ビブリア古書堂の事件手帖1ー栞子さんと奇妙な客人たち | geezenstacの森

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ビブリア古書堂の事件手帖1ー栞子さんと奇妙な客人たち

著者 三上 延
発行 アスキー・メディアワークス

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 鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない、若くきれいな女性だ。だが、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大抵ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも。彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは栞子と奇妙な客人が織りなす、”古書と秘密”の物語である。---データベース---

 この小説、2012年の「年間ベストセラー文庫」で総合第1位を獲得していますし、メディアワークス文庫で初のミリオンセラー作品であり、シリーズ累計では600万部を超えているという事です。また、創刊40周年を迎えた『本の雑誌』は、2015年5月12日(火)に発売された記念号の企画として、この40年間のベスト400冊を取り上げていますが、オールジャンルの中から、この40年間の書籍ベスト「第1位」に選ばれたのは、なんとこの「ビブリア古書堂の事件手帖」でした。まあ、フジテレビでドラマ化されたのでタイトルを知っている人は多いのではないでしょうか。ただ、宝永湯治、ドラマも見ましたが、あまりにも原作と主人公が違いすぎるし、設定もかなりいじられていたので2~3回見ただけで続きは見ませんでした。案の定、フジの月9ドラマとしては大失敗に終わった作品になってしまったようです。

 個人的には、テレビで見たのが先になったのですが、同時に原作も読み始めて、その違いに驚きテレビをボイコットしたというのが本音でしょうか。まあ、怪我をして入院しているという設定から始まるのはドラマとして成り立たないと見たんでしょうが、あまりにも設定をいじくりすぎていますからねぇ。作者がよくドラマ化をOKしたものです。ライトノベルスなんですが、ミステリーの要素が多分にある小説なんですから設定をいじったらはられた伏線がおかしくなってしまいます。ここは、是非ともとラマは無視してる原作を読んで欲しいものです。

 主人公はビブリア古書堂の店主篠川栞子とそこで働くアルバイトの五浦大輔です。まあ、この二人が色々な古書にまつわる事件のなぞを解いていくわけですが、文体は先に取り上げている「船に乗れ!」と同じく五浦大輔の一人称形式で書かれています。この主人公、幼い頃に祖母(読書家でした)の部屋へ行き、その祖母の本を漁っていたところを祖母に見つかり、二度も殴られた上に激しく怒られました。それがトラウマとなり、大輔は本を読めない体質となってしまいます。こういう人物を通して、本の事が語られるわけですから、本、特に古書について知識が無い人も安心して五浦についていく事が出来ます。この辺りの設定は如何にもライトノベルス仕立てです。

 さて、語り部の「俺」こと五浦大輔は、背が高く力持ちなんですが、就職浪人の無職の23歳です。原作が発表された時代は就職氷河期でしたから、さもありなんの設定です。このフリーターだったからこそ、ビブリア古書店に巡り会う事ができたともいえます。大輔の祖母が死んでから1年が過ぎたころ、大輔は母親から、祖母の遺品である夏目漱石全集について相談を持ちかけられました。全集の八巻『それから』に、夏目漱石が書いたと思われるサインがあり、もしサインが本物だったら値打ちものかもしれないから、そういうのに詳しい人はいないか、と母親に訊かれます。その本にはビブリア古書堂の値札が貼ってありました。そこで大輔は、昔、北鎌倉駅で見かけた、ビブリア古書堂の美人店員と話すチャンスだと考え、ビブリア古書堂を訪れることになります。そこにいた女子高生の店員、篠川文香(あやか)から、店主は現在足を怪我して入院中だから、直接店主のところへ持って行ってほしいと言われます。この店主というのが、文香の姉である店主の篠川栞子(しおりこ)というわけです。剛力彩芽とは似ても似つかない黒髪ロングストレートで胸が大きめの、眼鏡をかけた内気な美人でした。いいですねぇ、こういう設定。

  この栞子さんは、本の話ならベラベラと喋ることができるのですが、それ以外だとコミュニケーション障害になってしまうという、残念な美人であることが判明します。完璧なスーパーウーマンではないという設定が上手いです。まあ、一種のアスペルガー症候群なんでしょうが、こと本については素晴らしい能力を持っています。問題の漱石の本を見た栞子さんは、『それから』に書いてある「夏目漱石 田中嘉雄様へ」というサインは偽物だと言い切ります。そして、値札に「書き込みあり」と書かれていないことから、本を購入した後で誰かがサインをしたと思われるのですが、祖母はもちろん、家族の誰もそんなことをしそうにありませんでした。また、全集の中で『それから』にだけ蔵書印がないことから、大輔の祖母は古書店でこの本を買ったと思わせるために偽装工作をしたのだろう、と栞子さんは推理します。

 この田中嘉雄から署名入りの本をプレゼントされた祖母は、それを夏目漱石のサインに見せかけたのです。栞子さんは、大輔に命名したのは祖母であることを確認した後、祖母が結婚した年を尋ねました。この本が出た次の年だと答えると、栞子さんは一瞬、顔をこわばらせました。大輔が家に帰り、結果を報告すると、母親は店主に迷惑なことをしたと怒りました。翌日、お詫びのお菓子を買いに行くと、大輔はそこで伯母と出会いました。その伯母は、祖父母の話をした後、『それから』は、
「主人公の男がよその奥さんを取っちゃう話だとネタバレしました。
ネタバレの内容と、『それから』の主人公『代助』の名前も、五浦大輔の名前も『だいすけ』であること、祖母がビブリア古書堂で全集の他の巻を買ったのが結婚から10年後であること、大輔とその母親だけが一族の中で背が高いことなどを考えると……祖母は田中嘉雄と不倫をし、その結果生まれたのが大輔の母親ということになりそうでした。なんか、すごい訳ありの本である事が分りますし、主人公もその中に含まれているという所が凄いです。

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                         作者

 さて、栞子さんは怪我で入院していますが、逸れはある男に階段から突き落とされての怪我です。その男の正体は・・・・まあ、これ以上書いてしまうとミステリーのネタバレになってしまいますから辞めておきますが、この事件がきっかけとなり大輔は栞子さんに誘われ、ビブリア古書堂で働くことになります。

 この巻は第1巻という事で、本に興味があるけど本を読むことができない大輔と、本の話がしたいけど聞いてくれる人がいなくて困っていた栞子さんの、奇妙な共存関係の始まりを上手く紹介しています。そして、脇役となるセドリの志田や古書店仲間の滝野蓮杖、井上太一郎なんかも登場して話はどんどん膨らんでいきます。また、ライトノベルという事で、二人の主人公の恋愛話も少しづつ進展していきます。メインストーリーもしっかりしていますし、ストーリーのあちこちに次巻以降に繋がる伏線も張り巡らされていますから、序章に相応しい一冊でしょう。

第1巻で取り上げられた本

夏目漱石『それから』〈漱石全集・新書版 第八巻〉(岩波書店)
小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』(新潮文庫)ちくま文庫版では三上延の解説がある。
ヴィノグラードフ、クジミン共著『論理学入門』(青木文庫)
太宰治『晩年』(砂子屋書房)
梶山季之『せどり男爵数奇譚』(桃源社)

 現在、第6巻まで発売されていますが、次巻はこの年末ぐらいでしょうかね。