ヴェルサイユのラモー/パイヤール
曲目/ラモー:6声のコンセール
コンセール第1番
1.La Coulicam 1:52
2.La Livri 3:06
3.Le Vézinet 2:12
コンセール第2番
4.La Laborde 2:56
5.La Boucon 3:11
6.L'Agaçante刺激 1:43
7.Menuet 1 Et 2 4:19
コンセール第3番
8.La Pouplinière 2:17
9.La Timide 4:18
10.Tambourin 1 Et 2タンブーラン1,2 2:53
コンセール第4番
11.La Pantomimeパントマイム 3:33
12.L'Indiscrète軽卒者 1:06
13.La Rameau枝 2:42
コンセール第5番
14.La Forqueray 2:07
15.La Cupis 3:02
16.Le Marais 2:13
コンセール第6番
17.La Pouleめんどり 4:10
18.Menuet 1 Et 2メヌエット1,2 3:36
19.L'Enharmoniqueエンハーモニック 2:30
20.L'Egyptienneエジプトの女 2:39
21.オペラ「イポリートとアリシー」よりScène De Chasse* 9:42
Christiane Eda-Pierre (ソプラノ)*
ステファヌ・カイヤー合唱団*
狩猟ラッパ・アンサンブル*
指揮/ジャン・フランソワ=パイヤール
演奏/パイヤール室内管弦楽団
ステファヌ・カイヤー合唱団*
狩猟ラッパ・アンサンブル*
指揮/ジャン・フランソワ=パイヤール
演奏/パイヤール室内管弦楽団
録音/1965/01
19/64/09/12 パリ、リバン聖母教会
E:ダニエル・マドレーヌ
19/64/09/12 パリ、リバン聖母教会
E:ダニエル・マドレーヌ
ERATO 2292-45565-2

「ヴェルサイユのラモー」と題されたこのCD1990年に発売された物で、同社の「Residence」シリーズの一枚として発売された物です。以前に「ライプツィヒのバッハ」を取り上げています。作曲家と関わりのあった地域を取り上げるという事で内容がオムニバスになる事が多いのですが、この一枚はオリジナルプラスαという事でお買い得だった一枚です。「6声のコンセール曲集」はそれだけで単独のCDとして国内盤は1989年に発売(B15D39198)されていました。ここではそれに加えて、ラモーのオペラ「イポリートとアリシー」より第4幕の「狩りのシーン」が収録されています。今ではこの「6声のコンセール曲集」は色々な演奏で聴く事が出来ますが、多分1990年頃まではこのパイヤールの演奏が唯一ではなかったでしょうかね。
ジャン・フィリップ・ラモー(Jean-Philippe Rameau, 1683 – 1764)の「コンセール形式によるクラヴサン曲集(Pièce de Clavecin en concerts)」と題する作品は、ラモーの最円熟期に当たる1741年に出版されてたラモーの唯一の室内楽作品です。コンセールというのは、イタリアのコンチェルト(concerto)、ドイツ語のコンツェルト(Konzert)と同じ語源なんですが、フランスでは舞曲を中心とする楽章からなる合奏曲を意味していました。オリジナルの編成はフランソア・クープランの「王宮のコンセール」でも小さいのですが、ラモーの場合はクラヴサン(チェンバロ)とヴァイオリン、ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガムバ)という編成で、クラヴサンが主導的役割を果たしています。ヴァイオリンの声部はフラウト・トラヴェルソで、ヴィオールの声部はヴァイオリンで演奏しても良いようです。この編成だけ見れば、一種のトリオ・ソナタのようですが、イタリアのトリオ・ソナタの場合は、鍵盤楽器は通奏低音の役割を担っており、他の2つの旋律楽器が主体となっているので、これとは異なった様式と言えます。むしろバッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタなどと共通するところが多いのでしょう。しかし、楽想は全く異なっています。この作品は5つの組曲からなり、それぞれは3楽章ないし4楽章からなっています。その楽章の表題は、ロンドーやメヌエットなどの舞曲の名前のほか、当時のフランスの曲に多い、ひねったものが多いのが特徴です。手元に有るのは輸入盤ですから分ったものだけを日本語訳を付けてみました。
ラモーは、生前はオペラの作曲家として活動していましたが、ジャン・ジャック・ルソーを中心とした知識人からその作風を激しく批判され、いわゆる「ブッフォン論争」の中心人物でもあました。今ではオペラの他には、クラヴサン(チェンバロ)のための作品で広く知られています。ラモーはバッハより2年前に生まれて14年後に死亡していますからほぼ同世代の作曲家ですが、その様式はかなり異なっています。元々フランスバロックがオペラでもバレエを取り入れたグランドオペラを中心としていましたから、このコンセールにおいても、和音を中心とした心情の変化を綴ったウィットとユーモアが感じられて楽しませてくれます。
さて、この演奏ですがコンセールとしては6曲演奏されています。この第6番は編曲者が不詳という事ですが、有名な「めんどり」やら「メヌエット」が含まれているという点では一番ポビュラーなのではないでしょうか。また、6曲というのはレコードとして発売するにも据わりのいい構成ですわな。そんなことで、この編曲版は6曲で演奏される事も多いようです。
パイヤールの演奏は、今からすると実にオーソドックスな演奏です。真摯な取り組みとでもいいますか、最近のピリオド楽器の演奏団体がこれでもかっ、というぐらい先鋭的な演奏を繰り広げているのに比べるとおとなしすぎます。また、当時のエラートの録音がクールな響きを漂わせていてどこか知的で気品のある音で収録されている所がオールドファンに取ってはたまりません。第1番の冒頭など、そういう雰囲気が特に顕著に感じられて、一気にラモーの世界に惹き込まれていきます。この格調高い第1番です。
パイヤール室内管弦楽団といっても、この作品では管は登場しません。そのため、全体としては響きは地味です。でも、ドイツバロックが中心の時代こういう作品を取り上げて録音したというパイヤールの意気込みは買いたいですね。決してドイツの団体はフランス物を取り上げなかったですからね。そういう意味ではパイヤールの残した足跡は大きなモノンーがあったと言って良いでしょう。
で、第6番ですが、ここではちょっとパイヤールも遊び心を出したか、格調高くも原曲のウィットを前面に打ち出して中々楽しい演奏を繰り広げています。原曲のチェンバロもいいですが、こういう演奏ちょっとしたBGMにはもってこいに仕上がっています。その楽しい第6番も聴いてみましょう。
音楽理論家としてすでに高名であったラモーが50才になって初めて発表したオペラが「イポリートとアリシー」です。フランスオペラの伝統(序曲、プロローグ、5幕もの)を踏まえながらも、書き尽くせる限りの音楽表現が盛り込まれ「オペラ10曲分の音楽」と評され革命的オペラと目された作品です。それゆえ発表当時は批判されることも多かったようですが、今日は再評価され、削除された部分も見直されて演奏されています。まあ2時間以上もする作品ですからここで納められているのは第4幕第3場からの「狩りのシーン」の音楽です。これは、エラートからシリーズで発売された「空想の音楽会」の第11集に収録されていた音源で、ホルンと狩人(ソプラノと合唱による)との掛け合いが醸しだす、華やかな音楽になっています。こちらはかなり編成の大きなオーケストラで演奏されていますから、オペラの雰囲気を充分楽しめます。しかし、パイヤールはこの作品はこの場面しか録音を残していません。演奏されているのは書きの4つの部分からなっています。個人的には最後のメヌエットのオーケストラのみの演奏の部分がヘンデルの「水上の音楽」ばりの華やかさと重厚さがあって気に入っています。
Faisons partout voler nos traits
Amants, quelle est votre faiblesse
Act IV: A la chasse, A la chasse
Menuets
Amants, quelle est votre faiblesse
Act IV: A la chasse, A la chasse
Menuets
普段はどうしてもドイツ音楽が中心となりバロック時代もバッハやヘンデルといった作曲家の作品を中心に聴いてしまいますが、ことバロック時代はクープランやリュリにしろこのラモーにしろフランスにはバッハと比しても遜色の無い音楽家が多数活躍していました。管弦楽作品が少ないというのもハンデなんでしょうが、フランスバロック期の作品も良いでっせ。そんな事で、楽しめて一枚でした。
エラートもEMIの音源の焼き直しだけでなく、パイヤールの膨大な録音をボックスセットで発売して欲しいものです。