妻は、くノ一 6/宵闇迫れば | geezenstacの森

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妻は、くノ一 6/宵闇迫れば

著者 風野 真知雄
発行 角川グループパブリッシング 角川文庫

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 織江が実の娘であることを知った松浦静山。だが静山は、織江にそれを知らせぬまま、ひそかに守りつづけることを決意する。一方、織江は江戸の市中に潜み、母の死、そして一生追われ続けるという過酷な運命に打ちのめされ、酒に溺れる日々を送っていた。時には死すら、頭をよぎる――。そんな織江を捕らえるため、新たな刺客が放たれた。「夜に溶ける」と噂される不気味な忍びの正体とは? 大人気シリーズ、緊迫の第6弾!---データベース---

 前巻は、急激な展開で抜け忍になるための親子での死闘と結果としての衝撃の事実は、小説としてはこれ以上の展開はありません。やはり、織江の父親は静山公だったんですなぁ。しかも、それを知らせずに密に織江を守ろうとする辺りが静山公らしいところです。しかし、この巻からはちょいと様子が違います。前巻までの薄っぺらさは無くなり、今回からは普通の文庫の厚さになっています。で、エピソードも序はあるものの5話に改められています。この巻の構成です。

序   銀河の片隅で
第1話 むなしさの理由
第2話 ぺっちゃんこ
第3話 芝居好きの幽霊
第4話 陸の人魚
第5話 殺しの蜃気楼

 ただし、話の展開は今回も事件を彦馬が少しずつ解決しながら物語は進む形を取っていて表面上の変化はありません。いや、前巻で展開を急ぎすぎたのかこの巻は時の流れがゆっくりとなっています。で、一話ごとに例の如く「甲子夜話」にまつわるエピソードが盛り込まれ、それに添え物のようにメインストーリーが絡んでいくと言う展開です。そんなことで、突然金遣いの荒くなった商人の謎や幽霊事件、巨石につぶされた 老人の秘密を見抜いたりと相も変わらず忙しい日々を過ごす彦馬が描かれます。幸い織江の潜伏先は桜田屋敷に知られる事は泣く、織江もなるべく外には出ず、家の中にこもります。これが結果として織江を酒浸りにさせるのですが、そんな自堕落な生活もクの一としての矜持を保つ事で、深みにははまりません。そして、そんな彦馬に影響されたのか織江も潜伏先での謎の事件を解決するという思わぬエピソードも加わります。暫く会っていないのに似たもの夫婦なふたりに少しほっこり。前巻が殺伐としていただけに嬉しい展開です。

 静山は雅江の墓を下屋敷のすぐ側の寺に建てます。しかし、それは桜田屋敷に直ぐ知られる事になります。静山はそんなことは百も承知です。それ故、彦馬に織江の母・雅江の墓は見張られているから墓参りには行くなとと制止します。やめろ、という静山公の言葉は分かっているのですが、彦馬は出掛けてしまいます。しかし、そこには良くも悪くも先客の鳥居耀蔵がそこで墓参りをしています。で、結局は墓地には入らなかったものの、そこで見張っていた宵闇順平に後を付けられ嬬恋町に住まいしている事がばれてしまいます。しかも、今度はそこに織江が来るかも知れないと監視されることになります。たまたまお庭番の川村が外出していたおかげでその事は報告されず、その事の次第は発覚しませんが、彼が「妻恋町にひそむ」と伝言を頼んでしまっているので、今後の展開は予断を許しません。

 そして、しばらくぶりに長屋に織江が現われます。当然、そこで宵闇順平の知る所となります。月の無い闇世の中で、宵闇順平と雅江の死闘が始まります。雅江は、ただの町人の娘の出で立ちで、手にしていた武器は手裏剣8本と懐刀だけです。暗闇を得意とする順平に、武器を使い果たした織江は殺されそうになります。しかし、ここで意外な助っ人が登場します。このまさかの加すけっとは、何と彦馬の養子・雁二郎なのです。実は雙星家は表と裏があり、雁二郎は裏。しかも忍びだったのです。確かに14歳が33歳に見えるという設定にこの小説の当初から首をかしげていた節ものですが、こういう伏線が張ってあったのですなぁ。

 たしかに、小説ではこの部分は解りにくい所ですが、ドラマ化された映像ではその辺の処は最初から確認する事が出来ます。