ライプツィヒのバッハ | geezenstacの森

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ライプツィヒのバッハ

曲目/J.S.バッハ
1.トッカータとフーガニ短調 BWV.565** 8:43
2.カンタータ第140番「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」BWV.140**** 4:52
3.トリオ・ソナタ第1番変ホ長調 BWV.525**  12:30
4.カンタータ第147番「主よ人の望みの歓びよ」BWV.147**** 3:36
5.オルガン協奏曲ト長調 BWV.592* 7:37
6.クリスマス・オラトリオ BWV.248**** 12:21
7.トッカータとフーガニ短調「ドリア調」 BWV.538**  12:07
8.マタイ受難曲 BWV244*** 2:12 
オルガン/マリー=クレール・アラン 1,3,5,7
指揮/レイモンド・レッパード 2,4,6
   ミシェル・コルボ 8
演奏/スコットランド室内管弦楽団 2,4,6
   ローザンヌ室内管弦楽団、合唱団 8
録音 1959*、1962**,1982***、1984**** 

 

独エラート 2292-45561-2 

 

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 エラートのレジデンス・シリーズの一枚です。こういう内容の国内盤が発売されたかどうかは知りませんが、面白い企画のシリーズでバッハは他にベルリンが、モーツァルトはパリ、ザルツブルク、ウィーンの3枚など15点が発売されました。

 

 バッハがのライプツィヒの聖トーマス教会のカントル(音楽監督)(通称「トーマスカントル」)に就任したのは1723年。この地位は事実上ライプツィヒ市の音楽監督にあたっており、教会音楽を中心とした幅広い創作活動を続けています。このCDに収められたのはこの地で作曲した作品が網羅されています。バッハが創作活動に携わった期間を1703年から1750年までの47年間とすると、ライプツィヒでの生活は27年に及びその過半を占めています。

 

 ケーテンから移ったバッハがその後半生を捧げた聖トマス教会は、市庁舎の建つマルクト広場からすぐ目と鼻の先です。トマス・カントルと言い習わしていますが、バッハの職務の正式名称は「聖トマス教会附属学校カントル兼市音楽監督」で、学校の教員であり教会の職員であり市の公務員でもあり、指揮命令系統が混乱して上司たちが主導権争いを始めることも珍しくありませんでした。新しいバッハの職責は、聖ニコライ・聖トマスの両主要教会を含む管轄の4つの教会の礼拝においてそれぞれにふさわしい音楽を演奏すること、トマス学校にて音楽とラテン語(これは代わってもらったようです)を指導すること、その他市の特別な行事に対して音楽を供給することでした。こういう環境下でしたから、ライプツィヒ時代には、マタイ・ヨハネの両受難曲をはじめ教会カンタータの大半やミサ曲などの教会音楽、オルガン作品の改訂版やクラヴィーア作品の集大成、チェンバロ協奏曲や管弦楽組曲などが次々と生みだされていきました。

 

 さて、そんな中でもオルガン曲の中で一番愛聴されているのはこの「トッカータとフーガニ短調 BWV.565」でしょう。ここでは名手マリー=クレール・アランがスエーデンのヘルシンブルク、聖マリー教会のオルガンを弾いています。1962年の録音ですから第1回目のものです。しかし、演奏を聴けばその凄さに圧巻されるでしょう。 とにかく迫力と勢いがあり力強いペダル上のバス!! あっという間に8分が過ぎます。アランはこれまでにバッハのオルガン作品を3度も全曲録音しています。この最初の録音は再発売されることがほとんど有りませんから貴重です。エラートの録音は色褪せること無く心の中までしみじみと響いてくれます。ペダルの動きも凄まじく、 女性が弾く演奏は力強さが控えぎみで迫力が感じられないと思ってる人が多いようですが この人の演奏を聴いてみてください。1960年代はカール・リヒターやヘルムート・ヴァルヒャが活躍していたのでどうしてもその陰に隠れてしまいがちでしたが、今こうしてその時代の録音を耳にしても立派に伍する内容になっています。

 

 

 このCDはオムニバスですからその片鱗しか聴き取ることはできませんが、3曲目のトリオ・ソナタ第1番変ホ長調 BWV.525でも本当にバッハの偉大さを感じさせる演奏です。こちらはデンマークのヴァルデのマルクーセンのオルガンを使用しています。この鄙びた音色は、まさに街の教会の小さなオルガンの響きでバッハの日々の活動の証を聴き取ることができます。使い分けは5曲目の オルガン協奏曲ト長調 BWV.592でもそうで、こちらはパリの聖メリー教会、クリコート・ゴンザレスのオルガンです。原曲がヴィヴァルディの作品ですから、それを意識した明るい音色のするオルガンの響きでイタリアの明るい風景を連想させます。この曲だけが1959年の録音ということでやや音の古さを感じさせます。しかし、臨場感のある録音でマリー=クレール・アランの息づかいも聴こえてきそうな演奏です。最後のトッカータとフーガニ短調「ドリア調」BWV.538は1曲目と同じ場所のオルガンを使用した演奏です。BWV.565より規模の大きい曲ですがこちらの曲は優しく語りかけてくるような曲調でバッハの世界観を締めくくるには申し分の無い曲です。

 

 

 このマリー=クレール・アランの演奏を取り巻くように、レッパード/スコットランド室内管弦楽団のカンタータ、オラトリオが配されています。こちらは、デジタル録音です。レッパードはイギリス生まれの指揮者でイギリス室内管弦楽団の創立直後から関わった指揮者です。モンテヴェルディの権威でフィリップスに録音を残しています。まあ、ここでは有名どころのおいしい所だけの演奏です。一応、コーラスも入ったしっかりした演奏になっています。こういう所はエラートは手を抜いていないです。クリスマス・オラトリオからは第2、4、6曲が演奏されています。ピリオド奏法なと古楽器の手法を取り入れないなど、今となっては古めかしい解釈ということではカタログから消えてしまっていますが、堅実な演奏です。

 

 最後は付け足しのようにコルボ/ローザンヌのマタイ受難曲が収められていますが、第63曲コラール「血潮したたる主のみかしら」の美しい調べです。2分強の短い曲ですがマタイの中では何回も出て来るメロディで、最も感動的な部分ですね。

 

 都市と音楽家を結びつけたこの企画、アイデアとしてはいいコンピュレーションですが早々と消えてしまったのは惜しいですね。