ビブリア古書堂の事件手帖2ー栞子さんと謎めく日常 | geezenstacの森

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ビブリア古書堂の事件手帖2ー栞子さんと謎めく日常

著者 三上 延
発行 アスキー・メディアワークス

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 鎌倉の片隅にひっそりと佇むビブリア古書堂。その美しい女店主が帰ってきた。だが、入院以前とは勝手が違うよう。店内で古書と悪戦苦闘する無骨な青年の存在に、戸惑いつつもひそかに目を細めるのだった。変わらないことも一つある―それは持ち主の秘密を抱えて持ち込まれる本。まるで吸い寄せられるかのように舞い込んでくる古書には、人の秘密、そして想いがこもっている。青年とともに彼女はそれをあるときは鋭く、あるときは優しく紐解いていき―。---データベース---

 今回から足の怪我で入院していたビブリア古書堂の店主である栞子が店に復帰し、主人公である大輔と一緒に仕事を・・・という状況になるわけで本格的にライトノベルスの世界に入っていきます。というか、ジュブナイルしています。でも、ミステリィの側面もあるわけで、この二巻では栞子の母の存在が少しづつ語られていくことになります。栞子の母は、持っている本を見れば、持ち主の人となりはだいたい分かるプロファイリングのような能力を持つ人で、栞子以上に本のことに関しては頭が切れるようなのです。確かに人の本棚を眺めることで、何となくその人となりを想像することはできるようで、丁度9月1日に放送された「知らなきゃ良かった中居正広のミになる図書館」でこのプロファイリングが取り上げられていました。ただ、本の内容そのものを熟知していないと、その本が人にどう影響を与えたかまで推し量ることはできないでしょう。そういう意味では栞子はそうした能力を持つ母智恵子の血を引いているんでしようなぁ。この二人の関係が、この後どのように語られていくのかとても興味深いところです。

 この第二巻に登場する本は以下の作品です。最初にプロローグで登場する坂口三千代の「クラクラ日記」は最後にも登場します。何となれば、この本は栞子の母親が彼女の元に置いていった1冊だったからなんですね。そしてその本は・・・・まあ、それは読んでからの楽しみで言いでしょう。

坂口三千代『クラクラ日記』(文藝春秋)
アントニイ・バージェス、乾信一郎訳
『時計じかけのオレンジ』(ハヤカワ文庫NV)
『時計じかけのオレンジ(完全版)』(ハヤカワ文庫epi)
国枝史郎『完本・蔦葛木曽桟』(桃源社)
司馬遼太郎『豚と薔薇』(東方社)
福田定一『名言随筆 サラリーマン』(六月社)
足塚不二雄『UTOPIA 最後の世界大戦』(鶴書房)

 この巻で小生にとって一番の興味は「時計じかけのオレンジ」です。何しろリアルタイムで映画を観ていますからね。そして、当然文庫本も持っていましたし、サントラレコードも買いました。しかし、この巻を読むにあたって本棚を探してみましたが文庫本はどうしても見つかりませんでした。うーん、残念。今となっては絶版となった貴重本なんですなぁ。

 一巻で諸事情で人の古書を持っていき、それを栞子に言い当てられ、さらにその時の心情や行動まで当てられた小菅奈緒が登場し、そして、今回はその妹である結衣の読書感想文にまつわる話としてこの「時計じかけのオレンジ」か登場します。

 ストーリィ的にはこの姉妹の仲の良さが分かる話なんですが、そこに店主の篠川栞子本人が関わってくるのですからこれはちょいと捨て置けないエピソードです。小菅結衣は感想文で何回か賞を貰っていて、姉の奈緒としてはそれが嬉しい事なんですね。しかし、今回題材にした話の内容、それに対しての感想文は、中学生にしてはかなりよくできているんですが、ちょいと暴力的な展開で最後も主人公のアレックスは暴力的なままで終わってしまいます。そして、小菅結衣は本の内容が悪人の話で最終的にその悪事を肯定していると思われかねない感想を書いているだけに周りは心配するのです。

 しかし、栞子はその感想文を読んでまったく別の問題に気付きそれを結衣に指摘します。つまりは、これは本当は読んでいない感想文だと指摘するのです。さあ、ここからが本題で、この「時計じかけのオレンジ」実は、小生らの世代が読んだ小説は最終章がカットされた本だったのです。で、それがスタンリー・キューブリックの目に止まり映画化されてしまうわけです。しかし、実際は違っていて、2008年になってようやく完全版の「時計じかけのオレンジ」が発売されたというわけです。それは、まさにアレックスが更生して善良な人間となっているのですから、まさに映画の世界とは真逆の結論です。いゃあ、この事実をこの小説で知ってびっくりという訳ですし、さらに小説的にはその感想文は小学生だった篠川栞子本人が書いたものを書き写した感想文であった事が暴露されます。個人的には、中学生ではなく小学生が書いた感想文というのにも仰天ですけどね。

 さて、この映画では設定が近未来という事もあり、当時ブームになっていたムーグシンセサイザーの音楽が使われていました。小説の中で登場するベートーヴェンの交響曲第9番も当然このムーグで演奏されていたバージョンです。今はウィンディ・カーロスと名乗っていますが、当時はワルター・カーロスが演奏したものです。下の演奏です。


 ドラマではちょいといじられていて、小菅結衣は万引きをして停学処分になるという余分なエピソードが加えられていますが、この時計じかけのオレンジの部分は原作通りに描かれています。参考までに貼付けておきます。

 

 さて、2巻目は一巻目より少々マニアックになって聞いた事も無い本が次々と登場します。福田定一『名言随筆 サラリーマン』もそうなんですが、このストーリーでは大輔の元カノである晶穂が登場するという貴重なエピソードです。高校時代から付き合いだし、大学でも付き合っていたのですが、晶穂が実家を出て一人暮らしを始め徐々に自由がなくなっていきます。当然会う機会が減り、大輔が関係はちゃんとしないとと話し合ったうえで別れてしまいます。まあ、普通は自然消滅というのが流れなんでしょうが、話し合う機会を作り決してお互いに嫌いになったから別れたって訳じゃない所が、なんとも大輔と晶穂の関係の深さを逆に表してるような気もします。

 ここでは、その彼女の父親が死にその蔵書の買取を頼まれてビブリア古書堂が査定に行く事になるのですが、この話の中では事前に2人は再会していて、晶穂は大輔と共通の友人から彼が栞子と付き合っていると聞いていたあたりは吹っ切れてはいる模様です。ただし、大輔は彼女の抱えていた問題をここで初めて知るという鈍感な所も暴露されます。

 ところで、このエピソードで晶穂が大輔を名前で呼んでいた事もあって、このエピソード以降栞子も大輔もお互いを名字から名前で呼ぶようになっていきます。いってみれば雨振って地固まる的な流れでしょうかね。

 この巻内容的にはバラエティに富んでいて、第三話では足塚不二雄の『UTOPIA 最後の世界大戦』が登場します。足塚不二雄は藤子不二雄を名乗る前の作品という事でその所版はかなりの根がつきます。そういう古書に絡んでここでは栞子の母親の話が大きく絡んできます。そして、ここでも栞子が母親と同じような性格をしている事に嫌悪感を抱く事になります。まあ、こういう流れの中で冒頭の「クラクラ日記」に繋がっていく流れは連作小説としてはいい流れです。そして、大輔と栞子の仲も徐々に接近していくのが感じ取れます。