金聖響のエロイカ | geezenstacの森

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金聖響のエロイカ

曲目/ベートーヴェン
交響曲第3番《英雄》変ホ長調Op.55
1.第1楽章 Allegro con brio 16:53
2.第2楽章 Marcia funebre: Adagio assai 15:34
3.第3楽章 Scherzo: Allegro vivace 5:58
4.第4楽章 Finale: Allegro molto 11:55
5.《コリオラン》序曲 Op.62 8:03

 

指揮/金聖響
演奏/オーケストラ・アンサンブル金沢

 

P:桜井 卓
E:杉本一家

 

録音/2003/05/07-09 石川県立音楽堂 コンサートホール
 
ワーナーミュージック・ジャパン WPCS-11685

 

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 最近とんと金聖響の名前を聞かなくなりました。一時は若手指揮者のホープとして飛ぶ鳥を落とす勢いがあったのに今や完全に失速状態です。まあ、賢明なクラシック愛好家ならご承知と思いますが、昨年の佐村河内守事件でもう一人槍玉に挙がったのがこの金聖響氏の名前でした。ホームページが有ってもほぼ閉鎖状態、ブロクやフェイスブックも閉鎖です。このホームページの彼のスケジュールは真っ白。2月などコンサートの予定はありません。今の所、確認出来るのは、

 

●と き:2015年3月7日(土)ところ:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
日本モーツァルト協会 創立60周年 モーツァルト 交響曲全曲演奏会
東京フィルハーモニー交響楽団
http://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20150307_S_2.html
●日時:2015年3月27日(金) 会場:ザ・シンフォニーホール
「Enjoy!オーケストラ~自然への讃歌~」 大阪フィル
http://www.osaka-phil.com/news/detail.php?d=20141028
●2015年4月19、21、28日 アントワープ・ブリュッセル・ブルージュ
フランダース交響楽団(名門のロイヤルフランダース管弦楽団ではありません)
http://www.symfonieorkest.be/EN/Orchestra/Conductors/Seikyo_Kim#!/EN/Concerts_and_tickets/2014-2015/Schumann_4

 

がかろうじて確認出来る程度です。こうなると週刊文春の記事はほぼ事実といってもいいのではないでしょうか。借金問題に、浮気問題、盗撮問題なんかが次々と明るみに出ているのが現状のようです。

 

 ここでは、それ以上この問題に深入りはしませんが、ワーナーがオーケストラ・アンサンブル金沢と完成した金聖響とのベートーヴェン交響曲全曲録音は、多分このまま自然廃盤となり佐村河内守の交響曲第1番「ヒロシマ」のように市場から姿を消す運命にあるのではないでしょうか。ということで、おせっかいながら取り上げてみる事にしました。

 

 このコンビではコンサートでもベートーヴェンの交響曲第3番「エロイカ」を聴いています。そちらはホームページで記事にしているのですが、このコンビの演奏はピリオドスタイルの中々気合いの入った演奏でした。しかし、小生の体験ではハーディング/マーラー室内管弦楽団の演奏が耳に残っていましたのでそれと競べるとやや性急テンポのせかせかした演奏という印象があったのは否めません。

 

 そんなこともあり、CDとして発売されていたこの演奏もあまり期待しないものでした。しかし、ここで聴く事の出来る演奏は中々充実しています。まあセッション録音という事もあるのでしょうが、完成度は高いものになっています。解説には5月9日はライブ収録されているという事が書かれていて完全なセッション録音では無いようですが、これは実演の方が燃焼度が高かったという事でしょう。聴いた限りでは第4楽章にその片鱗が感じられました。

 

 実演でもそうでしたが、スタイルとしては古典スタイルの配置で、第1ヴァイオリンその後ろにコントラバス、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという、いわゆる対向配置を取っています。第1楽章冒頭の和音はそれなりに力が入っています。ここが腰砕けになると締まらないものになりますからね。つづく弦のトレモロはピッチが低いので中々典雅です。そして、第2ヴァイオリンが右側から刻むリズムがくっきりと聴こえて、その後でわき上がるように左側から第1ヴァイオリンが響いてきます。この出だしだけでも弾き込まれてしまいます。

 

 むろんノンヴィヴラードで演奏されますから、音の揺れがありません。普通ですと、音が鋭角になるところですがそこはややレガート気味にして音色に変化をつけています。また、ピリオド僧坊ですとティンパニは固めのマレットで叩かせますから、ここではそれがいい対比になっています。室内オーケストラ編成で空かせ、この弦の響きと管楽器の響きは対等のウェイトを持っています。そのたる旋律線がくっきりと浮かび上がるという長所があります。また、テンポはピリオド奏法にしてはやや落ち着いたもので、それが功を奏してか、非常に見通しのいいアレグロ・コンブリオになっています。第1楽章コーダのトランペットの処理はもちろんオリジナルの形で、尚かつ、木管でことさら補強していないのでややスカスカの響きで通過してしまいます。やや物足りない処理ですが、これも有りかと言う気にさせてくれます。

 

 
http://www.dailymotion.com/swf/x2g09kh 

 第2楽章もいわゆる葬送行進曲の重々しい従来型の演奏ではありません。テンポはアダージョ・アッサイではなくてアダージョぐらいでしょうか。淡々とした処理です。実演で聴いたのと同じ印象です。その割にはこの楽章では指揮者のうなり声が弦の響きの中にくっきりと紛れ込んでいるのが聴き取れます。もうすこし、ゆっくり演奏して葬送行進曲の雰囲気を味わいたいものです。

 

 第3楽章は、ホルンの響きにやや不満が残ります。これが指揮者の求めた表現ならやや失望です。それと、この楽章だけティンパニの響きがやや奥まって聴こえます。一番不満が残るのがこの楽章でしょうか。第4楽章が良いだけによけい目だってしまいます。通常ですと、ややフィナーレにはモノ足りない演奏が多いのですが、この演奏はリズムも端切れよく、それぞれの変奏が活き活きと繰り広げられます。この楽章は対抗配置の音の左右の掛け合いを充分堪能出来ます。そんな訳で中だるみはありますが両端楽章は中々充実した響きで、30代前半でこれほどの統率力でベートーヴェンを表現出来るとは、かなり満足度の高い演奏といえます。しかし、最近のトラブル続きでは、ひょっとするとこの業界から抹殺されるおそれがあります。今のうちに、手に入れておいた方がいいCDかもしれません。

 

 カップリングされているコリオラン序曲は、同じようなアプローチですが、曲が悲劇を扱ったものだけに重厚さの不足は否めません。そうそう、金聖響は本名ではなく、WIKIでも明らかにされていませんが、金寿学というのが本名のようです。