ペトレンコに一票を投じたのは満津岡信育と片桐卓也氏の二人だけです。ただ、リストには上げていませんが、選評の中で浅里公三氏と増田良介氏がヴァシリーに注目している旨の記載がありました。まあ、何はともあれ、そのランキングです。
1.グスターボ・ドゥダメル 57
2.アンドリス・ネルソン 50
3.キリル・ペトレンコ 45
4.ダニエル・ハーディング 38
5.ヤニック・ネゼ=セガン 33
6.フランソワ=グザヴィエ・ロト 30
7.テオドール・クルレンツィス 25
8.フィリップ・ジョルダン 21
9.トゥガン・ソヒエフ 20
9.アンドレア・バッティストーニ 20
2.アンドリス・ネルソン 50
3.キリル・ペトレンコ 45
4.ダニエル・ハーディング 38
5.ヤニック・ネゼ=セガン 33
6.フランソワ=グザヴィエ・ロト 30
7.テオドール・クルレンツィス 25
8.フィリップ・ジョルダン 21
9.トゥガン・ソヒエフ 20
9.アンドレア・バッティストーニ 20
ここで振り返ってみると、似たような企画を1983年にレコ芸はやっています。こちらは、「16年後(1999年)に活躍していると思われる指揮者」のベスト10を予想していました。そのベストテンは、
1. クラウディオ・アバド(イタリア)
2. カルロス・クライバー(アルゼンチン→オーストリア)
3. ジェイムス・レヴァイン(アメリカ)
4. リッカルド・シャイー(イタリア)
5. 小澤征爾(日本)
6. ロリン・マゼール(アメリカ)
7. リッカルド・ムーティ(イタリア)
8. ズービン・メータ(インド)
9. サイモン・ラトル(イギリス)
10. ダニエル・バレンボイム(アルゼンチン→イスラエル)
2. カルロス・クライバー(アルゼンチン→オーストリア)
3. ジェイムス・レヴァイン(アメリカ)
4. リッカルド・シャイー(イタリア)
5. 小澤征爾(日本)
6. ロリン・マゼール(アメリカ)
7. リッカルド・ムーティ(イタリア)
8. ズービン・メータ(インド)
9. サイモン・ラトル(イギリス)
10. ダニエル・バレンボイム(アルゼンチン→イスラエル)
というものでした。この時は年齢制限がありませんでしたから、既に多くのディスクを発売している順当なメンツが選ばれています。そういう意味では、今回の20年後の予測の方が難しいのかもしれません。この予測の15年後と、今回のランキングを比べるとその違いが分ろうかというものです。そのランキングは、
1.サイモン・ラトル 134
2.マリス・ヤンソンス 129
3.リッカルド・シャイー 105
4.ダニエル・バレンボイム 102
5.ニコラウス・アーノンクール 101
6.ヴァレリー・ゲルギエフ 86
7.リッカルド・ムーティ 82
8.エサ=ペッカ・サロネン 80
9.ベルナルト・ハイティンク 68
10.パーヴォ・ヤルヴィ 66
2.マリス・ヤンソンス 129
3.リッカルド・シャイー 105
4.ダニエル・バレンボイム 102
5.ニコラウス・アーノンクール 101
6.ヴァレリー・ゲルギエフ 86
7.リッカルド・ムーティ 82
8.エサ=ペッカ・サロネン 80
9.ベルナルト・ハイティンク 68
10.パーヴォ・ヤルヴィ 66
現役指揮者というランキングですから、仏故となったマゼールやアバド、クライバーは当然含まれませんが、その隙間に割り込んできたのが、サロネン、ゲルギエフ、ヤルヴィといった所でしょうか。一番の出世頭はマリス・ヤンソンスでしょうかね。反対に病気で思うような活動が出来ていない、レヴァインや小沢征爾といった処がランク外になっています。ただ、スビン・メータの凋落はひどいもので、ベスト20位にも入っていません。個人的に見ても、活躍の中心が無く何をポリシーとして活動しているのか分らない所がありますからね。また、この中で最近アーノンクールが引退を表明しましたから、その意味では11位にランクされたアントニオ・パッパーノが10位に食い込んでくるという所でしょうか。
ところで小澤征爾は<現代の名指揮者>のなかでどこにランキングされているかというと、メータよりも更に低い29位に位置しています。しかも、よく見ると30人中わずか2人の評論家が挙げているだけで、しかもそのひとり諸石幸生氏がが9ポイントを出しての合計11ポイントというのが実情で、多くの評論家にはもう支持しされてないことが分かります。一般の評価と玄人筋の評価のギャップの差に驚きます。でも、これが現実なんでしょうなぁ。
先に紹介した「ランキングの罠」ではないですが、これは音楽之友社によるランキングです。別のメディアが、同じようなランキングをしても決して同様な結果にはならないでしょう。これはこれで、日本人のランキング好きな結果の一つとして一歩引いて眺めていた方がいいのかもしれません。願わくば、小粒になってしまった日本人指揮者が、20年後にはトップテン入りしているような逸材が現われんことを祈るばかりです。