松坂屋美術館で開催されている「第70回春の院展」へ出掛けて来ました。水曜日は雨模様だったので多分空いているかなぁと思ったのですが、あにはからんや、年よりは暇人が多いと見えて(小生も同類ですが・・・・)会場はごった返していました。会期が9日間ということで短いので、雨など気にしていられないという所でしょうか。院展は3年ほど前から出掛けていますが、日本画ということで、見ていて気分がすっと入っていくことが出来ます。
いつもは会場でボールペンを取り出してメモを取っていると注意されます。そこで、鉛筆を借りてメモ書きするのですが、今回はスマホに直接メモ書きすることにしました。写真を撮るわけではないので同道とメモすることが出来ました。そんなことで、今回は陳列順に小生の目に止まった作品を取り上げます。

先ず入り口近くの「岩永てるみ-アトーチャ駅」に注目がいきました。この人は毎年、駅をテーマにした作品を出品しています。それもヨーロッパの駅ばかりです。今回はスペインはマドリッードの「アトーチャ駅」です。ここは新旧の駅舎が有り、描かれているのは旧駅舎です。この旧駅舎は植物園になっています。プラットホームに植物が植わってて、市民の憩いの場となっているようです。その古風な風情を切り取っています。ノスタルジックな感じが良く出ているのではないでしょうか。

対照的なのは「北田克己-春のほとり」でした。ことらは純和風の雰囲気がいいですね。HPに作者自身の解説が有りました。
長谷川久蔵は高名な絵師等伯の子です。智積院に伝わる国宝の桜図に十分受け継がれた才能を見ることができますが、父とは違う柔和さと華やかさを持つ画面になっています。若い時に出会って以来、この絵の前では自分が絵描きであることを忘れて純粋な鑑賞者になれます。不遜にもそのひと枝を借りて作品にしました。 ところが普通の枝ぶりとは少し様子が違います。桜の形を離れて絵の中だけの桜らしさを描こうとしたのでしょうか。 久蔵は桜図揮毫の翌年、26才でこの世を去っています。

さすが入り口付近には実力のある作品が並べられていて、鑑賞者の目を惹き付けています。窓から眺める桜吹雪は季節とマッチして親しみがわきます。
春風が運ぶ桜吹雪の花弁に思いを馳せたことはないですか? 何気ない日常の中に潜む物語が、風が吹き込むだけで俄に煌めいてくるような一瞬を、私は描いてみたいと思いました。

白を基調とした画面構成で蕨の羊歯がひろがっています。生命力を感じますね。この作品は、奨励賞を受賞していました。

田淵氏は、平山郁夫氏に学んだだけあって、柔らかい色調の中に日本画の持つ繊細さを感じることが出来ます。自身の解説では、
明日香は日本の政治・経済・文化の発祥の地であり、日本人の心の古里でもあります。 私はよく明日香に行きますが、この日訪れた春盛りの明日香は朝の光の中に輝いていました。 それは何でもない光景なのかもしれませんが、明日香の歴史を考えると、私には神々しく思われました。

一転、こちらは水墨画の世界に通じるモノトーン調の風景です。朝まだきの森の目覚めか、静寂の中に生命力を感じます。

こちらもモノトーン。茫洋とした雰囲気の中に細い三日月がほんのり浮かび上がって幻想の世界に誘ってくれます。別々の展示になっていましたが、後出の「福王寺一彦-月華の青い鳥」と通じるものが有りました。鑑賞者への助けとしてこういう作品は、比較陳列しても良いのではないでしょうかね。

モノトーン系を観た後では、この薪小屋は非常にビビットな作品に写りました。何の変哲もない古い薪小屋ですが、残雪の中長い風月に耐えて来た歴史を感じる事が出来ます。

画調を観ても解ると思いますが、この人も平山郁夫氏に学んでいます。作品解説は以下のようになっていました。
ごく平凡な道のある風景ですが、ここは以前から傍を通る度に何故か目に留まる場所でした。 手前から延びる道が、用水路と交差し木蔭を通り丁字路に至るまでの間に、何か物語があるかのように表現できれば…と思いながら制作しました。

小生の審美眼はどうもモノトーンに傾いているようで、この作品も「寂」に通じる色調です。フィルターを通すと景色が一変するように、何の変哲もない小径がとても魅力的に見えるものです。

これもやはりモノトーンですね。少女のものうげな表情が、背景と解け合ってそれが心情を映し出しているように感じました。

これははっとして思わず立ち止まりました。何の変哲もない小石がいちめんらえがかれています。しかし、山から激流を下り流れ着いた小石は一つ一つ表情は違いますが、どれも角が取れて丸くなっています。まるで人生の縮図を見ているようで、感慨に浸れます。

こちらは同じ月を描いても満月の中に青い鳥が浮かびます。解説ではこの青い鳥は鳴き続けているそうです。そういう意味では、こちらは莫妄想の静に対して動なのでしょう。

やはり、モノトーンの作品です。北海の冬の厳しさを感じ取ることが出来ます。

「トウシキ」の意味はよく分かりませんが蝋燭の消えた時の瞬間の雰囲気を捉えています。作者のHPを観ると同じ蝋燭をテーマにした作品に同じタイトルが与えられています。後ろの蝋燭はまだ点いていますから、この手前の一本が昇天したということなのでしょうか。終焉の魂の上昇、それが「尊き」なのでしょうかね。
この展覧会19日まで開催されています。