
とてもまともではない、一人の女を求めてアイオワからインドの僻地まで飛んでくるなんて…大学教授マイケル・ティルマンは、同僚の妻ジェリーを追う列車の中にいた。人生という川のなかばを過ぎて出会った男と女はどんな選択をするのか、二人の関係はどう変化していくのか。「マディソン郡の橋」につづき宿命の愛を描いた傑作。 ---データベース---
この作者の作品を読むのは初めてです。まあ、一番著名な作品は「マディソン郡の橋」でしょう。映画化もされ、メリル・ストリープがアカデミーの主演女優賞にノミネートされた事でも話題になりました。こちらは、4日間の大人の恋愛を描いた物語りで、結局最終的には不倫はありながらも元の生活に戻るという離婚にまで至らない、言ってみれば丸く収まるタイプのストーリーになっていました。それに対して、こちらはまったくの不倫で、元の鞘に納まるのでなく、主人公のジェリーは最終的に離婚をして大学教授のマイケル・ティルマンと結ばれてしまいます。そういう意味では、「マディソン郡の橋」の対極にある作品という事になるのでしょう。まあ、簡単に言えば、大学教授が同僚の大学教授の妻と出会い惹かれ合う。突然同僚の妻はインドに行ってしまったので主人公はインドまで追いかけていくというストーリーです。ただ、なぜインドなのかという点は読み始めたときは不思議な感じでした。
まあ、それがこの小説のキーポイントでもあります。「マディソン郡の橋」のフランチェスカは行ってみれば平凡な主婦で、そこにひょっこり現われたカメラマンのキンケイドに惹かれていくのですが、こちらの「スローワルツの川」では大学教授のマイケルが主人公で、新たに赴任してきた教授の妻、ジェリー・ブレーデンがヒロインです。初対面から惹かれ合う二人ですが、単に「人妻」との恋というわけではなく、マイケルはジェリーが以前インドに住んでいたという事で興味を持ちます。二人の接点がインドというアジアの発展途上国というのがこのストーリーの一つのミソになります。
中年の域に達したマイケルは魅力的な女性に出会う事無く、アイオワ州のとある大学の教授を務めています。彼の愛するのは古いオートバイだけです。そこへ、新たにニューヨークから新任の教授が赴任して来ます。その妻がジェリーというわけです。結婚して11年、ただし二人の間には子供がいません。この設定が重要です。ジェリーは妻でありながら大学で社会学を受講します。そういう設定の女性のジェリーが放つ神秘的な魅力に堕ちてゆに出会う事で、マイケルの人生が変化をします。マイケルはジェリーがインドに住んでいた事に興味を持ちますが、彼女はその事に積極的に触れようとはしません。いっぽう、大学の中では結構異端児手は存在のマイケルにジェリーも惹かれるものがあります。
そんな事で、前半はお互いが惹かれあっているにもかかわらず、お互い口に出して言えないようなもどかしく男女の歯がゆい会話が繰り広げられて、読む方のいい加減じれた頃から話が急に展開していきます。ジェリーが夫の実家に帰った頃から、ジェリーの帰りを気にし出すマイケルいじらしい行動、そしてジェリーの失踪があります。まあ、実際には失踪ではないのですが、兎に角夫の実家から戻ってこないジェリーにマイケルは慌てます。俺がジェリーを探し出すと、大学に休暇届を出すと一目散にインドに向かいます。
ここで、この小説の冒頭に時間が戻ります。そう、この小説の大半は過去の物語を語っているのです。後半の舞台は南インドです。多分殆どの人が知らない地方でしょう。地図上ではこうなっています。

最初の目的地はポンデシェリーです。ここは南インドの都市で地図上では右上にあります。ここからマイケルは西海岸に近いベリヤール湖を目指すのです。多分500kmぐらいあるでしょうか。山深い中にある湖です。確かにこの湖には島がいくつかありホテルが存在します。さて、このジェリーを探す旅で少しづつ、ジェリーの過去が明らかになっていく様はまさにサスペンスです。なんと、ジェリーには子供がいたのです。それは夫のジム・ブリーデンとの子では無いのです。彼女は以前のインドでの生活でインド人と結ばれていたのです。その時の彼女の相手はインドの革命家でした。そして、夫のジムとはその事を受け入れての結婚だったのです。ただし、ジムはこの子供については知らされていません。
マイケルはそういう彼女の秘密を少しづつ探りながらこのベリヤール湖のホテルでジェリー親子と再会します。前半のもどかしさとはまったく違う展開でビックリしてしまいます。このお話は、単なる不倫の関係のラブストーリーではないんですね。そして、マイケルは彼女のすべてを受け入れる事になります。ここが、夫のジムとは決定的に違う所です。ここでは、ジェリーはジムと分れマイケルと再婚します。ちょっとそこに至る過程は不倫にしてはあっさりしている点がやや理解しかねるのですが、これはこれでハッピィエンドを迎えます。
この小説、原題は「SLOW WALZ IN CEDAR BEND」ということで本来の舞台はアメリカはアイオワ州のシーダーベントという所がタイトルになっています。大学はこのシーダー川の近くのアイオワ大学が舞台なんでしょうか。この小説はかなり自伝的要素を多く含んでおり、作者が大学教授だった事、学生時代にバスケットの選手だった事、奥さんとはインドで出会った事などこの小説に通ずるものがあります。それだけに、描写にはリアリティがあり西洋人からみて、インドの地は文化も歴史も、神の存在も、まったくの異国の地でありながら、神秘的というロケーションがこの小説では生きています。