バーンスタインのサンサーンスとシューマン | geezenstacの森

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バーンスタインのサンサーンス
交響曲第3番「オルガン付き」

曲目/
サンサーンス/Symphony No. 3 in C Minor, Op. 78 "Organ"
1. Adagio 1:08
2. Allegro moderato 10:44
3. Poco adagio 10:27
4. Allegro moderato 1:44
5. Presto 5:41
6. Maestoso 1:58
7. Allegro 6:59
シューベルト/Symphony No. 5 in B-Flat Major, D485
8. Allegro 7:36
9. Andante con moto 10:05
10. Menuetto - allegro molto 5:37
11. Allegro vivace 5:31

 

オルガン/レナード・レイヴァー
指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック

 

録音/1976/12/13 マンハッタンセンター
   1963/02/06 フィルハーモニック・ホール

 

P:ジョン・マックルーア

 

SME 88697683652-44

 

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 バーンスタインのディスコグラフィにサンサーンスの交響曲第3番があるのは、このセットで聴くまで知りませんでした。録音は1976年ということで、この年はバーンスタインはEMIにフランス国立管と一連の録音を残していますし、翌年からは本格的にDGに録音を開始します。そのターニングポイントとなった録音ということが出来ます。この年はCBSへの交響曲の録音はこのサンサーンスとショスタコーヴィチの交響曲第14番だけです。しかし、膨大な録音を残したバーンスタインにしては、このサンサーンスに関してはこれが最初で最後の録音です。バーンスタインの交響曲全集に対するこだわりはほとんど無く、結果的に残ったのはブラームスやシューマン、シベリウス、チャイコフスキーなんて作曲家がありますが、多分意識して残したのはマーラーとベートーヴェンそして、自身の作品だけでしょう。ほとんど、コンサートに合わせての収録ですから、モーツァルトは無理としても、メンデルスゾーンとかシューベルト、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ辺りは残してほしかったですねぇ。

 

 さて、本題のサンサーンスですが、バーンスタインはこの曲をあまり得意としてはいなかったのでしょうか、長く常任を務めたニューヨーク・フィテルハーモニックの定期でもこの曲を取り上げたのは1965-66のシーズンとこの1976のシーズンのみです。CBSにはオーマンディ/フィラデルフィアの名録音がありましたから65-66のシーズンは録音を諦めたのかな?で、68年にオーマンディがRCAに移籍が決まっていたので、これはチャンスとばかりに録音をしたのかと勘ぐりたくなります。(^▽^;)

 

 ところで、この演奏びっくり仰天です。まあ、普段この曲をアンセルメとかミュンシュといった大御所や、デュトワ、ミュンフン辺りの演奏で慣れ親しんでいたら、多分びっくりするでしょう。バーンスタインはテンポが遅いということで、ウィーンフィルと揉めたことがあるそうですが、ここでのニューヨークフィルとの演奏もひょっとしたらそういう状況にあったのではと思わせるぐらい遅い演奏です。特に第1部は多分今まで聴いて来た中で一番遅い演奏でしょう。今思えば、2009年に聴いた「名古屋市立大学管弦楽団」の演奏会でのサンサーンスも同様に遅い演奏でした。あの時の指揮者はこのバーンスタインの演奏を真似ていたんでしょうかね。とにかく、アダージョがアンダンテ以下です。しかも、音色は本来のサンサーンスの軽やかなサウンドではなく、何処かドイツ的などっしりとした響きで、何か違う曲を掛けてしまったのかとCDのジャケットを改めて見返してしまいました。

 

 多分にバーンスタインのアプローチは作曲家としての視点で行なわれているようで各楽器のフレーズが克明に鳴らされています。曲の構造を勉強する分には良い演奏かもしれませんが、全体としての印象は非常におどろおどろしいものになっています。弦楽器はごそごそと地べたを這い回る様な響きに聴こえるし、テインパニの音もまるで鉄槌を打ち込む様な異様な響きです。コントラバスのゴリコリした音がそれに拍車をかけます。まるでムソルグスキーの禿げ山の一夜の世界です。

 

 第1楽章の第2部からオルガンが登場しますが、このオルガンのトーンは良いバランスでなっています。マンハッタンセンターにはオルガンは無いはずですから別録りだと思われますが、上手くミキシングされています。実際のコンサートでも、このレナード・レイヴァーが演奏していましたから、息はぴったりです。ただ、足取りはやっぱり重いです。前半だけで22分強というのはあまり無いのではないでしょうか。

 

 第2楽章になると漸く本来の調子を取り戻したというか、スピード感も出て来て、テンポは精気を取り戻しニューヨークフィルの豪快な音になって来ます。ただ、やはりサンサーンスのこの曲のもつ本来の軽やかさは感じられない演奏です。ここでも第2部となるMaestosoはやはり、ぐっとテンポが落ちます。オルガンの響きが重厚で、何か重戦車が地響きをあげながら周囲の構造物を破壊しながら前進していくような重量感です。古い話で恐縮ですが、鉄腕アトムの中にあった「史上最大のロボット」のブルートゥとアトムの決戦のシーンのバックに最適な音楽になっています。あっ、これってリメイクされた浦沢直樹版の「PLUTO」で描かれる世界ですからね。

 

 とにかく、バーンスタインのこのサンサーンスはちょいと毛色の違う異色の「オルガン付き」になっています。

 普通ならありえない組み合わせですが、A-Z順に並んでいるバーンスタインの交響曲エディションの中のこのCDは、カップリングとしてシューベルトの交響曲第5番がチョイスされています。サンサーンスで異様な体験をした後に聴くこのシューベルトは、まるで一服の清涼剤です。バーンスタインのハイドンも素晴らしいのですが、このシューベルトも中々の出来です。こちらはサンサーンスと違って分析的アプローチではなく、個人的な感想ではベームの様な演奏に聴こえます。ベームがベルリンフィルと残したシューベルトの全集は今でもスタンダードな名演で、小生としてはモーツァルトの全集より好きです。バーンスタインのこの5番を聴くと、なぜ、ベートーヴェンばかり2度も残してシューベルトを残してくれなかったのかと思えるぐらい自然体のアプローチで、暖かみのある演奏です。

 

演奏/録音年 第1楽章 第2楽章 第3楽章 第4楽章
ベーム/ベルリンPO(1971) 7:23 9:53 5:22 5:39
ワルター/コロンビアSO(1960) 5:52 10:38 5:00 6:24
ヴァント/ケルン放送SO(1984) 6:50 9:54 4:42 5:39

 第1楽章から暖かみのある柔らかい音色で、近現代音楽を奏でるバーンスタインとは一味違います。非常にゆったりとしたアレグロで、ベームの演奏も7分を超えていますが、バーンスタインはそれよりも遅いテンポです。このテンポで演奏されると、何処となく「ザ・グレート」を思わせる悠久的な響きを感じさせます。面白いことに、この曲の録音日には下記の曲目が録音されています。

 

ヴィラ・ロボス ブラジル風のバッハ第5番
ガルニエーリ ブラジル舞曲
シューベルト 交響曲第5番変ロ長調
チャベス シンフォニア・インディア
フェルナンデス バトゥーケ
レヴェルタス センセマーヤ

 

 シューベルト以外の録音はこの3日後に開催された「ヤング・ピープルズ・コンサート」で演奏された曲目です。つまり、シューベルトはコンサートで演奏した曲を完成形の形で演奏しているのですが、ラテンアメリカの曲目はコンサート前に収録したんですね。それにしても凄いバイタリティです。何にも増して、全く毛色の違う作品をたった一日でこれだけ収録してしまうのですから恐れ入ったものです。更に驚くことに、演奏会記録によると7日から10日まではちゃんとした正規の演奏会もあり、そこでは、
ELGER Cockaigne Overture
BERNSTEIN West Side Story: Symphonic Dances
TCHAIKOVSKY Symphony No.4
というプログラムが演奏されているのです。つまり、9日の日は日中はテレビのための収録をこなし、夜は上のプログラムでコンサートをするというダブル公演を指揮しているのです。タフなもんです。

 

 

 この曲のレコ芸での名曲名盤はベームやカラヤン、そしてワルター、アバド、ショルティなどの演奏が並んでいますが、ついぞこのバーンスタインは顔を出していません。小生に言わせればこれは不当ですわな。この演奏を聴いたことが無いのかもしれません。聴けば素晴らしい演奏であることは保証します。