ベストクラシック100 PREMIUM EDITION 読本 | geezenstacの森

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ベストクラシック100 PREMIUM EDITION 読本

編集/ソニー・クラシカル
発行/ソニー・ミュージックエンタティメント SME文庫

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 ソニーの伝統的なクラシックの販売方法である「ベストクラシック100」のシリーズを宣伝するために制作された文庫本スタイルのパンフレット?で、「PREMIUM EDITION」とあるのはこのシリーズが2000年に発売されたからです。現在は2012年にリリースされた物が最新のリリースです。この2000年のリリースでは、まだソニーは単独の企業体でしたからRCAの音源はリリースされていませんが、最新の物はこれも含んだ物となっており、かなり内容が一新されています。

 このベストクラシック100の歴史をたどれは、ソニーがその時代に何が売りたかったかを知ることが出来ます。登場はLP時代の1972年でした。他社との違いは「よいレコードを、もっと多くの人に」のキャッチフレーズに、「音のカタログ」を制作したことです。シリーズに登場する音源をLPレコード2枚に収録し、有償カタログということで1枚500円で販売していました。カタログが有料とは大胆な発想ですが、ワルターやグールドなどの名演が1分半ほどですが収録されていて、その一端に触れることが出来るという物で、当時は2トラックのオープンテープが主流で、カセットテープはありましたが、ウォークマンやラジカセなどまだ無く音楽用としてはまだ普及の域にはありませんでしたから、音楽を手軽に聴く手段としては画期的でした。

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 CD普及期にはこのカタログは分割されて、8センチCD、いわゆるシングルCDの形でリリースされたこともありますが、あまり話題にはならなかったようです。今ではネットが普及したので「音のカタログ」という発想は無くなりましたが、それに変わる企画ということでこの2000年の発売時に作成されたのがこの文庫スタイルのカタログでした。確かに裏ページから開くと解説付きのフルディスコグラフィが収録されていてカタロクであることが分ります。しかし、さすがに文庫本の装幀ですから、ちゃんとした読物も収録されています。はじめにに続いて次の様な目次があります。

「ベスト・クラシック100~プレミアム・エディション」を楽しむための7章
 ソニー・クラシカル・ヒストリー 京須偕充
 クロスオーバー・クラシック 片桐卓也
 JクラシックONソニー・クラシカル 伊熊よし子
 タンゴ!タンゴ‼タンゴ!‼ 小松亮太
 歌の左右東西 堀内修
 Viva! arteー芸術、万歳! 濱田滋郎
 ジャケットから見るクラシック 田中勤郎
「ベスト・クラシック100~プレミアム・エディション」アーティスト・プロフィール
 浅里公三、岡本稔、満津岡信育、諸石幸生、山尾敦史
コラム
Tribute to ヨーヨーマ 渡辺真理
Tribute to アイザック・スターン 坪井直樹

そして、巻末に解説付きのフルディスコグラフィが収録されています読物だけで90ページ、カタログ42ページと充実しています。個人的には巻頭のソニーの社員である京須偕充氏による「ソニー・クラシカル・ヒストリー」が10ページの中に簡潔にまとめられている記事が興味を引きました。この中で、米コロンビアへのブルーノ・ワルターの最初の録音は1941年のニューヨークフィルハーモニックとのベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」であったことが記されています。その後は低迷期を迎え、第2次世界大戦後米コロンビアはCBSに買収され、1948年にLPレコードを開発します。SPからLPへのフォーマットの変更はクラシックには追い風で、1950年代には次々と著名アーティストの名録音が残されていきます。そして、ステレオ時代になるとセル/クリーヴランド、オーマンディ/フィラデルフィア、バーンスタイン/ニューヨークフィルハーモニックが競ってカタログを埋め、さらにはワルター/コロンビアのプロジェクトが始動しています。黄金時代ですな。

 しかし、70年代にやや低迷し、80年代には起死回生策としてヨーロッパ進出を本格化させアーティストを拡充させていきます。しかし、グールドの死、バーンスタインの急拙と再編の波の中でCBSはソニーに買収されます。まあ、その後は2008年にRCAを完全吸収して現在に至っています。こういう歴史が時系列的に簡潔に書かれていて改めて勉強になりました。

 この2000年のエディションは映画音楽やタンゴなどのクロスオーバーソースが積極的に投入されているのが分ります。しかしそのためにメインストリームの交響曲ではワルターの物が残っただけで、セル、オーマンディは姿を消し、新たにマゼールが台頭しています。また、ヴィヴァルての音源が少なからず採用されているのも注目です。まあ、このシリーズは時代を映す鏡みたいなところがあるようですな。

 コラム記事はテレ朝のアナウンサーの坪井直樹氏や、この当時ニュースステーションでサブキャスターを務めていた渡辺真理さんらがアーティストに寄せる思いを書き連ねていて充実しています。おっと、これは非売品でした。