カラヤン/ウィーンフィルの
「惑星」
曲目/ホルスト
The Planets, Op.32
1. Mars, The Bringer Of War 7:05
2. Venus, The Bringer Of Peace 8:22
3. Mercury, The Winged Messenger 3:58
4. Jupiter, The Bringer Of Jollity 7:38
5. Saturn, The Bringer Of Old Age 8:33
6. Uranus, The Magician 5:46
7. Neptune, The Mystic 7:35
The Perfect Fool, Ballet Music Op.39*
1. Introduction - Dance Of Spirits Of Earth 4:32
2. Dance Of Spirits Of Water 2:54
3. Dance Of Spirits Of Fire 3:20
Egdon Heath, Op.47 12:49*
指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン
エイドリアンボールト*
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団*
録音/1961/09/05-22 ソフィエンザール
1961/03 キングスウェイ・ホール*
P:ジョン・カルショー、レイ・ミンシェル*
BE:ジェイムズ・ブラウン
E:ゴードン・パリー、ケネス・ウィルキンソン*
エイドリアンボールト*
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団*
録音/1961/09/05-22 ソフィエンザール
1961/03 キングスウェイ・ホール*
P:ジョン・カルショー、レイ・ミンシェル*
BE:ジェイムズ・ブラウン
E:ゴードン・パリー、ケネス・ウィルキンソン*
DECCA 4783177

ホルストはイギリスの作曲家です。カラヤンのレコーディングリストを見てもイギリスの作曲家で取り上げているのは他には、ブリテンとヴォーン・ウィリアムスを1曲ずつ若い頃にモノラル録音をしているくらいです。それほどめずらしいのに、この「惑星」だけは2度録音しています。この惑星は第1回目の録音で、ステレオ録音では、ボールト、サージェント、ストコフスキーに次ぐ録音となりました。その時点では、イギリス系の指揮者以外取り上げていなかったんですな。そんなことで、このカラヤンの録音は登場するとセンセーショナルな話題となります。この録音の存在によって、「惑星」がローカルな曲から一挙に有名曲となり、その後イギリス人以外の指揮者による数多くの録音が行われる引き金となりました。まさにエポック・メーキングな録音となったわけです。ただ、ウィーンフィルに取っては初の録音なんですが、ウィーン国立歌劇場管弦楽団にとっては1959年にボールトとこの曲をウエストミンスター録音しています。その関係からか、ウィーン国立歌劇場バレエの1961年のシーズンのプログラムの公演演目に「惑星」がリストアップされています。そういう下地があってカラヤンはこの曲を取り上げたようです。そうは言ってもウィーンフィルの名で「惑星」が録音されたのは今日に至るまで、このカラヤン盤を於いて他に無いというのも不思議なものです。
多分小生ぐらいの年代の人にとって、このカラヤンの「惑星」の最初の出会いは、1973年に発売された「カラヤン・ベスト1000」と題された1000円盤ではなかったでしょうか。カラヤンの録音が1000円で買えるというのは当時では画期的なことでした。帯には「ロンドンレコード発売20周年謝恩特別企画盤」と謳ってあり、さらには「このレコードは限定盤ですので、すぐ売り切れるおそれがあります。お早めにどうぞ・・・・」なんて文言が踊っていました。しかし、ジャケットはオリジナルではなく、このシリーズに共通したカラヤンのポートレートを使用したもので、安っぽいものでした。このシリーズ全20枚発売されましたが、リヒャルト・シュトラウスやアダンなんかは今でも手元に有りますが、何故かベートーヴェンやブラームスは購入しなかったように思います。

ただ、このカラヤンの演奏は当時あまり聴き込んだ記憶はありません。良い演奏であり、録音であったのでしょうが不思議と記憶に残っていないのです。個人的にレコード時代はアンチカラヤン的なところがあり、ちょっと冷めた感覚でカラヤンの演奏に接していた部分があったからでしょうか。でも、心の何処かには残る演奏だったんでしょうね。CD時代になると買い直しています。最初のCD化はOVATIONシリーズでの発売で、デジタル処理された土星がデザインされたジャケットでこれもオリジナルではありませんでした。まあ、ホームページではこのカラヤンの演奏はお気に入りで取り上げていますが、マイベストはグローヴス/ロイヤルフィルの演奏ですからね。ですから、これもあまり聴き込んだ記憶はありません。ですから、DECCA SOUNDSに収録されても一向に聴く気が起こらなかったものです。
ところが、カップリングで収録されているボールトの「どこまでも馬鹿な男(The Perfect Fool)」が聴きたくてボックスから取り出したところ、今までに無いいい音で「惑星」が鳴ってくれるではないですか。これはどうしたことかと、襟を正して聴くことになった次第です。時代は既にベルリンフィルのシェフの時代でしたが、ウィーンにも君臨したカラヤンが絶頂期の録音です。デッカはFFSSを振りかざして堂々とEMIという巨人に対抗している時代です。ブックレットの写真を見るとカラヤンの頭上にデッカツリーのマイクが高々と掲げられています。

このカラヤンの演奏は、冒頭からおどろおどろしいティンパニの打音が悠然と響きます。ウィーンフィルの弦のピチカートとの対比も見事です。特に「火星」ではオケを思いきり鳴らした爽快な演奏で、そこにはウィンナホルンの響きとかウィンナーオーボエの響きなんかは独特の味を出しているのを聴き取ることが出来ます。惑星の演奏ではよくボールト盤が登場しますが、スタンダーとな名演はボールト、ちょっとハイセンスな名演はカラヤンと棲み分けると、よりいっそうこの曲を楽しむことが出来るようです。後のベルリンフィルとの録音はいかにも手兵を指揮している印象ですが、ここでは他流試合的に、オーケストラを煽りながらやや前のめり的に疾駆していく様が感じられます。
次の金星の優美さはウィーン・フィルの独壇場とも言えるでしょう。弦のしなやかさや、名手ボスコフスキーのソロ・ヴァイオリンの色香を感じるような響きはまさにヴィーナスの音楽に相応しい演奏です。水星のユーモラスな妖しさも録音効果と相まって楽しい演奏になっています。カラヤンの見事な解釈でしょう。ウィーン・フィルの達者なソロも存分に楽しめます。木星は全7曲の中で最もスケールが大きく、通常のオーケストラ編成では4本のホルンもここでは6本に増強されるなど、壮大なオーケストレーションによる祝典的な音楽が展開されます。カラヤンの演奏も、豪快にして芳醇な演奏に仕上がっています。曲は大きく分けて3部に分かれますが、何といっても中間部の民謡風の旋律は聴き所でしょう。のちのホルストが独立した歌曲に編曲しているように、組曲≪惑星≫の中でも最も親しみやすく、整然とした雄大な旋律が奏でられます。カラヤンはここでは楽譜の指定通りノンレガートで演奏しています。まあ、それを感じさせない豊潤な響きですからどうでもいいことですが、ウィーンフィルの素晴らしさを実感します。処で録音データの1961/09/05-22というのは、如何にカラヤンといえどもこの曲の録音には難儀したという証拠でもあります。編集が上手いので音のつなぎは上手くカモフラージュされていますが、ヘッドフォンで聴くとその辺の処は聞き分けることが出来ます。HPでも書きましたが、録音会場外の騒音まで拾っているテイクが採用されているぐらいですから、編集にも苦労したのでしょう。
カラヤンの惑星で一番違和感があるのは「土星」でしょうか。全体は豪快で金管の鳴りっぷりも気持ちがいいし、打楽器の活躍にもホルストならではのセンスが伺えます。ところで、このカラヤンの演奏ではやたら鐘の音が耳につきます。で、スコアにはちゃんと鐘の指定があるのですが、どうもカラヤンはここではチューブラーベルで妥協してしまったようです。そして、デッカの録音スタッフはこの音をあまりにもクリアに拾いすぎてしまっています。後のベルリンフィルとの録音では他の指揮者と同じく大人しめに鐘を叩かせ、ほとんど目立たなくなっていますから、これはどうなんでしょう?デッカのスタッフの確信犯的な録音ということならば、この部分だけはカラヤンはしまったと思ったのではないでしょうか。一般に惑星では「火星」か「木星」が注目されるところでしょうが、ここではやはり、この「土星」を聴いてみることにしましょう。比較ということで、ベルリンフィルとの録音も貼付けておきます。
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ね、凄くチューブラーベルが目立つでしょ。でも、ほとんどのネット上の感想がこのことに触れていないのはどうしてなんでしょうね。こういう録音がウィーンフィルの「惑星」ですからやや異端といってもいいのではないでしょうか。未だに、ウィーンフィルはこの曲を再録音しないようですが、ここらでウェルザーメストかもしくはイギリス人指揮者のハーディング辺りで是非とも再録してほしいものです。
さて、残りの「天王星」、「海王星」も素晴らしいウィーンフィルの響きを楽しむことが出来ます。個人的には「天王星」は「火星」に次いで好きな曲です。wikiによると冒頭の印象的な4音(G, Es, A, H)は、ホルストの名前(Gustav Holst)を表していると言われ、曲中にも何度も繰り返し使用されています。処で、このカラヤン/ウィーンフィル盤にはスコアにあって使われていない楽器があります。それは、オルガンです。本来オルガンのパートは4つの楽章でスコアが書かれています。まあ、録音会場のソフィエンザールにはオルガンなんてありませんから無い物ねだりなんでしょうが、当時のデッカの技術力からすれば電子オルガンの音で合成も出来たと思われます。しかし、敢えてそれをしなかったのはカラヤンのこだわりなんでしょうかね。
そして「海王星」はまさしく神秘の世界です。深遠な宇宙の太陽系の果ての姿話彷彿とさせてくれます。ここでは国立歌劇場の合唱団が美しい女声ハーモニーを聴かせてくれます。この当時、カラヤンはウィーン国立歌劇場の芸術監督に君臨していますから合唱団も手中に収めています。チェレスタの神秘的な響きと供に美しいコーラスがいつまでも耳に残ります。