

品川宿で姿を消した口入屋米田屋光右衛門をさがすため、界隈で聞き込みを開始した湯瀬直之進。時を同じくして江戸では、口入屋の主や隠居が行方知れずとなる事件が相次ぎ、南町同心樺山富士太郎が探索に乗り出していた。そんな折り、直之進の住む小日向東古川町の長屋に、直之進の子だという赤子を抱いた女が現れる。好評書き下ろし長編時代小説シリーズ第十四弾。
久しぶりに千勢が米田屋に直之進を訪ねてきた。ここのところ、佐之助の姿が見えないという。佐之助に思いを寄せているとはいえ、千勢は依然として直之進の妻だ。複雑な気持ちを抑えて佐之助探しを始めた矢先、千勢が実の娘のように面倒をみているお咲希がかどわかされかかる。佐之助の失踪とどんな関わりがあるというのか…。好評書き下ろし長編時代小説シリーズ第十五弾。---データベース---
前作で、龍之進の本領発揮の形で決着したかに見えた展開でしたが、前巻のラストにやや強引なヒキが入ってたその事件を追うのが14巻の展開です。そして、口入屋米田屋光右衛門の事件が片付いたかと思ったら、15巻ではなんと今まで影の主役として活躍して来た直之進に取っては適役の佐之助を助けるという展開になります。どちらかというと、次の本格的な事件までの、ちょっとインタールード的な展開をみせる2作品という事で一括して取り上げる事にしました。
はっきり言って、両作品ともつまらない展開です。展開のパターンも一緒で、最初は事件に対しての捜査が遅々として進んで行かない展開で、サブストーリーに寄って話を膨らませる作りで、前半から中盤までは引っ張るのですがそれが結末にちかのなると急に駆け足の展開になります。そして、最後はお決まりのようにあっさり謎が解け敵を倒してしまうというパターンです。第1部、第2部という里沼藩をめぐっての黒幕であった堀田備中守という大物を殺してしまった事で敵がいなくなったことで、ストーリーが紡げなくなったんでしょうかね。
そんな事で、14巻では、メインストーリーとしては直之進サイドからと口入れ屋連続勾引し事件として富士太郎サイドからそれぞれそれ事件解明に迫りつつ、そこに、第1巻で登場した油問屋の娘が絡む直之進の隠し子騒動とか、富士太郎への新しいおねキャラの乱入などどうでもいい話がぶち込まれます。まるで、お気楽時代劇ドラマって感じがしないでもありません。ただ、こんな安っぽい時代劇は今の時代ドラマ化する所は現われないとは思いますがね。
15巻もあっさりと佐之助が敵に捕まります。殺し屋を自認していた佐之助の面影はありません。おまけにその佐之助を探して欲しいと千勢が米田屋にいる直之進に頼みにくるのです。何たる展開でしょう。それを気安く引き受ける直之進も直之進です。また、それが為に千勢とお咲希が住む長屋にまで敵が押し寄せ、お咲きが勾引しに遭います。なんでお咲希がという展開もイマイチ理由は納得で来ません。時代考証的には念のいった展開で、旗本の次男坊にありがちの御家騒動絡みでの暗殺劇があるのですが、逸れが何故佐之助なのかという所と、その拘束した佐之助を働かせようとしている割には食事も満足に与えないというぞんざいな扱いで意味が分かりません。また、直之進一筋だった富士太郎に突然智代という幼なじみが登場します。いつの間にか女にも目覚めるというここに来てキャラクター替えの展開です。一体どうなってんのという安直な趣意返しです。
さらに、佐之助の替わりにまるで忍びのように敵の屋敷に忍び込む直之進に、足手まといの琢ノ介を無理に登場させて話をややこしくしてしまっているのも無駄な展開です。ここでは敵の屋敷の見張り役をするのですが、その見張りしていて鼻歌はでないでしょう。立場がわかってないってことなんでしょうけど、一歩間違えば命落としてる展開です。以前は直之進と張り合っていたぐらいの腕前だったはずですが、最近は狂言回しの役柄になってしまっていて、こんな場面には必要ありません。
さて、ひとつの区切りという意味では、直之進はついに千勢に去り状を書く事になります。つまりは離婚なんですが、元々は千勢を探しに江戸に出て来た本来のネク的はここに来て完全に葬れ去られる事になります。そういう意味ではエポックメイキング的な巻である訳ですが、エピローグでさらっと語られるだけです。この巻で累計100万部突破という事ですが、一巻平均7万部売れたという所でしょうか。まあ、時代小説ブームもあっての事でしょうかね。