
人気時代小説作家三人が、読者として”衝撃を受けた””とにかく面白い”短編小説を二編ずつ選んだアンソロジー。藤沢周平「暗殺剣虎ノ眼」、山田風太郎「正義の政府はある得るか」、榎本滋民「血みどろ絵金」、滝口康彦「異聞浪人記」、岡本綺堂「冬の金魚」、菊池寛「忠直卿行状記」。小説の力を堪能できる珠玉の名作六編。--データベース---
杉本章子、宇江佐真理、あさのあつこという人気作家が、選んだ、文字通り『衝撃を受けた時代小説傑作選』です。巻末には、なぜ選んだか? なぜ魅かれたか? の座談会が収録されており、二度美味しいつくりになっているところがうれしいですね。三者三様の視点があり、その作品に惹かれるポイントが違うのでしょうね。で、明治時代話扱った作品があるので時代小説とは何ぞや?という定義から調べてみることにしました。wikiによると、
時代小説(じだいしょうせつ)は、過去の時代・人物・出来事などを題材として書かれた日本の小説。現代の日本では、明治時代以前の時代(主に江戸時代)を対象とすることが多い。 かつては大衆文学はすなわち時代小説であり、広く庶民に受け入れられた。一般に歴史小説との境界は曖昧であるが、過去の時代背景を借りて物語を展開するのが時代小説であり、歴史小説は歴史上の人物や事件をあつかい、その核心にせまる小説である。
なるほどね。ても、こういう定義からすると榎本滋民の「血みどろ絵金」や菊池寛の「忠直卿行状記」なんかは歴史小説の範疇に入ってもおかしくない作品ということが出来ます。杉本章子さんが、
藤沢周平さんの「暗殺剣虎ノ眼」
山田風太郎さんの「正義の政府はありえるか」
宇江佐真理さんが、
榎本滋民さんの「血みどろ絵金」
滝口康彦さんの「異聞浪人記」
あさのあつこさんが、
岡本綺堂さんの「冬の金魚」
菊池寛さんの「忠直卿行状記」
を選んでいますが、時代小説にもいろいろなテーマがあるのだなぁと感心します。また、多分こういうアンソロジーの形でなければ「血みどろ絵金」なんて出会うことの無い作品だったでしょう。
藤沢周平さんの「暗殺剣虎ノ眼」
山田風太郎さんの「正義の政府はありえるか」
宇江佐真理さんが、
榎本滋民さんの「血みどろ絵金」
滝口康彦さんの「異聞浪人記」
あさのあつこさんが、
岡本綺堂さんの「冬の金魚」
菊池寛さんの「忠直卿行状記」
を選んでいますが、時代小説にもいろいろなテーマがあるのだなぁと感心します。また、多分こういうアンソロジーの形でなければ「血みどろ絵金」なんて出会うことの無い作品だったでしょう。
冒頭の藤沢周平の「暗殺剣虎ノ眼」には脱帽ですね。武士がテーマでありながら、その書き出しは何とも艶かしい一文から始まります。
「気だるさに、志野は眼をつむっていた。頭がまだ痺れたようで、四肢は力を失っていた。
-わたしは、声を立てなかったろうか。
快楽がきわまったとき、不意に暗黒を見たような気がする。」
-わたしは、声を立てなかったろうか。
快楽がきわまったとき、不意に暗黒を見たような気がする。」
男と女の戯れの描写を女の視点から描いているのです。そして、事件が発生するのですが、その事件の首謀者は女が今逢い引きを重ねて来た男であるのです。しかし、話はそれだけでは済みません。何とこの小説は推理仕立てになっているのです。いゃあ、これには参りました。さすが藤沢周平です。この作品、「隠し剣孤影抄」という小説集に入っているのですが、姉妹作「隠し剣秋風抄」とともに近々読んでみるつもりです。で、次が「正義の政府はありえるか」となります。こちらは明治新政府の薩摩と長州のいがみ合いが背景にありながら、「山城屋事件」を巡っての権謀術策が綴られています。まあ、こんな事件があったことなどこの小説で初めて知ったのですが、後に西南戦争で対立する川治利良と西郷隆盛、更には山県有朋、江藤新平なども登場し、ドロドロのストーリーになっています。時代背景を知らないといささかこんがらがりますが、それがタイトルにも現れています。ただ、実際は虚構も入り交じっていて、香月経四郎やエスメラルダなるフランス女性が登場し、そこにマルクスの資本論が絡んでくるというとんでもない展開になります。後半はまるで冒険活劇でも見ているかのような展開でただただあっけにとられる山田ワールドです。
宇江佐真理さんのチョイスする「血みどろ絵金」もやや難解です。これは、実在の弘瀬金蔵のことを描いた小説で、江戸時代末期から明治にかけての浮世絵師の話です。本名は生前10回以上にわたり改名しているので、一般には弘瀬金蔵の名で知られており、高知県下を中心に絵金(えきん)の愛称で親しまれているようです。インパクトの度合いでいうと、冒頭の展開は藤沢周平の作品と同じぐらい衝撃があります。最初は江戸へ絵の勉強の下る部分では一介の駕篭かきの身分でしかないのですが、その駕篭の主、徳姫の経血をの赤を目にするところから始まります。これがベースとなり、絵金はその後の人生で血なまぐさい絵を大量に描きますが絵師金蔵の原点はここにありとの小説になっています。恥ずかしい話、この小説に巡り会わなかったら、浮世絵師「弘瀬金蔵」なぞ全く知らずにいたことでしょう。

そして、もう一作「異聞浪人記」。その昔、仲代達矢主演で「切腹」、その後はつい最近、市川海老蔵主演で「一命」のタイトルで映画化されている作品の原作です。この作品を読んでまさにノックダウン状態です。滝口康彦の名前も初めてですが、江戸時代初期に蔓延したと言われる「狂言切腹」を題材に「武士の生き様」とはなにか、そして武士道の極みここにありという行状がここにあります。舞台は赤揃えの井伊家です。これもドラマチックですが、主人公の津雲半四郎の切腹の裏には実は計算された仕掛けがあります。題材としては悲惨なものですが、この仕掛けによってストーリーは一種の爽快感を伴っています。
岡本綺堂の「半七捕物帳」はまだ読んだことがありませんでした。しかし、この「冬の金魚」という作品を通じてこの捕物帳が、半七老人の昔話を語るという方法でのストーリー展開は実に斬新な手法であると感じ入りました。属に、野村胡堂『銭形平次捕物控』、佐々木味津三『右門捕物帖』(むっつり右門)、横溝正史『人形佐七捕物帳』、城昌幸『若さま侍捕物手帖』を加え、「五大捕物帳」とも称されるのもうなづけますし、その中では異色の構成でしょう。この作品でも、推理小説としての部分はそれほどでもありませんが、文体は古くなく読み易いので今後のめり込んでいくかもしれません。
それに対して、菊池寛の「忠直卿行状記」は旧文体でのストーリー展開で、格調高い文章は威厳がありますが、やや若い人には読みにくいと感じるのではないでしょうか。越前の松平忠直の乱行の数々はいろいろなところで語られていますが、ここでは、大阪冬の陣での失態を取り戻すべく夏の陣に獅子奮迅の活躍をするものの、結局はその論功行賞に不満を抱いた経緯が淡々と書かれています。まあ、今では部分的にかなりの脚色があるということがいわれていて必ずしも史実ではないようですが、戦いで武功があっても平時の舵取りには不向きの当主だったといえるのではないでしょうか。菊池寛は学生時代はただの暗記文字に過ぎなく、今回初めてその文章に触れたわけですが、こういう作品を書いていたとは知りませんでした。
いゃあ、時代小説も奥が深いですなあ。